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エッセイ

いつどこで、どんなふうに書いていらっしゃいますか?

作者: こまの柚里

 突然ですが、私には昔から憧れていることがあります。

 それは「ホテルに缶詰め」になること。


 ホテルに缶詰め。あれです。ほら、作家が締め切り間際にホテルの一室に閉じ込められて、出版社に書くよう迫られているあの状態。

 本が好き、それが高じて作家という職業も大好きだった私は、学生の頃からあれに憧れておりました。そして、いつか自分も体験したいと思っていたのでした。


 残念ながら私は作家になれず、そんな体験をする機会もないまま大人になってしまいました。いまはしがない専業主婦、兼ネット小説界の住人。ホテルに缶詰めされる身分は、私にとってまさに異世界です。

 でも、憧れが消えたわけではありません。消えるどころか、むしろ強まる一方だと言えましょう。


 ああ、ホテルに缶詰めになりたい。ホテルの一室に閉じ込められて小説だけを書いていたい。

「書きなさい」って言ってもらえるなんて。書くことしかしなくていいなんて。ごはんも作らず一日書いて、しかもそれを読んでもらえて本にしてもらえるなんて。


 パラダイスですか? 作家様たちは、なぜかその状態を苦行のように語っておられますが、パラダイスですよね。そうでしょう?


 ……作家様たちから苦情が来そう。

 いや、本当にその状態に置かれたらどんなに大変かは、想像しようと思えばできるんですよ。そういうエッセイを読んだこともあるし。

 でも、いまは想像したくない。ただ憧れに身を任せていたい……。


 そんな私の現在のお悩み、それは「家の中で一人になれる時間が少ないこと」です。

 私は基本的に、一人にならないと執筆できません。

 できれば、完全に家族(夫と息子二人、認知症の母)が出払っているのが理想。寝静まっているのが第二の理想。


 寝静まっていないと、いつなんどき家族がうろうろ歩き回るか、用事を持ち込んでくるか、「この人またパソコンやってるわ」と内心であきれられるかわからない。

 結果的に誰も来なくても、「来るかもしれない」状況がすでにつらい。

 だって執筆場所が居間なので、「来るかも率」高すぎだから。


 住宅事情により私室がありません。なので居間にノートパソコンを置いておき、書けそうな時間にパソコンを食卓に持ってきて執筆開始、というスタイルです。

 スマホ執筆ができないタイプでもあるので、どうしてもテーブルが必要なんですよね。


 でもこの場所って目立つのなんの。本当は執筆している姿を誰にも見られたくないのに、「さあ見なさい」と言わんばかりのこの状況……。


 しかたないので、家族には執筆していることを正直に明かしています。

「パソコン依存のぐうたら主婦」と思われるより「素人小説を必死に書いてるぐうたら主婦」のほうが、まだましなので。


 幸い私以外の誰も小説というものに興味がないため、詮索してくる人はいません。内容を気にすることもなく、完全無視してくれます。

 それもなんかな……なんかなあ。

 でもまあ、文句言われたり、あるいは読んで辛口批評されたりするよりは、ずっといいですよね。執筆用パソコンを調達してくれた夫よ、ありがとう。


 ちなみに、小説界に興味がない人の心を動かすものは、ひとえに「賞金」「書籍化」つまり物理的なものだと思われます。ネット界隈からの賛辞は、自分以外にはまず響きません。

 自分が別種の趣味人を見たときだって、ネットだけだとあまり響かないので、これはもう仕方ないことですよね……。

 

