図書館
三題噺もどき―さんびゃくじゅうよん。
ときおり響く、人の足音。
遠くから冷房の動いている音も聞こえる。
程よい涼しさに保たれた室内は、長時間を過ごすには持って来いの場所だ。
「……」
数台の机と、それに合わせた椅子。
窓際には椅子のみが数個置かれている。
……あそこは日が当たるだろうから少しあついかもなぁ。
「……」
そんな、室内へと入っていく。
目的のものがある場所は分かっているので、そこへ行く前に寄り道をしつつ進んでいく。
「……」
ここは、ある……というか、近所に唯一ある図書館だ。
ジャンルは様々揃えられており、ライトノベルから新書や資料系など、なんでも置かれている。……何でもは少し過言かもしれないが。
「……」
入り口を入ってすぐの棚に、その月に入った新刊などが置かれている。
それと、その月や季節柄に合わせて作られた特設コーナー的なもの。
今の時期は、自由研究の本や読書感想文の書き方の本なんかが置かれている。
新刊は、今月はあまり入っていないようだ。まぁ、それ目当てで来たわけではないので気にしない。
「……」
しっかし、夏休みかぁ……。
懐かしいなぁ。
自由研究なんて、毎年母に助けられた記憶しかない。
大体ギリギリで始めてしまっていたからなぁ…自由研究なのに。
いつも何するか迷って、結果似たようなことをしていたと思う。
……今はこんな風に参考にしていいモノがあるから、少しは楽なのかもしれないな。
「……」
他の宿題とか、それこそ読書感想文なんかは、割と早いうちに終わらせていた気がする。
そのあたりは得意とは言わずとも、苦ではなかった。
でも毎年すすめられる、推薦本みたいなものは読んだことはない。いつも自分の好きな本で書いていた。
「……」
あの頃からずっと同じような本ばかり読んでいる。
大人になっても好きなものは変わらないと言うのは……大人になりきれないと言うか子供っぽいと言うか。何とも言えない気持ちにはなるよな。
ま、それにとやかく言われることはもうないので、好きにしている。
「……」
雑誌類の置かれているコーナーを素通りし、児童書などが置かれているコーナーへと向かう。
あぁ、別に。これが目的で来たからここに来たわけではない。
……なんとなく、小学生の頃の思い出に触れてみたくなったのだ。さっきの入り口の特設コーナーを目にしたおかげで、ノスタルジーというやつだ。この言葉の使い方が正しいかどうかは知らないが。
「……」
すこし低めの本棚の前に、背表紙が視界に入るようにしゃがむ。
……懐かしいなぁ。あぁ、この辺とかよく読んでたな。昔から同じようなの読んでなやっぱ。同じ作者の作品しか読まないあたりも変わらない。一度ハマると基本、同じ作者の別シリーズとかに手を出す。でもまぁ、同じようなジャンルの本も読んではいたから、そこまで狭くはない……と思う。
「……」
え……これまだ続いてたんだ…へー。読んでみようかな。まだ時間はあるはずだし。
というか別に、時間に追われているわけではないし。
なんとなくこう、謎の緊張には包まれるよな。
「……」
何なんだろうな、これ。
こういう読む対象がはっきりと書かれていると、今の私が手を出していいモノかと逡巡してしまう。なぜか、心臓がドキドキしてしまう。
別に読んではいけないわけではないのに、なぜか少し心臓が痛んでしまう。
……よくわからないよな、これは。
「……」
子供の頃は、これと逆の現象が起こっていたんだろうか……。
記憶には無いけど、案外緊張していたのかもしれないなぁ。
今でこんなに憶病者みたいな有様なんだし。その素質はあの頃からあってもおかしくない。
「……しょ」
本棚から引き抜いた一冊を手に取り、ゆっくりと立ち上がる。
こぼれた言葉に少し悲しさを覚えたが、むしむし。聞こえてない。
「……」
さて、あとは目的の本を取りにいって……。
ん。
「……」
いざ本命というタイミングで、何かが震えた。
何かも何も、私のスマートフォンなのだが。
取り出すと、ある人からの着信が来ていた。
あれ…なにかあったんだろうか……。
しかし、ここで出るわけには……。
「……」
一度本を戻し、気持ち速足で図書館から出ていく。
この時間に電話が来ることがないはずの相手だったので。
ほんの少し、心臓がぞわりとするが、気のせいだと振り払う。
「……もしもし…?」
図書館を出て、大きなロビーに出る。
ここは建物の中にある図書館なので、出てすぐ外というわけではない。
そこで少し声を落としながら、電話に出る。
「……?……何??」
何か混乱しているのか、電話越しの声が酷くあわただしい。
何を言っているのか分からない。
―が、涙声なのはわかった。
「ちょっと、おちつ―」
落ち着けと言おうとした瞬間、1つの単語が耳に飛び込む。
なんと、いった??
「……ぇ?」
誰が、何だって???
お題:心臓・図書館・電話越しの声
※続きは次の「もどき:315話」で(´ー`)※