12
和人君は外を歩いていた、ぬか漬けの香りを漂わせ歩いていた
その心は嵐のようだった、このような時こそ”母”に
縋りつきたかった、しかし、それはもはや叶わぬ事であって
新たな母を見繕うあての一つもありはしないのだ
しかし和人君には、もう一つ自らを慰める術があった
それは何かを殴ったり蹴りつけたりして鬱憤を発散させる事である
しかしながら、心根の優しい優しい和人君は決して生き物{人を含む}
を傷つけることはしない
彼が傷つけるのは始め道路であり岩石であった
しかし、面白くないのである
当然ながら岩を殴りつけたところで先方より何か反応が
返ってくるはずもない、只、自身の手が痛むだけである
其処で和人君が目に付ける事となったのが
自動販売機である、それを殴りつけ蹴りつけしていると
何やら中でガシャガシャ言うのである
そして時にはライトが消える事もあるし
取り出し口に落ちてくるジュースと言う景品が貰える事もあるものだ
こうして和人君は気に入らない事が或る時には
ひたすらに町内の自動販売機を殴りつけ蹴りつけてきたのである
余談ではあるが此の田根盛町においては
十数年前より自動販売機が殴打され破壊される事例が頻発していた
此れに対し自販機メーカーは此処が売り上げの少ない地域
ということもあり、長らく放置してきたのであるが
この度ようやくに重い腰を上げ、ある抜本的な対策を施した
しかしながら、当然の事に和人君はこのことを知る由も無かった




