缶ビール
私はフラフラと砂漠の街を彷徨っていた。
アスファルトに熱せられた大地は軽く40度を越えていて、視界はゆらゆら揺れて、私の意識は霞んでいく。
だけれども、私は惨めな惨めな貧乏学生、財布にはお金なんてこれっぽちも無いの。
街には湧き水もなく、命かながら自宅を目指すけれど、足ももう上がらなくって、ああ私はこのまま解けて消えてなくなるのだろうか、そう思った時だった。
「飲め。」
そう呼びかけられて前を見ると、一本の冷えた缶ビールが仁王立ちしていた。
「でも私、未成年なので飲めません。」
私は缶ビールの問いかけに答える。
冷えた缶ビールは灼熱の大地にあてられて、大粒の汗を掻きながら言う。
「規則も校則も関係あるまい、いま貴様が飲みたいのかどうか、大事な事はそれだけだ。」
私も灼熱の大地にあてられて、大粒の汗を掻く。
私の答えは決まっていた。
校則も法律も生命の危機から見ればちっぽけなもので、私の止まっていた筈の足は突然に力を取り戻し、走りよって、そして缶ビールを手に取った。
ぷしゅっ
っと栓を切って、そして、ごくしゅわっと一気に喉に流し込んだ。
「ぷはぁぁー!うめぇ!!いきかえったぜぇ!」
そう言って歓喜の声をだした私の背後に、何者かが迫っていた。
「おい・・・、コロ。何をしている。」
振り返ると、図体の良い男性教諭がそこに立っていた。
「コロ!それはお酒ではないか!未成年なのに飲酒とは!」
男性教諭は缶ビールを奪おうとしてくる。
私は奪われる前にひとおもいに飲み干してやろうとしたけれど、私の倍以上の図体を持った男性教諭に抵抗なんて出来るわけもなく、腕を掴まれ飲みかけの缶ビールを奪われてしまった。
「わー、返してくださいー!」
私は男性教諭に返すようにお願いしたけれど、
「ならん!」
と一言で一蹴されてしまった。
それならば と、
「じゃぁ先生も飲んでみてくださいよ。真夏の缶ビール美味しいですよ?」
私は先生に聞いてみた。
「・・・。」
先生は缶ビールを見ながら沈黙する。
そしてすっと口に缶ビールを口に近づけると、ごくしゅわぁっと良い音を出して飲み干した。
「うん、うまい。」
先生は納得する。
「ほらー!そして先生はもう共犯者だよ!お願い、見逃して!」
私は上手く先生をたらしこんだと思ったけれど、
「それはならん。」
軽く一蹴されてしまった。
「なんでー?」
私は先生に聞いた。
「わし、成人。お前、未成年。後で反省文を書いてもらおうか。」
私は、はぁっとため息をついて、先生の車に乗り込んで学校まで送ってもらい、その場で反省文に、
[始めての飲酒は、最高に美味しかったです。]
と 一筆書いて提出した。