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突然であるが、まろんちゃんは魔法少女である

田根盛町こんなところにまろんちゃんがいるのは

魔法少女の秘密基地があるためなのである

この徹底的に目立たぬ地勢を利用して

その存在を秘匿しているのである


さて、”魔法”少女たるまろんちゃんの魔法とは

如何なるものであるか?


その一つに”まろんちゃんレーダー”がある

まろんちゃんを中心をとする半径10キロメートルの球体

これがまろんちゃんレーダーの索敵範囲である

まろんちゃんはこの球体に踏み込んできた事物の脅威度を迅速に解析し

”危険”と判定された場合、直ちに然るべき措置を講じるのである


しかしこのとき、まろんちゃんが顔を上げると

そこには人のようなものが口角を釣り上げニタア、ニタアとしながら

にじり寄って来るではないか

なにゆえ、まろんちゃんレーダーはこの物体を検知できなかったのであらうか

その理由はノイズ除去システムにあった


まろんちゃんレーダーは周辺のあらゆる物

すなわち、人、物、草、音、空間の揺らぎ等々を検知してしまう

それ等をそのまま意識表層に上げてしまうと

検知したあらゆる事物が意識表層に表示され

その全体を塗りつぶし、何が何だかわからなくなってしまうのである

そこで、ある種のフィルターを用いて

取るに足らない事物をあらかじめ除去しておくのである

つまり危険物ではないもの、存在価値のないもの、人でないもの


すなわち、ノミ、ダニ、ゴミ、仁くん等は

まろんちゃんの広域警戒システムには探知されないのである

しかしながら、まろんちゃんはこの状況を一瞬で看破した

というのも、まろんちゃんにはこのように近接してくる

物体についての豊富な経験があったのである

しぐさ、目つき、口元のゆがみかた、極めつけは

その手に握りしめた恋文とおぼしき紙片


これほど諸々がそろえば

その物体が何をしようとしているのか明白であった

しかし、不審な点もあった、これまでまろんちゃんに告白してきたかぼちゃは

かぼちゃの中でもいくらかマシなかぼちゃであった


とまれ、”かぼちゃ”とは何か


まろんちゃんの精神世界には2種類の存在があった、人間とかぼちゃである

まろんちゃんと同等とまでは言えなくても{それは到底不可能であるが}

相当な金、権力、人脈、美貌、知性、教養を有する

これを人間という、その他はかぼちゃである


これまで、まろんちゃんに告白してきたかぼちゃは

かぼちゃの中でも上澄みといってよく

ただ、少々知能が低いために自身を人間と思い込んでいるかぼちゃであった

しかし、目の前にある物体は上澄みどころか

ゴミ袋の底部にしみ出してくる謎の液体といってよかった


このとき、仁くんの精神は九天の上をぴょこぴょこ舞い踊っていた

目の前には、あのまろんちゃんが不思議そうな目でこちらを見つめている

「ぐへへ、おらにかかればこんな女ちょろいもんだぜ」


思い返せば、このひと月あまり、仁くんは恋愛本をあれこれとかじり

ハイネの書から引用しいしい、キーツの詩から引用しいしい

愛しのまろんちゃんへの恋文を書いてきたのである

仁くんには勝算があった、必勝の戦略があった

すなわち、初手にして最大のアピールポイントをぶつけるのである


「おらは肝井家の惣領息子だべ、向こうの山さ

 田んぼさ、べこさ、みんなおらの親父のもんだべさ

 おらん家の嫁んなるおなごはさ、器量よしで

 慎み深くて、亭主を立てるおなごでなきゃいけねえだ

 あんたはなかなか見込みがありそうだんべ

 おらが結婚ばしてやってもいいんだべェ」


まろんちゃんは思った

「なんと小さく卑しく貧相で醜い男なのだろう

 この干からびた牛蒡の如き棒状の物体はただ容貌醜怪のみならず

 彼我の明確な戦闘力の差を理解する知性すら有していないのだ」


しかしながら、この物体はその矮小なる戦闘力にもかかわらず

まろんちゃんの有する中で最も貴重な物を奪っていた

”時間”である、まろんちゃんの時間、


何よりも希少な何よりも高価な、まろんちゃんの時間

もっとも高貴なるがゆえに

この世の最上の体験にのみ費やされるべき、まろんちゃんの時間

もっとも貴重なるがゆえに

人類文明の発展と繁栄にのみ供されるべき、まろんちゃんの時間

部屋いっぱいの金剛石よりも

見渡すばかりの油田よりもその価値大なる、まろんちゃんの時間


「ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

まろんちゃんは激怒した

その艶やかな黒髪ぱっつんの下に金剛力士の形相を浮き上がらせ

満身より裂帛の気を発し大喝した


「この助惣鱈腐乱南瓜すけそうだらふらんカボチャアアアアアアーーー

 おんどれごときがアわらわの時間を奪うんジャネェェェェッェェーー」


この時、すんごいShockWave、或いは”言圧”とでも言うべきものが

まろんちゃんの前方に向けて発せられたのである

たちまち仁くんは大地に打ち倒され木々は鳴動し

ガラス窓というガラス窓にはひびが入り

公園の先の空き家はグッシャアと倒壊しブワアァと土煙が上がった


まろんちゃんはがなります

「おんどれんめンたマアぶっこぬうてぇ*********

 にぶっこんじゃるヤアアアア

 キョ*******ーッ祇園精舎ノ肥*****

 魚アアアアーーーーーー」


その時である、仁くんの頭の中で何かが切り替わる音がした

「ウイーン、ガチャ」


およそ仁くんの境涯に”対等”の2字はない

仁くんにとり他人とは仁くんをあがめ奉る存在か

仁くんが地面にへばりついて媚びへつらう相手か

その2択なのである

そして今、仁くんの中でまろんちゃんは前者から後者に転換した


ならば、やる事は一つである

古来より本邦に伝わる秘伝の奥義、”土下座”

その平身低頭の妙をもってまろんちゃんを篭絡せしむるのである


突如、立ち上がり傲然と前進する仁くん

直立姿勢から土下座姿勢へと縮退する、その当たり判定の小さいことっ

横なぎに放たるるまろんちゃんShockWaveのその下、大地をこすり土煙吹き上げ

ズサアアアと征く仁くん、たちまちのうちに

まろんちゃんの真ん前にありて土下座の体である

「たのんます、たのんます、おらと******してくだしゃんせえぇぇぇぇっ」


まろんちゃん、どこからか

大変に大きなこん棒{こん棒とは人を殴り殺す道具}を

取り出し刹那、ぐいと振りかぶる

今こそこの*******をぺったんこにする時である

いけ!、まろんちゃん!、やっちまえ!


しかし、そこはやさしさに溢れ愛情深いこと銀河一であると

方々で自称して回っている所のまろんちゃんである

菩薩のごとき心根でもって

仁くんをぶち殺すことなく吹き飛ばすにとどめたのである


ブォン!、びゅいいいいいいいんん


かくして、仁くんは校舎の上、遥か空の彼方へと消えた


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