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かように失敗が続くと如何に根が無反省体質に出来てるわかめ男であっても
その前途暗澹たるを覚えずにはいられなかった
所詮その実体がわかめにすぎない己が身のか弱さを嘆かずにはいられなかった
「ちくしょう!肝井仁如きに海藻が憑りついて
それでいったい何が出来るってえんだバカヤロー!」
真夜中の海岸にて萎れきっているわかめ男の視界に光が滑り込んできた
その白い乗用車は海岸にて停車しライトを消す
ドアが開いて二人ばかりが外に出て
砂浜にブルーシートを敷いたと思うと
なんともはや、まぐわい始めたではないか
わかめ男は暫し呆気に取られたが
やがて岩陰から岩陰へと躍進しつつ近寄っていく
無論、半分は興味本位である
人間であった頃を含め一度として女体を得たことのない
わかめ男はこのような行いに対して真にナイーブな
或いはプリミティブな反応を示すのであった
ではもう半分は何か?
”怒り”である、繰り返しになるがわかめ男は一度として女体を得たことがない
それどころか、その前段階、つまり女性と交際した経験もない
そして驚くことなかれ
女性に好意を持たれた事すら一度としてないのである
ハゲのアホ面のチビにして品性のねじくれ曲がった
わかめ男には誰一人として近づいては来なかったのである
わかめ男は怒っていた
自らを蔑ろにする世界に対して怒っていた
「おらをその辺のシジミ扱いしやがっでぇ!」
とあれ、先ずは物見遊山である
わかめ男は、そのブルーシートより3メートルばかり離れた岩陰へ
するっと隠れるとそれを凝視した
不意に光が現れる、着信があったのかスマホの画面が点いている
男の姿が浮かび上がる
ぷくぷく膨れた焼きもちを泥土に転がしたような風体のその男
その頭部だけを箪笥の引き出しに放り込みギィーーーっギィーーーっと
無理に押し込もうとしたかのような顔貌のその男
日和見和人である
わかめ男はこの海岸の町に存する種々雑多な
生物の中で日和見和人というのを最も嫌っていた
わかめ男が肝井仁であった頃
田根盛中等学校の生徒であった頃
仁くんの唯一の友達{少なくとも外からはそう見えた}
であったのがこの日和見和人であった