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田根盛町の北東部はゴミである、ゴミの山である

そこは田根盛廃棄物処分場である

この貧相な町の唯一の産業と言えるのがこの施設であった


その上空より何かが降ってくる、黒い点である

それはゴミの山に着弾しヴワホッと汚い煙を上げた

しかし、それを気に留めるものはいなかった

何時もの景色だからである


いったいにまろんちゃんというのは

悪の組織の構成員やら気に入らない奴やらを

常々このゴミ捨て場に叩き込む癖を有していた


過去には某広域自営業の組長{死体}や

狩猟目的で違法入国した宇宙人{死体}等が

此処に叩き込まれてきたのである


そして、この日は仁くん{存命}であった

仁くんは泣いていた

みかんの皮とキャベツの芯と干からびた

ウェットティッシュの上で泣いていた

齧りかけのリンゴの腐乱死体と

古着の切れ端に塗れて泣いていた


それはゴミだった、ゴミ以外の何物でもなかった

このゴミの山と仁くんとには何ら異なる所が無かった

彼自身がゴミそのものであったのだ

灰は灰へゴミはゴミへとの言葉通り{註:そんな言葉はない}

ゴミがゴミ捨て場に捨てられただけの事なのだ


あれは明確な拒絶であった、明確な拒絶以外の何物でもないのだ

こと此処に至って、ようやく仁くんは

己が行動の無謀を極めたるに気づく形とあいなった


思い返してみれば土台無理な話であったのだ

このぼろきれの如き肝井仁が

学業もその他も一度として称賛された事のない

一度として認められた事のない

此の肝井仁が、あの美の化身の如きまろんちゃんと

付き合いえると夢想した事が誤りであったのだ


こう思うと自らの愚かさが恨めしくて仕方なかった

慊なくて仕方なかった


まろんちゃんとの日々を夢想する事大主義の塊にできてる自分

恐れ知らずにもまろんちゃんに告白する道化芝居を演じる自分


その光景が脳中を駆け巡ると仁くんは

火にかけられたようになってきた

まろんちゃんに告白すると方々で言って回った時の

クラスメートの表情が刃のようにして迫ってきた

その魂は高射砲弾の破片を食らって

マっ逆さまに落ちていくエアプレンのそれだった


こうなっては餅を搗くより他はない

一心に餅を搗くより他はない

仁くんは弦を離れた矢のようになって家に駆け戻ると

倉庫から臼を引っ張り出し糯米の袋を引っ掴み


家の眼前の通りにて怒りの往復機械となり餅を搗き始めた

その白い塊は一度目には吉田耕作であった

仁くんのクラスの担任の愚鈍な中年であった

ハリケーンに遭ったかのような髪型の黒縁眼鏡のビール腹であった

彼は止めなかったのだ、仁くんがまろんちゃんに

告白すると言って回っている時に止めなかったのだ


その時、この糞教師が止めていれば、こんな事にはならなかったのだ

僕がこんな目に遭うことはなかったのだ

その面上に杵を叩っ込む、ぺったんぺったんと打ち込んで

手桶の水を以って、それを捏ねると再び杵を取り上げる


二度目にはそれは岸田五郎であった

整った顔に晴れやかな笑顔の水泳部のエースであった

この学年一のスウィートフェイスがまろんちゃんを

侍らせていたのなら、如何に仁くんと言えど

かような勘違いはしなくて済んだのだ

こいつがまろんちゃんと付き合えなかったから

こいつがふがいないから僕がこんな目に遭ったのだ

その笑顔に杵をぶち込み、ぶち込み、捏ねて、捏ねて

再度、杵を取る


そして三度には、それは最後には

何よりの仇敵たる日和見和人であった

この頃になると仁くんは満々たる怒りのVolcanoであった


「ちくしょうが!あの日和見和人の寝殿造りめが!

 グラハムクラッカーを挟んだマシュマロ東尋坊めが!」


と、わけのわからぬ絶叫を上げると

やたらめったら、その顔に杵を叩っ込む


何故、日和見和人なのか?

