28.話し合い(2)
結局、ゲートを開くのは俺の役目だ。
「せ、責任重大···どうイメージすればいいんだ?」
「そうね···カザマのことを強く思い浮かべるといいんじゃないかしら。この世界の、カザマのいる時間へ行くのだから」
「カザマを救いたいという思いを軸に、この世界を思い描いてみるといい」
「前向きに考えた方がいいと思います。ネガティブな感情があると、失敗しやすいので」
仲間達が助言してくれる。
絶対に転移を成功させてやるという気持ちはある。
だだ、俺だけじゃない。仲間の命も預かるのだ。そう考えると、重い責任に不安を感じずにはいられない。
不安な気持ちが顔に出ていたのかもしれない。フェンが言葉を足した。
「そうだな。カザマと再会したら何をしたいとか、何を話したいとか考えてみるのはどうだ?」
カザマと再会したら。
「···話したいこと、いっぱいあるよ。カザマがこの世界でどんなふうに旅してたのか聞きたい。突然いなくなって、家族や友達がどんなに心配してるか伝えたい。俺も異世界召喚されてから経験した色んなこと、カザマに聞いてほしい」
「あたしも、お姉ちゃんといっぱい話したい。会えたら、ぎゅーって抱きしめてほしいわ。そして、あたしも魔術師として立派になったのよって自慢したい」
俺に誘発されて、マリーナも姉に再会したらしたいこと、話したいことを口にする。
フェンとモニカが優しい目で俺とマリーナを見ている。
何が何でも転移を成功させようという気持ちになった。
「ねぇ、アイオスは?ヴァイオレットに会えたらどうしたい?」
マリーナがアイオスに話を振る。振られたアイオスは二度瞬いて、やや眉根を寄せた。
「なぜ俺に振る」
「あなたは恋人を取り戻したいから過去へ行くんでしょう?なら、話したいことやしたいこと、何かあるでしょ」
「···考えてない。成功する保証はないのだから、考えない」
「ミライを信じてないの?」
「そういう意味じゃない。最悪の可能性もあると考えているだけで」
「提案者のあなたがなんで一番消極的なの?もっと前向きに考えましょうよ。ほら、何かあるでしょ?」
「ない」
「嘘、絶対あるでしょ。恋人なら、抱きしめたいとかキスしたいとか」
仮にそういうことを考えていたとしても絶対言わないと思う。
アイオスは困ったように目を瞑り、こめかみに指をあてる。
「···転移にイメージが必要なのはミライだろう」
だから自分は考える必要はない、と。
「······ていうかよく考えたらあなた、ヴァイオレットが恋人だと明言してないわね」
確かに、俺達が勝手に二人は恋人同士だと思っているだけだ。だが、状況や屋敷の住民の話からして恋人であることは間違いないと思う。
「············」
沈黙するアイオス。話すことを拒絶していた以前と違い、今黙っているのは単純に照れ臭いだけのようだ。
「恋人なのよね?」
「··················そうだ」
だいぶ抑えた声量でそう答える。
「どのくらい付き合ってるの?」
「話がそれているんだが」
嫌そうにこの話題を拒否している。
「そのくらい教えてくれてもいいじゃない」
アイオスは腕を組んでそっぽを向いてしまった。答えるつもりはないらしい。
「ええと、話を戻しましょうか。過去に戻ったら、まずどうします?」
モニカが口を挟み、マリーナとアイオスの意識をこちらに向ける。
「少なくともカザマとお姉ちゃん達は魔王城に着くまで無事なんだから、ヴァイオレットの救出が先でしょう」
当時の状況はアイオスしか知らない。どうするのかと目線で問う。
「攫われてからだと間に合わない。だから、その前に別の場所に避難させたいと思っている」
その時の事を思い出したのか、表情が陰る。
「避難させるアテはあるのかね?」
「···正直、ない。だが、防備の整った中央大陸の王都か、侵攻しにくい雪の大陸に避難させようと思っている」
