最終話
「ドスッ」
マンションの影の狭小なゴミ置きに何かが着弾した
暫くして粉塵が収まると、泣き声と思しきが聞こえてきた
「びぃぃぃぃぃーーーーーん」
和人君は泣いていた、この日、何度目になるかわからぬ
泣き声を上げていた
この様をニタニタしながら眺めている者がいた
わかめ男である
何といっても此の世に他人の不幸ほど面白いものはない
その不幸な奴が和人君ともなれば尚更である
そして、わかめ男にとり此の出来事の意味はそれだけではなかった
此れは最初の勝利であるのだ
”わかめ男にとって”だけではない
仁くんにとっても此れは最初の勝利であるのだ
思い返してみれば仁くんが誰かに勝ったことは
只の一度としてなかった、それどころか
自身の生まれ持った怠惰と僻み根性と投げ出し癖と
他者に責任を押し付ける思考様式に一時的にでも打ち勝った事は無い
生まれて此の方、負けて負けて負け続けてきた仁くんにとり
此れこそが最初の勝利であったのだ
わかめ男が、或いは肝井仁が、個人的に嫌っている奴が
ゴミに塗れて泣きはらしているというのは勝利に違いない
それは、かつて経験したこともない悦びであった
心の深奥より迸る痺れるような悦びであった
わかめ男は踊っていた、全く無意識のうちに踊っていた
それは、パラパラとハカと太極拳とブレイクダンスの
混じった奇怪な踊りであった
勝利の喜びの踊りであった
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
真夜中の海岸を屍が走っている、ホラー映画そのものと言ってよい光景である
走りながら屍はピコピコ跳ねている
その心中は、これからへの期待でウキウキ浮きたっているのである
今度は田島清、給食のみかんを横から
つまみ食いしたそいつをやっつけてやるのだ
そして、その次は安田康介をぶちのめすのだ
いけ!いけ!わかめ男!、人類文明をぶっつぶせ!
完




