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21.騎士団長からの依頼

団長への説明はモニカにお願いした。

王からの書状を見せ、俺が勇者だとわかると団長は喜んで俺を迎えてくれた。


「待っていたぞ、勇者殿。ここに来たということは、聖鉱石(せいこうせき)を手に入れてきたのだな。今度こそ、勇者の(つるぎ)で魔王を()(ほろ)ぼしてほしい」


第一印象よりも話しやすい人物のようだ。それでもやはり威圧(いあつ)感というか圧迫感というか、何かしらの圧を感じる。

身長差があるので長時間見上げていると首が痛くなりそうだ。


「実は、部下たちの士気(しき)が日に日に低下している。勇者殿、騎士と冒険者たちにひとつ発破(はっぱ)をかけてやってくれないか。勇者が来てくれたと知るだけでも、皆の気持ちは明るくなるはずだ」


そんなことをしたら身元を隠してここに来た意味がない。絶対にお断りだ。

どうやら、俺が彼らの為にここに来たと信じている様子だった。


勇者が魔王を(たお)しに行くのは当たり前だと思っているのだろう。

やはり基本的にこの世界の住民は、異世界召喚(しょうかん)される人間に迷惑をかけている自覚がないらしい。


「悪いけど、断るよ。俺は目立ちたくないんだ。俺が異世界から来た者だってこと、他の騎士や冒険者たちには秘密にしててくれ」


固い声で、はっきりと断っておく。身元をバラさないようにもお願いする。

生意気(なまいき)な態度に激怒(げきど)したらどうしよう、とちょっぴり恐かったが。


「そうか···それは残念だ。勇者殿は謙虚(けんきょ)な方なのだな」

勝手に解釈(かいしゃく)して、以外にもあっさり引き下がった。


「では、別の頼みを聞いてほしい」

別の頼みって何だ。何か引き受けるまで帰さないつもりか?


「士気が下がっている原因だが、魔族どもの中に、死霊魔術(ネクロマンシー)を操る者がいるようだ。死者を手駒(てごま)として操り、けしかけてくる。

(ひど)いのは、そのゾンビが魔族の死体だけでなく、こちら側の死者まで含まれていることだ。共に戦った仲間を亡くしただけでも()(がた)いのに、今度はゾンビになって襲ってくる······」