集落から連れ出すだけでは不十分だろう。魔王が配下を使ってヴァイオレットを狙わないとも限らない。魔族が手出ししにくい場所に匿う必要がある。
「妥当だな」
お茶が冷めてしまう前に口をつけながら、フェンが言う。
「では、ヴァイオレットの安全を確保した後、カザマ達に接触してガルグを討つ、という流れですね」
大まかな方針は決まった。
「他に疑問があるなら、可能な限り答えるが」
「俺が初めて会った時、森で怪我してたのはどうしてだ?何があったんだ?」
強いアイオスが重傷を負っていた理由がずっと気になっていたので尋ねる。
「怪我は、ラグズに殺されかけただけだ」
殺されかけただけとは軽い言い方だが、あの時のアイオスは本当に死にかけていた。
「···勇者を討ち、調子に乗ったラグズは、侵攻の勢いを増した。同時に同胞の犠牲も増え、さすがにこのままにはしておけないと思って、魔王城に直談判に行った。無駄に犠牲を生む戦いは止めるようにと。
だが、奴は思った以上に力に溺れ、聞く耳を持たなかった。ラグズにとって俺は邪魔でしかなかったのだろう。支配下に置いた同胞をけしかけて、殺しにかかってきた。よりによって、戦いを望まない者ばかりを」
アイオスが同胞に手を出せないのをわかっていて、あえてそういう者達を選んだのだ。
卑怯だと思うが、魔王からすれば優位に立つための作戦なのだろう。
「とはいえ、多数が相手でも後れを取りはしない。それは奴も分かっていたんだろう。だから、ラグズは俺ではなく、支配した同胞に攻撃を放った。
間違いなく殺すつもりで放たれた攻撃から皆を庇っていたが、数が多く···全ては捌ききれず、深手を負ってしまった」
あえて味方を攻撃することでアイオスの動きを封じたのだ。それは、死霊術師がとったのと同じ戦法。大切な相手を見捨てられない、アイオスの最大の弱点だ。
魔王にとって、支配下に置いた魔族は戦いのための道具でしかないのか。非情にもほどがある。
「さすがに死にかけて、逃亡を余儀なくされた。もちろん奴もそう簡単に逃がす気はなく、追い打ちをかけられた。仕方なく、魔法の爆炎に紛れて簡易ゲートを生成し、魔王城の外へ転移した」
「ゲートって、そんな簡単に開けるものなのか?」
「まさか!危険な行為だわ。安定していないゲートは、どこに出るか分からないのよ」
海の中や空の上にでたらアウトだ。アイオスは魔族だから、他種族の目の前に出てしまうだけでも危険だ。そして最悪なのは、前に聞いたように次元の狭間で彷徨うことか。
「幸い人気のない森に出て、傷が癒えるまで休んでいた。その時に会ったのが、お前だった」
つまり、あの時見た一瞬の光は、アイオスが転移してきた時の魔法の輝きだったのだ。
「あそこで留めを刺されていたら、今はなかっただろう」
その後、まさか二度も彼に命を救われることになるとは全く予想していなかった。あの時剣を抜かなくて本当に良かったと思う。
「そうだったのか···」
「聞けば聞くほど、魔王って最低ね」
「ですね。同胞の命を軽んじるとは、ひとの上に立つ資格がありません」
「魔王城でも、どんな手を使ってくるかわからんな」
手段を選ばない相手が一番怖い。そんな奴に勝てるだろうか。俺は自分が弱いことを自覚しているので、どうしても不安を拭えない。
仲間の強さは信頼しているが、俺が足を引っ張ってしまわないだろうか。
「魔王との戦い方だが、最終的にミライの剣が届けばいい。だから、俺達はミライが留めを刺せるように誘導するべきだろう」
「では、そのための連携の訓練をしましょう」
「そうだな。私達とアイオスは、まだお互いの戦い方をよく知らない」
「そうね。仲間の戦闘スタイルは知っておくべきだわ。あたしは杖を見たら分かると思うけど、魔術師よ。得意属性は炎、水、雷。けっこう広範囲の魔法も発動可能よ」
出会った頃と比べて、マリーナの魔法の威力は格段に上がっている。今ならガルグにも通用するんじゃないだろうか。
