20.オアシスの町
砂地の砂漠を抜けて、やっと砂嵐から解放された。
とはいえ照りつける日光の強さは変わらないので、暑さは相変わらずだ。
俺もみんなも、全身砂まみれで、少し払ったくらいでは汚れが取れない。
身体の汚れを落としたいという考えは全員一致したので、宿に直行する。
途中、様々な屋台が並んでいる通りを歩いた。空腹を刺激する、食べ物のいい匂いが漂っている。
宿を経営する建物は、土壁と煉瓦でできていた。屋根の下に入り、直射日光を浴びる辛さから解放されてホッと息をつく。
手早く宿泊の手続きを済ませ、俺とフェンは同じ部屋に、マリーナとモニカは隣の部屋に入る。
井戸から汲んできた水で身体を清め、乾いた衣服に着替えて、やっとすっきりした。濡れた髪を拭くのもそこそこに、俺は財布の入った鞄を手に取った。
「ちょっと買い物に行ってきていいか?」
「何を買いに行くつもりだ?暑いから私は行かないぞ」
「うん、ちょっと気になる店があって。すぐ戻るよ」
実は宿に来る途中、魅力的な屋台を見つけたのだ。絶対あれが食べたい。
宿を出て、ここまで歩いて来た道を戻る。食品を扱う屋台が並ぶ広い通りに出た。
みんな腹を空かせているだろうし、何か腹に溜まるものも買って帰ろう。
俺の目当ての屋台はその性質上、最後に買いに行くことにする。
肉と大きく切った野菜を串に刺して焼いたものと、ドライフルーツを混ぜて焼いたパンを購入する。
油紙に包んでもらったそれらを鞄に入れ、一番の目的である屋台に行く。
四人分を持って帰るには両腕に抱えなければならなかったが、きっと喜んでくれるはずだ。
落とさないように注意しつつ、なるべく早く宿に戻った。
「ただいま」
フェンが待つ部屋に戻ると、マリーナとモニカが隣の部屋からこっちに来ていて、三人集まっている。呼びに行く手間が省けた。
「どこ行ってたの、ミライ···あっ!それ!」
振り返ったマリーナが俺の手の中にあるものを見て声を上げた。
手に持っていたそれを、みんなに配る。
俺の世界のものとは少し違うが、氷を細かく削って器に盛り、上からフルーツの果汁をたっぷりかけたもの。
かき氷だ。
暑い地域で食べる氷菓は絶品に違いない。
「気が利くじゃない、ミライ」
「これは嬉しい」
「ありがとうございます」
と、みんな喜んでくれた。
「他にも食料を買って来たから、後で食べよう。でも先に、こっちが溶ける前に食べないと」
木のスプーンで氷を掬って口に運ぶ。冷たくて甘い味が口の中に広がった。
しばらく夢中でかき氷を食べる。
すだれの掛かった窓から入り込んでくる風が気持ちいい。
砂漠越えのストレスが軽減されたところで、今後について簡単に話をした。
「騎士団の拠点はオアシスの町のさらに南にあるそうです。どのくらい距離があるかはわかりませんが、旗を立てているはずなので、近づけばわかると思います」
この先は、ここまで歩いて来た砂砂漠ではなく、赤茶けた大小様々な岩石で覆われた岩石砂漠らしい。
「出発は明日の早朝にしないか。できるだけ涼しい時間帯に移動したい」
フェンの提案に全員賛成する。
日中は酷暑だが、逆に夜は一気に気温が下がる。早朝なら、大地が太陽の熱で温められる前なので行動しやすいだろう。
今日は早めに休んで、明日早くに出発することに決まった。
⚫⚫⚫
太陽が昇り始めたばかりのまだ冷たい空気の中、俺達はオアシスの町を出た。
暗くて寒い朝に布団から出るのはなかなか難しかった。夜は早めにベッドに入ったが、すぐに寝付けなかったこともあり、すごく眠い。
あくびを連発しながら歩いていると、
「ミライ、大丈夫?疲れてる?」
マリーナに心配された。
「うーん、眠いだけ···」
そう答えたが、疲れも溜まっているかもしれない。
ここまでの旅路はゆっくりしたものではなかった。
目的に向かってまっすぐ進み、足を止めてのんびりすることは少なかった。
恐らく、魔王と戦う日も近いはずだ。体調を万全にするため、休養を取るべきかもしれない。
それに、ガルグとの決着もついていない。
静かで広い荒野を歩いていると、前方に自然物ではないものが見えた。
王都でも見かけた紋章。王都騎士団の旗だ。
いくつものテントが張られており、周囲に木箱がたくさん並んでいる。物資が入っているのだろう。
一定の間隔を置いて、見張りの騎士もしくは冒険者が立っている。
近づくと、こちらに気付いた騎士が誰何の声を上げた。
「何者だ?ここは魔王軍と戦う騎士や冒険者の拠点。ただの旅人ならば去れ」
今のモニカは鎧の上に外套を羽織っているため、彼女が同じ騎士だとは気付いていないようだ。
王の書状を取り出そうとするモニカを手で制して、俺は口を開いた。
「魔族との戦いに参戦しに来た冒険者だ。誰に許可をもらえばいい?」
俺のセリフに、モニカがびっくりした顔をしている。
だって俺は、異世界の勇者だとバレたくない。もし勇者だと名乗って、「勇者様が魔王を斃す為に来た!」なんて騒ぎになったら嫌だ。注目されたり、余計な期待をされるのは迷惑でしかない。
まぁ、勇者の剣の作成依頼をしたらバレてしまうかもしれないが。
「それなら、中央のテントにいる騎士団長の所へ行って指示を貰え」
見張りの騎士はそう言うと通してくれた。
俺が知りたいのは鍛冶師の居場所だが、仕方ない。
「鍛冶師ってどこにいるんだろう」
武具がたくさん置いてある所とかだろうか。近くに行けば鍛刀の音とかが聴こえるかもしれない。
「あの、ミライ。一応、騎士団長にもあいさつに行きましょう」
俺が団長の所に行きそうに無いことに気付いたモニカが慌てて言った。
「やっぱ行かなきゃ駄目?」
「お願いします。団長はそのうち勇者がここを訪れることを知っているはずですし」
王都から、騎士団長と鍛冶師には伝令が遣わされているらしい。
そういうことなら行かないわけにはいかない。俺は渋々、中央のテントへ足を向けた。
騎士団長がいるというテントは、他のものより立派だった。他のテントの内部を見ていないので推測だが、設えられているテーブルや椅子、カーペットも他より上等なものに違いない。
外から見て、他よりテントのサイズも大きい。しかしそれは、騎士団長という肩書だけが理由ではなさそうだと思った。
なぜなら、団長はかなり大柄な人物だったからだ。
身長は二メートル以上あると思う。体格もがっしりしている。硬そうな質感の金色の髪、それと同色の髭ひげを生やしていて、ライオンの鬣みたいだった。
というか、ライオンの獣人だった。
深緑の瞳で俺達を見下ろしている。
なかなか威圧感のある外見の騎士団長様であった。