 閑話休題。


 一人時間に話を戻しますが、我が家の居間、早朝は夫(五時起きでジョギングが日課)がくつろぐ場所となっています。

 昼間は夫と学生たちはいませんが、居間の続き部屋にいる母が存在感を放ちます。

 夜に人が集まるのは当然として、深夜も、夜更かしたちが二階からひょっこり降りて来たりします。


 居間、人の出入り多し。仕方ないですよね。そういう場所なんですから。


 そんな場所でも静かになることはあるため、それを狙って急いでパソコンをあけ、執筆中画面を出す私。

 さあ、早く書かなきゃ。早くしないと一人時間が終わっちゃう、と焦るのですが……。


 ここで第二のお悩み発生。肝心の小説世界に入ることができません。

 なんていうんでしょう、あまりに日常的な場所すぎて、非日常の世界になかなか行けないんですよ。


 居間って主婦にとっては半分私室のようなものですが、食事支度をしたり掃除したり、その他もろもろの作業をする仕事場でもあります。

 だから目につくことが多すぎて……。家事をそっちのけにしているような気もして(気だけではない)、どうにも集中できないんですね。


 入りにくいのは、書いている小説の中身のせいもあるかもしれません。長編ハイファンタジーなんですが、ただいまシリアス真っ最中。

 気軽に手をつけられる状態ではなくて、以前「長編小説の後半書くの大変エッセイ」を投稿してしまったくらいです。


 元来、執筆中は無音派だった私ですが、小説世界に入りやすくするため、スマホで作業用動画を流すようになりました。

 好きなのはファンタジー系のASMRや、中世ハープのチャンネル。ファンタジーを書くにはぴったりなので、お気に入りです。


 で、それらの力を借りながらやっと世界にトリップするわけですが、ここからは誰のせいでもなく、純粋に自分に力がないゆえの問題となります。

 私、書くのが壊滅的に遅いのです。超遅筆。一時間パソコン画面と向き合っても一行も書けず、なんなら前の文を削除しちゃって文字数減らすのがデフォルトです。


 そうして一人時間が終わったときの、やるせなさときたら……。

 いくらかでもかたちが残れば、まだ救われるんだけど……。


 そうそう、少し前になりますが、BGMも全く効果がない事態になったことがありました。

 今日なら書けそう、と思った午前中のこと。いそいそと準備していたとき母から問いかけられました。

「なんでトイレが水浸しなの?」


 見に行ってひっくり返る。うそ、トイレの床三分の一くらいが水たまりに!


 あわてて拭き掃除して、恐る恐る水洗の水を流してみたら、幸いどこからも漏れてこないようです。よかった、便器にひびが入ったかと思った。または下水が逆流したとか。

 とりあえず業者さんに連絡をとり、午後に来てくれるという返事をもらい、その後は執筆できそうな静かな時間が戻ったのですが……。


 だめでした。どうしても小説世界に行けませんでした。

 現実のインパクトに負けたのです。く、くやしい……っ。


 ここまでの事件(?)はないにしても、リアルがファンタジーを侵食する感じは日常的にありまして、そうしてようやく世界に入ったら、一行も進まず時間切れ……。

 あ、逆にファンタジーがリアルを侵食することも、多々あるんですよ。これは結構楽しいです。ただ、両者のコントロールがどうもうまくいかなくて、要領の悪い日々を過ごしている次第です。


 というわけで。


 長大な前フリ(前フリだった)におつきあいいただき、ありがとうございます。

 そろそろ本題に入りますね。

 

 これを読んでくださっている皆さまは、お仕事や家事、育児、学業、ご自身の体調など様々なリアルと向き合いつつ、それぞれ工夫して執筆されていることと思います。

 いつどこで、どんなふうに書いていらっしゃいますか?


 ヘタレな自分のカンフル剤にしたいので、教えていただけるとうれしいです。よろしくお願いいたします。



付記・トイレの水漏れ


 原因はなんとウォシュレットでした。うちのは便座の脇に操作盤がくっついているんですが、その内部のゴム(?)が劣化していて、ウォシュレットを使うとゴム部分に水が入り、操作盤の下からじゃあじゃあ流れ出すという。

 びっくりです。30年経つとこんなふうになるんですねー(^_^;A


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― 新着の感想 ―
[一言] 私はこまの柚里様とは、けっこう反対のタイプかもしれないですね。 ホテルで缶詰は憧れがありますが、楽しむことが1番であるため追い込まれてするのは、私の場合性に合わない気がしますね。 そして、執…
[良い点] どうもー。長編小説後半書くの大変真っ最中の粉雪です(ゲッソリ) 優雅なホテル暮らしとは参りませんでしたが、この夏自主的缶詰を決行しました。まぁ家族が夏休みに箱根だ大阪だと出かける中、「小説…
[一言] ホテルに缶詰め、私もあこがれです……! それこそ御茶ノ水の山の上ホテルにいつか泊まってみたい……と思っていたのですが、休業する時に調べてみたらお値段に目が飛び出てしまいました笑。 書いてい…
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