「自分は槍術を得意とします。盾を持ちますので、囮や壁役は任せてください。騎士として訓練を受けていますので耐久力はあります」
モニカが前衛に加わってくれてから戦いやすくなった。防御からのカウンター攻撃はモニカの得意技だ。
「私は錬金術師だ。基本は薬品全般を専門にしている。負傷時の手当ては任せろ。昔冒険者をしていたから前衛でも戦えるが、闇魔法も使える。
これまでは状況に応じて立ち回っていたが、アイオスが前衛に加わるなら私は後衛に撤しよう」
このパーティの欠陥はヒーラーがいないことだが、フェンの錬金術によって回復を賄っている。彼の攻撃は威力こそ剣に劣るものの、爪による素早い斬撃は見事なものだ。ブースターを持てば魔法でも十分戦えるだろう。
「俺は大剣で戦う。攻撃魔法も使えなくはないが、剣で斬ったほうが早いから魔術の修練はあまり積んでいない。戦闘で有用なのは身体能力を上げる支援魔法程度だな」
「支援魔法が使えるの?」
マリーナが驚いた声を出す。もしかして支援魔法は珍しいのだろうか。
「支援魔法の適性があるなら、回復魔法の適性もあるんじゃないかしら」
「自己再生で事足りるから、習得していない。適性があったとしても、今から使えるレベルにするには時間が足りない」
「それもそうね···」
アイオスは魔力も高いそうだから、魔術師としても大成できそうだ。
だが本人も言ったように、魔法を詠唱するより剣で斬ったほうが早い。剣士としての戦い方のほうが、彼には合っている。
「みんなは色々できるけど、俺は得意な戦い方とかないんだよな···」
みんなのアピールの後に話すのがちょっと恥ずかしい。少なくともこの世界に来たばかりの時と比べたら戦えるようになったが、みんなと比べるとまだまだだ。
「ミライは戦いのない世界から来たんだもの。気にしなくていいわよ」
「戦いのない世界?」
アイオスが少し驚きを滲ませた声で言う。戦いが日常の彼からしてみれば、想像できない世界なのかもしれない。
「戦いが全くないって言うと語弊があるけど。俺の住む国は平和だよ」
モンスターもいないし亜人も幻想種もいない。魔法のような神秘もない。
「···本当に違う世界があるのだな」
普通、違う世界の存在なんて信じないと思う。俺だって実際に召喚されるまで、異世界なんて空想の中だけの話だと思っていたのだから。
「じゃあ、連携力を高めるためにみんなでモンスター討伐に行くってことだな」
勇者の剣が完成するまでの間、この集落に滞在しながら魔王戦に備える。
頼もしい仲間達を見回し、その信頼に応えられるように頑張ろうと決意する。
「そうだ、アイオス。もう一つ聞いていいか?魔王攻略には関係ない話なんだけど」
気になっていることがもうひとつあったことを思い出した。
「なんだ」
「アイオスって、翼が生えてるよな。飛べるのか?」
アイオス以外にも翼を持つ魔族に会っているが、飛んでいる姿を見たことがない。
「いや。風魔法を併用すれば滞空できるが、飛べるわけではない」
飛行できる種族ではないようだ。
たがよく考えてみると、もし魔族が飛行可能なら空から外の大陸に侵攻しているはずだ。魔法を併用しても、海を越えられるほど長く空に居られないのだろう。
「魔族でも、翼や角がないひともいるよな」
「魔族は、いくつかの氏族に分かれていた。氏族ごとに外見的特徴や能力に差がある。今では個体数が減って混血が進み、ほとんど区別は無くなっているが」
「へぇ」
それで外見に差があるのか。フェンはもちろん、マリーナとモニカも興味深そうにアイオスの話に耳を傾けている。
「いろいろ話してくれてありがとう」
「話すという約束だったからな」
たくさん話して少し疲れたのかもしれない。軽く息をついてお茶を口に含む。
後は、魔王城内部についてもう少し詳しい話を聞き、時折雑談を交えながら時間を過ごしたのだった。