生まれついての負け犬気質にできてる仁くんは

自身より強い相手に立ち向かうなど思いもよらぬ


相手が弱いとみると居丈高になり

強い相手には媚びへつらう

これぞ仁くんの生きざまである


思い返してみれば仁くんが和人君と親しくしたのは

ありとあらゆる点で仁くんにすら劣っていた故である


その巡航ミサイルの地形追従飛行を思わせる学業成績

不法投棄されて久しい箪笥の如きその風体

身長は低いが座高は驚くほど高く


その顔貌たるや

顔の真中にモップを突き立て

右にぐーるぐる、左にぐーるぐると捩じり回し

上に下にべっちょべっちょと撫でつけたが如くである


その和人君さえいなければ、まろんちゃんに告白する

などと言う大それた野望を抱くことは無かったのだ

身の程知らずにも大怪獣に挑み木っ端微塵にされる

事など無かったのだ


そして現在


スマホの明りに浮かび上がるのはその和人君である

その和人君がまぐわっているのである

繰り返しになるが仁くんは一度として女体を得たことがない

無論、そうなったのは全て仁くんの程度の低さに因がある

此の朽ちかけの煮干しに

好意を持つ女は此の世の何処にもいない


しかしである、その仁くんより更に程度の低い和人君が

こうしてまぐわっているではないか


その時、スマホの明りが相手の女を照らし出した


!美代ちゃんである!


!あの20点の美代ちゃんである!


全校生徒の中で2番目に美しかった美代ちゃん

2番目にスタイルの良かった美代ちゃん

2番目に成績の良かった美代ちゃん


それが日和見和人こんなやつとまぐわっているのである

考えてみれば学校の底辺の中の沈殿物たる仁くんにとり

美代ちゃんと言えど高嶺の花であったのだ

消して届かぬ憧れの向こう側にあったのだ


その美代ちゃんが2番目の美代ちゃんが

こんなやつと!

こんなところで!


和人君のくせに!

僕より成績が悪かったくせに!

僕より生え際が後退しているくせに!

僕よりお小遣いが12円少なかったくせに!


わかめ男は激怒した

満々たる殺意によって今にもExplosionしそうな程に

激怒した、全身より怒気を放散させつつ

ブルーシートに近接する


その時、奇跡が起きた、あまり起きないほうがよろしい類の

奇跡が起きた


怒りが天に通じたのか

わかめ男の、その”存在感の薄さ”は何処へともなく消散し

月明かりが、その姿をはっきりと照らし出したのである


わかめ男とは屍である

でろんでろんの水難死体である

ぷくぷく膨れたどざえもんである

正視に堪えぬ


始めに気づいたのは和人君である


「ギョワアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

と絶叫を上げ飛び退る

美代ちゃん

「キャアーーーーーーーーーーー!」

と言って、和人君に抱き着く


「和人くうんっ!」


すると和人君は美代ちゃんの肩を持って

ぐるりと正面に回し


「和人くんっ?」


「こちらの方にご用がおありでしたらッ

 わたくしは関係ありませんのでェッ!」


と叫ぶと両の手で以って美代ちゃんを

わかめ男の方にグイっと押し出し


「和人君っ?」


つむじ風の如き俊敏さで以って

操縦席に収まると共にエンジン音が響き

発進した自動車は爆音を響かせつつ

アッという間に山道へと消えた


すすり泣く声が


「ひくっ、うわああああん」


わかめ男は棒のようにたっている

如何せん脳みそのレジスタが8bitしかない、わかめ男は

斯様な事態の急進に対処する術がない

一瞬にして和人君ターゲットを見失い

呆然の体である


その時、わかめ男の視界に青い物が飛び込んできた

ポリバケツを振り上げた美代ちゃんの決死の形相であった


「こないでえぇっ!」


「パコッ!」


こうなっては逃げるより外はない

わかめ男はどざえもんである

お肌の柔らかい、と言うよりは今にも破裂しそうなどざえもんである

ぐにょんぐにょんのsoftな屍である

ポリバケツには敵わぬ


わかめ男はヨタヨタ逃げ走る

美代ちゃんはポリバケツを振り回し

悪鬼の形相で追っていく


「パコッ!」「パコッ!」「パコッ!」

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