11/14
11
後に残されたのは畳にめり込んだ小男と
部屋の隅ですすり泣く女であった
和人君はその心中で叫んでいた
世界の理不尽に対する叫びであった
普段、信仰心のまるでない和人君であっても
この時ばかりは神を呪わずにはいられなかった
「嗚呼、何故に神は我を見捨てたもうたか」
このささやかな願い、すなわち本物の母を得て
そして慰めてもらうことすら叶わないのか
しかし、いくら嘆いてみても此れは、結句どうにもならぬ事なのだ
やはり芳恵で我慢するより他はないのだ
和人君はどうにか畳より這い出すと
芳恵に近づいて行った
「お母さあああああああん」
其処に降ってきたものがあった
ぬか漬けであった
大根に人参、牛蒡に茄子、丁度食べごろの芳醇なそれであった
その向こうに壺を振り上げた芳恵の姿があった
その表情は先程の美代ちゃんと同様のそれであった




