0.魔王
キャラクター集合イラスト
新規キャラクター紹介
《カザマ》
神木 風間。主人公の兄。
魔王を斃すため、異世界から召喚された勇者。旅の末、魔王城に到着し、魔王との決戦に臨む。
《セレネ》
勇者パーティの一人。治癒魔法を得意とするエルフの魔術師。
《カーネリア》
勇者パーティの一人。兎族の魔術師。
《ガルグ》
勇者パーティの一人。黒い鎧を纏う騎士。
《魔王》
強大な力を持つ魔族。勇者にしか斃せない。
勇者が城内に侵入した、と配下から知らせがあった。
魔王として外の大陸への侵攻を開始したのだから、勇者が召喚されることはわかっていた。そして、いつかはこの魔王城に来ることも。
幾度も繰り返された、魔王と勇者の戦い。
これまでの魔王は皆、勇者に斃されてきた。
だが、今回はそうはいかない。
この日のために、何十年も前から準備をしてきたのだから。
魔王の座を得るために、手段を選ばず力をつけた。信頼できる強い配下を従え、勇者への対抗策を練った。
歴代魔王とは違う結果を出して見せよう。
城内に響く戦いの音を遠くに聞きながら、玉座につく。
ここは特等席だ。勇者の最期を見物する為の。
⚫⚫⚫
現れたのは、四人組のパーティ。
先頭の黒髪の男が口を開く。
「君が魔王?僕はカザマ。君の行いは悪だ。
この世界の為に、僕自身の為に。君を斃す」
これが、近代の勇者。
勝つのは自分、とばかりに剣の切っ先をこちらに向け、見上げてくる。
正義は自身にあると信じて疑わない瞳。
その視線を受け止めて、返す。
「異世界の勇者。この時を待っていた。
愚かなやつだ。何も気付かず、ここまで来るとは」
「カザマ。奴が何を仕掛けてきても、わたくしが貴方を守ります」
勇者のそばに立つ金髪碧眼のエルフの女。
両手で杖を握りしめ、いつでも魔法を放てるように魔力をためている。
「ククク···」
「何が可笑しいのかしら。わたしたちを舐めているわね」
桜色の髪の兎族の女が言う。こちらも魔術師らしく、杖を構えている。
我が仕掛けた罠に気付かない、愚かな者共。
勇者の仲間はもうひとり、黒い鎧を纏った男がいるが、こちらは黙したままだ。兜の隙間から、静かにこちらを見つめている。
「降りてこい、魔王。僕達と戦え!」
「断る」
勇者の言葉に従うわけがない。
「戦う気がないのか!」
「我が手を下すまでもないからだ」
「それはどういう、」
勇者が言葉を言い終える前に、それまで無言で立っていた黒い鎧の男が動く。
勇者の背を守るように立っていたその男は、守るはずの勇者へ剣を突き刺した。
「······え?」
勇者の身体を貫く大剣。
勇者の視線が自身の胸元へ落ちる。
何かを言おうとしたのか唇が動くが、声にはならなかった。
自身の身に起きたことが信じられないといった顔だ。
「ガ、ガルグ···?」
兎族の女が、呆然と男の名を呼ぶ。
「ガルグ!?あなた、何を···!?」
ガルグと呼ばれた男は、勇者から剣を抜くと、よろめいたその身体に魔力を乗せた追撃の刃を放った。
「がはッ···!?」
「カザマッ!?」
エルフの女が悲鳴のように勇者の名を呼ぶ。
勇者の身体は数メートル先まで吹き飛び、伏したまま動かなくなる。
ゆっくりと血溜まりが広がる。
エルフの女は敵である我々から視線を外し、勇者に駆け寄ると治癒魔法の詠唱に入った。
それを止めるべく、ガルグはさらに追撃しようとするが、兎族の女が立ち塞がった。杖の先端をガルグに向ける。
「どういうつもり、ガルグ!?」
魔術師のくせに、前に出るとは。まぁ、前衛が倒れたのだから仕方がない。
「どういうつもりも何も···」
笑みを浮かべ、ガルグは自身にかけた変化魔法を解く。
魔力がガルグの全身を覆ったかと思うと、次の瞬間、そこには先程とは異なる姿の男がいた。
「こういうことだが?」
ヒト族と同じだった肌は灰色のそれになり、額には角。背には漆黒の皮膜をもつ翼。
そして、先程とは比べ物にならない威圧感。
「うそ···魔族!?」
「わたくしたちを、欺いたのですか!?」
女二人は驚愕に目を見開く。
「そんな···」
呆然とガルグを見つめ、後ずさる。その兎族の女に、ガルグは剣を振り上げた。
「カーネリア!避けて!」
惨劇を予感したエルフの女が叫ぶ。
「遅い!」
ガルグの剣が振り下ろされ、兎族の女の身体を切り裂く。
「······ッ!!」
肩から斜めに走った傷から鮮血が舞う。明らかに致命傷とわかる深い傷。
返り血を浴び、ガルグは凄惨に笑う。
「今、治療を···!」
治癒魔法を使う魔術師はやっかいだ。
「させん」
エルフの女に闇魔法を放つ。闇色の渦が女の周囲に展開され、そこから産まれた刃がその身を切り裂く。
「ああっ···!!」
治癒魔法の術式が四散する。
膝をつく女共を睥睨し、忠実な配下に指示を出す。
「ガルグよ。全員にとどめを刺せ」
「仰せのままに」
「させ、ない···!セレネ、あなただけでも逃げて······!」
血を吐き、杖に縋りつきながらも、兎族の女は動いた。
閃光が瞬き、凄まじい爆発が起こり、爆音が響き渡る。
しかし、それは我々魔族を狙ったものではなかった。
爆発による煙が晴れると、魔王城の壁に大穴が空いているのが確認できた。
瓦礫が散乱し、崩れた壁の向こうに、寂れた暗黒大陸の空が見える。
状況を把握するため、素早く辺りに目を走らせる。
瓦礫の側の血溜まりに勇者が倒れ伏している。が、エルフの女の姿がなかった。
仲間を攻撃したとは考えられない。壁に穴を空け、煙で姿をくらまして、逃がしたのだろう。
魔法を放った兎族の女に目を向けると、力を使い果たして地に伏し、動かなくなっていた。
「ふん、女を一人逃がしたか」
「探して始末しますか?」
「構わん、放っておけ。
あの傷では、途中で野垂れ死ぬだろう。勇者を仕留められたならば十分だ。
よくやった、ガルグ」
「は。ありがたきお言葉」
「ククク···我が計画は完璧だった!
勇者を斃した!ガルグ、勇者を討ち取ったと、世界に知らしめよ!
勇者を喚んでも、我は倒せぬと!!
さらに外の大陸に侵攻し、我らの強さを思い知らせてやろう!!」
外の大陸を支配し、我々魔族が世界の頂点に立つ。
その為に、我は魔王になったのだから。
血と砂埃の匂いが漂う魔王城の玉座で、高らかに笑った。