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5 お引っ越しをしましょう

本日5話目、最後の投稿です。

 目的の買い物を終えた安堵も束の間、エインセルは小屋に辿り着くと、魔法を使って取りあえずの荷物をまとめた。この小屋を引き払うのだ。


 北部公爵ルートは結婚から五年目、イグリットが二十三歳の時に起きるので、まだ二年あると思って油断していた。


 この森の魔女の小屋は、魔族攻略とトリスタン攻略の時の課金アイテムを入手する場所だった。

 ヒロインは、この小屋を探し当て、そこにいる魔女から必要なアイテムを買うのだが、この小屋が物語上のショップに近い役割を果たすと思われる。


 もっとも、現実の今はそんな便利アイテムなどないのだが。


 傷薬や気付け薬、魔力増幅薬や魔除けの護符のようなものは、街でも需要が高いので作っているが、対魔族戦でどれだけ有効かは分からない。それだけならまだしも、トリスタンの好感度を上げるアイテムなどある訳がなく、そんなものがあるなら、いっそエインセル自身が欲しいくらいだ。それがあったなら、潔くトリスタンと結婚して正規ルートでアイテムを使えば、イグリットが闇落ちすることもないだろう。


 実際、ゲームのショップでは、実は甘いものが好きなのだがイメージとは真逆なので隠しているトリスタンに、プレゼントするジャムのクッキーとか、対魔族戦で有利になる魔法が付与された短剣などが置いてあるが、そんなの王都でも買えるし、何ならどれも聖女なら作れるアイテムだ。

 っていうか、好感度上げるなら、クッキーくらい自分で焼け、とエインセルは思う。


 カーラならともかく、エインセルはクッキーなど焼けないので、そもそもない。一度スティに焼いてあげたら、何も言わずに食べてくれたが、「シチューたべたい」とボソッと言われてしまった。そんな、幼児が気を遣うレベルの腕前なのだ。


 エインセルの空しい努力は置いておいて、ゲームの流れ的に気になったので、特定の人間の好感度が上がる薬的なものがあるか、一度カーラに聞いたことがあった。


 好感度を上げるというのは、一時的に魅力的に見せる精神操作に近い危ない薬ならないことはないが、結局は本人の好みまで変えるようなものは、人格破壊を起こすリスクも高いので禁止されているとのことだ。


 まあ、裏を返せば作れなくもないということだが、カーラは作らないし、エインセルも作り方を知らないのでショップとして成り立たないという訳だ。作り方が分かったとしても、絶対に作る気はないが。


 だが、そんな事情をヒロインが知る訳もなく、ゲーム感覚でいるのなら、この小屋を探しに来る可能性も大いにあり得る。


 カーラは、知る人ぞ知る腕利きの魔女だったので、面倒ごとに巻き込まれた時を想定して、いつでも住まいを移せるよう、いくつか拠点となる小屋を森の中に持っていた。


 ここは、一番人里に近い場所なので重宝していたが、街に出る手間を惜しまなければ、もっと森の奥にある小屋に引っ越しても問題ない。


 本当は思い入れのあるこの場所を手放したくなかったが、命には代えられないし、何よりスティを危険に晒すことはしたくなかった。それに、すべてが落ち着いたら、また戻ってくればいいのだ。


 そう自分を慰めて、移転の準備をする。引っ越しと言っても、空間を繋ぐカバンの応用で、普段使いの家具や食器類、食料などを、向こうから取り寄せればいいので、戸締りや作業中の物を片付けるくらいだが。


 スティはソファで大人しく座って、鳥籠から出てきたシマエナガのパンを頭に乗せながら、ジッとエインセルを待っていた。絵面は悶えるほど可愛らしいが、本当に三歳児か、と思うほど落ち着いている。


 片付けが粗方終わると、歩いて引っ越しになる。

 森の魔術と同じ空間を繋げるゲートのようなものまでだが、この小屋からゆっくり歩いて三十分ほど掛かる場所にあった。拠点を見つかりにくくするためだが、スティにはスノウの背に乗ってもらって移動だ。たまにエインセルと手を繋いで歩きたがるので、少しゆっくりめに移動した。


 不思議なほど人見知りしないスティだったので、逆に悪い人にでもついて行ってしまいそうで、エインセルが心配するほど家族を恋しがらなかった。


 ちなみにシマエナガのパンは、スノウと同じく姿を変えることができて、今は大きなイヌワシになっていた。先に新居に飛んでいって、異常がないか見てもらうためだ。


 途中の休憩で、街で買っておいたサンドイッチと、革袋に果汁を水で割った飲み物で簡単な食事をとりながら進む。スティは好き嫌いも無くて、黙々と食べているが、ゆっくりと食べる時は、気に入った味だということが何となく分かってきた。ちなみに、嫌いなものは一気に光の速さで食べる。


 いよいよ目的地に到着した。小屋から北の奥に少し入り込んだ場所に、御神木のような大きな樹があり、そこに呪文を唱えて手を添えると、ドアのように木の皮が開いた。

 新居はそのゲートから十分ほど行った場所にあり、元の小屋よりも少し大きい小屋だった。パンがその屋根の上に止まって、キュイと可愛らしく鳴いて異常がないことを知らせてくれた。


 その小屋には居間の他に寝室も二つあり、元の小屋を譲り受ける前は、カーラと二人でここで暮らしていたから、少し懐かしい気もする。


 たまに掃除はしていたので、それほど傷んではないが、エインセルは窓を全開にすると、風を魔法で起こして埃を吹き飛ばした。その時に、何やら白い毛玉のようなものがフワフワと舞って、最後にスティの頭に着地した。スティの拳くらいの大きさの、何かの生き物のようだった。


「あら、ケサランパサランだわ。スティ、その子を大事にすると幸運がくるらしいわよ」

 自分の頭の上にあって見えないのだろうが、エインセルがそう言うと、手で無理に触ろうとせず、頭に乗せたままで慎重に動いていた。そこに、シマエナガに戻ったパンも止まって、可愛いものが三つ揃ってしまった。

『こんな時にカメラかスマホがあればいいのに』


 エインセルは、ヒロインの襲来を恐れて緊張していたが、その様子を見てすっかり癒されてしまった。スティが来てくれて、本当に幸せだ。


 ほっこりしつつも、手早く必要な家具などを並べて、夕暮れまでにはなんとか住めるような状態にまでしておいた。暖炉も問題なく使えて、夕食には温かいスープを取ることができた。バスタブも運び入れ、埃っぽくなった体を洗い流し、エインセルとスティは少し早めに就寝することにした。


 パンは鳥かごに、スノウはソファに、ケサランパサランはスノウにくっついて、その日は穏やかに終わりをつげた。


 そして、エインセルは夢を見た。


 それは、不遇の幼少期から断罪されるまでの記憶だった。

可愛いものに、イヌワシ、ケサランパサラン、クッキー焼けない魔女が追加されました。


本日の投稿はここまでですが、次話は、早ければ明日の正午、遅ければ明日もこの時間に投稿します。


もし、続きが読みたいと思ってくださいましたら、ブックマークや評価などくださいますと、作者は飛び上がって着地後連続前転してオエッてなりながら感謝します。

お見せできないのが残念ですが。

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