騎士団長の顔が暗い。同胞のゾンビを相手にして(つら)いのは彼も同じなのだろう。

死霊魔術(ネクロマンシー)なんて、禁術だ。


この世界にゾンビがいるなんて想像してなかった。そういうのはゲームの中だけにしてほしい。

ウイルス性のゾンビでなく魔法による死体操術(そうじゅつ)なので、()まれたらゾンビの仲間入り、なんてことはなさそうだが。


「倒しても倒してもきりがなく、犠牲者(ぎせいしゃ)が増えるばかり。

この拠点(きょてん)のさらに南に行くと、遺跡(いせき)がある。主に、ゾンビはそこから()いてくる。

もしかしたら、そこに術師が(ひそ)んでいるかもしれない。斃すことができれば戦況が変わる。彼奴(きゃつ)討伐(とうばつ)を頼まれてくれないか」


死霊魔術(ネクロマンシー)。死体を術者の意のままに操る卑劣(ひれつ)な魔法。

死者を冒涜(ぼうとく)し、かつての仲間と戦わせる。ここに集まった騎士や冒険者たちは心身共に傷付いているに違いない。


だからといって、俺達ならゾンビの相手ができると思われても困る。俺はいまだに人型の敵を斬ったことがない。死体だから斬れると思ったら大間違いだ。


後ろで一緒に話を聞いている仲間の表情も暗い。みんなは戦えるかもしれないが、進んでやりたくはないのだろう。

面識(めんしき)がある相手か(いな)かに関わらず、操られるゾンビと戦うのは心理的苦痛を(ともな)うことだ。


「······ミライ。この依頼、受けませんか」

黙っている俺に、モニカが声をかけた。


「この先、嫌でも魔族と戦うことになります。今(ことわ)っても、死霊術師(ネクロマンサー)との交戦は避けられないかもしれません」


「それほどの力を持つ術師なら、間違いなく我々の前に立ち(ふさ)がるだろうな」


「居場所がわかっているうちに、こっちから仕掛(しか)けた方がいいかもしれないわ」


フェンとマリーナも、モニカに同意する。


「······確かに、そうだな」


いい加減、決めなければならない。自身の目的の為に、魔族を殺す覚悟を。

向こうもこちらを殺すつもりでかかってくる。躊躇(ためら)って、殺されてやる訳にはいかない。


「···わかった。その頼み、引き受けるよ」


「感謝する、勇者殿。頼んだぞ」



⚫⚫⚫



依頼を引き受けた礼として、薬や食料などの物資を分けて(もら)った。

鍛冶師(かじし)がいる区画も教えてもらい、俺達はそこに向かう。


壊れた武具や、修理の終わった武具がたくさん置いてある。

背の低い、黒い肌の男が数人、(せわ)しなく動いていた。彼らが鍛冶師だろう。

作業用のつなぎに、目を保護するためのゴーグル。分厚い手袋をはめている。


恐らく、彼らはドワーフという種族だ。

そのうちの一人に近づいて声をかける。


「あの」


「なんだ!俺達は忙しいんだ!話しかけないでくれ!」


怒鳴られた。忙しそうなのは見ればわかるが、そんなこと言われても困る。


「勇者の(つるぎ)を作ってほしいんだ!」


要求を簡潔(かんけつ)に伝える。相手の声が大きかったので、つられてこちらの声も大きくなってしまった。


「なに!?おまえ、勇者か!?」


袋の口を開けて聖鉱石を見せると、ドワーフの男は奥を示した。


「ボスに言え!勇者の(つるぎ)を打てるのは、ボスだけだ!」


「ボスって誰だよ」


みんな同じ格好で、似たような顔に見えるので区別がしづらい。


「あそこにいるハゲだ!」


自分達のボスに向かってハゲとは。わかりやすいけれども。


禿頭(とくとう)の男に近付いて、話しかける。

「ボスってあんたか?」


「あぁ!?何の用だ!

装備品の修理か、発注か!?まったく、次から次へと!騎士の連中め、こき使いやがって!頼まれてもすぐにはできねぇよ!順番を待ちな!」


ドワーフってみんな口が悪いんだろうか。あと、声がでかい。


「我々は勇者一行です。王都から勇者の(つるぎ)の制作依頼が届いているはずですが」


モニカが書状を開いて見せ、俺も聖鉱石を出して見せる。


「チッ」

舌打ちしやがった。作ってくれる気があるんだろうか。


「聖鉱石はそこに置いとけ」


本当にこいつに任せていいのか不安になってきた。

俺が聖鉱石を持ったままでいると、ボスは(つば)を飛ばしながら怒鳴(どな)った。


「聖鉱石には安易(あんい)(さわ)れねえんだよ!準備ってもんがあるんだ。置いとけ!手が空いたら作ってやる」


釈然(しゃくぜん)としないが、言われた通りに聖鉱石を置く。


「作業の邪魔だ。出ていきな」

「剣はどのくらいでできるんだ?」

「一日二日で出来るわけないだろ!それにオレは忙しいんだ。二週間後くらいにまた来い!」


そう言うと自分の作業に戻ってしまった。

仲間達と顔を見合わせて、その場を後にする。


「あいつに渡して良かったんだよな?」

「口は悪いですが、鍛冶の腕は確かなはずです」


「もうちょっと愛想(あいそ)よく話してくれてもいいのにね」

マリーナも、ドワーフ達の態度はあまり気に入らなかったようだ。


(つるぎ)が出来るまで時間がある。死霊術師(ネクロマンサー)がいるという遺跡に行くとしよう。ミライ、いけそうか」


ゾンビや魔族と戦えるか、と聞いているのだろう。


「···うん。ここまで来たんだ。立ち止まる訳にはいかない」


早朝に出てきたので、時刻はまだ午前中。俺達はすぐに、死霊術師(ネクロマンサー)がいると思われる遺跡へと向かった。


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