消しゴム
授業中、隣の席の安芸君は一生懸命何かを消しゴムで消していた。
「何を消しているの?」
私は聞いた。
「そうだなぁ~。」
安芸君は考えた。
「まずは森先生かな。」
安芸君は答えた。
「森先生を消せるの?」
私は聞いた。
「ああ、見ててくれ。」
安芸君は”先生”と書き、それを消し始めた。
「な、なんだ!?」
突然、森先生は大きな声をだした。
そして、
「ぎゃーーーーー!!」
という悲鳴とともに消滅していった。
「すごい。」
私は言った。
「すごいだろー。」
安芸君はうれしそうに答えた。
調子がよくなった安芸君は、
「今度は母さんを消してやる。」
と言った。
「母さんも消せるの?」
私は聞いた。
「ああ、なんだって消せるさ。今から消してやる。」
そう言って、安芸君は”心の母さん”と書かれた文字を消し始めた。
消し終わると安芸君は嬉しそうに、
「よし、家に帰って確認してみてよ。絶対消えてるから。」
と自慢げに言った。
私は早退して家に帰った。
裏口を空けて家に入ると、ママはいつものように料理をしていた。
「あれ?ママいるんだ。いないと思ったのに。」
私はママに言った。
「なにいってるの。私はいつも家にいるでしょー。」
ママは答えた。
「そりゃそうだよねー。」
私はそう言いながら、少し考えた。
「ねぇ、ママ。
ママって、自分がママっていう自覚ある?」
私の問いに、ママは即答した。
「ない!」