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小児の頃より長らく仁くんには友というものが無かった

いや、一時的にはいたのかもしれない、清、洋七、田八郎らである

しかし、人一倍の寂しがりでありながら

根がどこまでもローンウルフにできてる仁くんのことであるから

いつしか生徒のことごとくが仁くんから孤立するにいたったのである


仁くんはなんといっても”孤高”の男であった

一日、仁くんは教室の後ろのほうに陣取り腕を組み

その精神を一段高みに置いて生徒たちのその低俗なる様を睥睨していたのである


「ふんっ、ゴミ共が」


下らないスポーツに血道を上げる子供たち


「へんっ、筋肉で世の中は回ってねえんだよ脳無し共」


アニメやゲームの話に熱中するあほたち


「へへっ、そんな商業主義の製造物にいいように踊らされるなんて子供だねえ」


勉強のやり方を教えあうばかたち


「へぇー勉強が何になるってんだ、本当に大切な事はなあ

 勉強じゃわかんねえんだよお、頭でっかちの秀才気取りめが」


しかし、時として仁くんが机とノートに向かい

何やらを一心に書き込んでいる時があった

そのノートの冒頭にはこうあった「女の子******ランキング」

その内容は如何なるものであるのか?


「真由美ちゃん、12点

 顔、18点

 *******、5点

 *******、19点

 *******、3点」


この他、内容を見続けていると目を痛めるゆえ

一例の提示にのみ留めておくが

他の内容も全て此れと同様のものである

仁くんは周りの女子たちを格付けし点数をつけて喜んでいたのである


”ランキング”の冒頭には女子の容姿、人格、うるわしさを総合して

評価するとの文言が添えられてあったが、実際は専ら容姿を基準としていた

例えば、2組の千佐子ちゃんはかわいいから17点

1組の清美は四角いから3点、といった具合である


しかし例外もあった、例えば3組の木原里美は容貌こそ十人並みであったが

仁くんの掃除の仕方が雑であるとして注意したので

100点満点中の6点となった、もっとも

仁くんの掃除の仕方は実際に雑であったし木原里美は正しい掃除の仕方を

懇切丁寧に指導した

しかしながら、仁くんは他人に教えられるという事を最も厭うのであった。

とはいえ100点中の6点というのはそれほど低い点数というのではなかった

なぜなら、この田根盛中等学校には”高天原栗たかまがはらまろん”がいたのである


まろんちゃんは美少女である、それも古今東西天上天下に

比類なき美少女である

もし、かのメネラオスがまろんちゃんを一目見たならば

たちまちヘレネをぬか床に打っ棄り

まろんちゃんに吶喊したに違いない

もし、かの玄宗帝がまろんちゃんを一目見たならば

たちまち楊貴妃をダストシュートに突っ込み

まろんちゃんに入れ揚げ狂ったに違いない


まろんちゃんには100点中の100点を与える他なかった

無論、満点中の満点ではまろんちゃんの美を表現することなどできぬ

さはさりながら、アホの劣等生にして根が案外と形式尊重主義にもできてる

仁くんは”100点中の二百万点”といった表現は

どうにも落ち着かないのである


問題は他の女子に与える点数である

まろんちゃんを除けば20点を最高点数にするほかはない

無論、まろんちゃんと他の女子との差は80点どころでは済まぬ

この二者には月とスッポン、工業用純水とヘドロ

光武帝劉秀とジョン欠地王の如き差があるのだ


しかしながら根が大の算数嫌いに出来てる仁くんは

他の女子の容姿のばらつきを表現するのに20より下の

数字では慊いのである


それにしても数百人はいるこの学校の女子たちを0から20までの

整数で評価するのはなかなかに困難で

仁くんはその乏しい脳みそを全開にブン回して

机の上で七転八倒していたのであるが

そこに横から口を出してきたのが、かの日和見和人であった


日和見和人というのは元来博愛精神に満ちた男である

その証拠に、和人君は自己紹介する機会のあった時は

常に以下の言辞を弄していた


「僕の長所はなんといっても他者を慈しむ心を

 忘れない事です、僕はとても優しいのです。」


そして今、和人君は仁くんに対してその慈愛の心を

顕したのである


「嗚呼、あの仁くんは何時も教室の後ろの方の席で一人でいて

 なんて惨めで哀れなんだろう

 慈愛の心に溢れたこの僕が友達になってあげましょう」


この時、仁くんは2組の佳代ちゃんに8点を付けた所であった

和人君 「おめえ佳代ちゃんは16点だよお」

仁くん 「なにヲっ、あのエドセル面は10点いかないだろヲ」


かくして、仁くんと和人君は周りの女子たちの容貌の程度を

日々議論するようになったのである


