マチビト
たとえ雨が降っていても、昼でも夜でも、その男はそこに佇んでいた。
「こんにちは、おじさん。」
私は声をかけた。
「やぁ、こんにちは。珍しいね。私に声をかける人間なんて久しぶりだ。」
男は驚いたように、それでいて少し嬉しそうに言葉を返した。
「いえ、とても寂しそうに座っていたので。」
私は言った。
すると男は、
「ならば、私のしゃべり相手になってくれるかい?」
と言ったので、私は、
「ええ、暇なときにいつでも。」
と返した。
すると男は ハハハっと笑った後、
「そう言って次の日から1度も現れなかった人間など、いくらでも見てきたよ。」
と言った。
私は、 たしかに とうなずいた後
「ここでいつも何をしているのですか?」
と聞いた。
男は少し間を置いて、
「実はね、ここである者をずっと待っているのだ。」
男は言った。
「待ち合わせしてたんですか?」
私は聞いた。
男は首を横に振った。
「いや、ここに置いていかれたのさ。かれこれもう15年にもなる。」
男は空を見上げて言った。
「ずいぶん長いこと置き去りにされたんですね。」
私は感心するように言葉を返し
「ところで、誰に捨てられたんですか?」
と、聞いた。
「まだ1歳にもならない幼き赤ん坊だった。」
男は言った。
「赤ん坊ですか?」
私は聞いた。
「うむ。赤ん坊だ。
毎日アイツとの日々は楽しかった。私たちはいつも一緒だった。
だが・・・。
あろうことかアイツは私をここに埋め、置き去りにしていったのだよ!」
と言った。
「へぇ~、ずいぶん珍しいお話ですね。」
私は言葉を返した。
「うむ、そうだろう。いつも皆、この辺で逃げるように去っていくのだ。
しかし、お主は逃げずに聞いてくれた。私は君に贈り物をしたい。」
男はそう言って、自分が座っている真下の地面を指差した。
「ここを掘ってみてくれ。」
男はそう言うとそこから立ちあがった。
私は地面に手をついて、そして土に手をめり込ませた。
少し土を掘り起こすと、そこから出てきたのは”ポチ”と字が書かれた大きな”骨”だった。
「骨が出てきましたよ?」
私はそう言って顔をあげた。
しかし、先ほどの男はもうそこにはいなかった。
私は、少し首を傾げつつ、”骨”を草むらに投げつけた後、口笛を吹いて帰った。