仁くん 「千代子の顔はしいたけの裏側みたいだべ

     1点がてきとうだべ」

和人君 「だどもぅ千代子はすらっとしてスタイルが良いべ

     頭に紙袋をばかぶせれば15点はいけるだべ」

仁くん 「いんや1点だア

和人君 「10点だよヲ」

仁くん 「1点っ」

和人君 「10点っ」

和人君 「真知子はどうだア」

仁くん 「真知子は正面から見るとにんじん、横からは三日月だ

     アんなに顎がとがってちャア何かの拍子に机に刺さりそうだべ」

和人君 「グロくはないから3点ぐらいだなア、次は久美だア」

仁くん 「校庭の隅に地蔵様があるだろを?」

和人君 「あるなア」

仁くん 「あれを横倒しにしたら久美の顔になるだべ」

和人君 「2点てえところかな、ところで美代ちゃんは可愛いよなア」

仁くん 「美代ちゃんは20点だア」

和人君 「でもよお、美代ちゃんでもまろんちゃんと並べたら

     ピカピカのスポーツカーと中央分離帯に突っ込んで

     ひしゃげた大八車みたいだべ

     こう点数つけていってもよヲ、まろんちゃんが絶対の一番だア

     まろんちゃんと付き合うこともできねえに

     こんなことしてなんの意味があるだア」


ここで肝井仁の”美意識”とでも言うものについて付言しておこう

いったいに仁くんは”添え物”をやけに愛好する癖を有していた

それはヒーロー映画にて主役を補佐する微妙な強さの脇役

アイドルグループのセンターの周りで跳ね回る

平均よりは美しいメンバー等である


「それらが主役を際立たせるから」だけでない

主役に自らの精神を投影して

自らが中心になる悦び、他者を従える悦び

とでも言うものに浸るのである


話を戻す


仁くん 「食いもんにはなア付け合わせってえものがあるだべ

     カレーには福神漬けだべ

     いっくらおいしくてもカレーだけじゃたんねえべぇ」

和人君 「でもよヲ、福神漬けがあってもカレーがねえじゃねえかよヲ

     おら達風情じゃアまろんちゃんには相手にされないよヲ」

仁くん 「ヴぁアカ、まろんちゃんみたいなのはなあ

     思いをむけられるってえのになれてねえんだよ

     ああいうお金持ちでぬくぬく育ってきたってぇ手合いはア

     ちらっとロマンチックな恋文でも見せてやりゃあコロリだよコロリ」

和人君 「そういうもんかなア」

仁くん 「そういうもんだよヲ」


無論、如何に根が激甘グラブジャムンにできてる仁くんと言えど

本気でまろんちゃんと付き合えると思っているわけではない

先の言辞は”売り言葉に買い言葉{状況があっていないかも知れないが}”

と言うものである

妄想世界に喉元まで浸かりながら根が案外と現実主義者リアリストにもできてる

仁くんは自らがまろんちゃんと付き合いえるとの発想は

はなからふとこっていなかった

かような空想に浸ったことは此れ迄、只の一度として無い

つまり”まろんちゃんと付き合う自分”という図が一瞬

仁くんの脳中に閃いたのはこの時が最初であったのである


これは先ほどのやり取りによって想起されたものであるが

根がむやみと自分に甘く、また脳中の景色を美化する悪癖持ち

にもできてる仁くんは、この”まろんちゃんと付き合う自分”

と言う光景が、なんかこう

やけに様になっているやうに感じ始めたのである

こうなると、先ほどの自身の言が思い出されてくる


「まろんちゃんみたいなのはなあ

 思いをむけられるってえのになれてねえんだよ

 ああいうお金持ちでぬくぬく育ってきたってぇ手合いはア

 ちらっとロマンチックな恋文でも見せてやりゃあコロリだよコロリ」


これは案外と正鵠を射ているやもしれぬ

なんといってもまろんちゃんは実に浮世離れしているのである

おそらく親の厳重な管理下にて蝶よ花よと育てられてきたに相違ない

であれば純真な心を持っているに相違ない

それなら容貌で異性を区別することなどあるはずがない

その高潔な魂は同じく高潔な魂にこそ共鳴するに相違ない

すなわち、まろんちゃんは仁くんのようなおとこにこそ

惹かれるに相違ない


この自分、他の軽薄な”お子様”達とは一線を画す自分

ゲームやらスポーツやらの幼稚な”お遊び”に

耽溺する他の子供達とは決定的に異なる自分

学校から親から押し付けられる諸々を疑いもせず

受け入れる他の子供達とは違い世界の本質を見抜いている自分


この自分こそまろんちゃんに最もふさわしいのではあるまいか

そして、この周りとは一味も二味も異なる自分はさぞかし

まろんちゃんの目を引いているに違いない

社会のまやかしに惑わされぬこの自分であれば

未だ世間を知らぬこのいたいけな美少女を導いてやれるに相違ない

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