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英雄誕生

 はるか過去、神々が世界を治めており、その独裁に対して人間という勇敢な種族が反旗を翻した。

 戦いの中、人間は神という圧倒的な存在の前に無力を感じ、救いを求めたのだ。

 英雄。

 その頃から、人間にも力を持つ者たちが戦場に現れ始めた。

 そして、ついに人間は神々から人間たちだけの世界を手に入れたのだ。


 そして、人間の世界を手に入れるために戦った英雄たちの筆頭だった五人がそれぞれ王を名乗り世界を治めた。

 剣王、国を守る制度を整備し騎士道を掲げ世界を纏め上げた。

 拳王、人間の強さを求める心を持つ者のための居場所を作った。

 鍛王、人間の生活を豊かにするための道具を多く作り上げた。

 魔王、人間が神に対抗するために得た神秘を研究する環境を整えた。

 薬王、人が寿命以外で死なないように多くの薬を開発した。


 人間は王たちを先頭に争いの傷を癒していった。

 王が死んだあとも、平和は続き、神々との戦いは伝承となり、人々は平和な世界を当たり前のものだと享受するようになっていた。



 そしてついに、戦いは再び起こる。

 人間は再びーー英雄を求める。


 ◇


 鍛王が収めていた地域の一つ、街の外れにある家に一人の鍛冶師の男が住んでいた。

 男は町の人と積極的に関わることはせず、一人、鍛冶場で武器を作り続けた。

 家の外に作られた鍛冶場は常に熱気が籠り、金属音が響く。男は道具で金属を打ち、鍛え、成型する。


 男が周りを拒絶する性格だった故に、この場所に訪れる人は滅多にいない。男は作った武器を行商人に卸しに行く時のみ人前に顔を出す。男の外見は黒に赤が混じった長い頭髪、そして瞳は金色、身体も人間の中で大きく、街に出れば目立つ風貌をしていた。

 今日は珍しく、そんな孤独な生活を送る男の家に訪れる客人がいた。


 客人は顔を穴の無い仮面で覆い、頭はフードを被っている。体の形もローブで覆われているため男か女かも分からない。両手で胸の前に箱を抱えている。腰には一振りの剣が携えられている。


「時がきた。お前の子だ」


 客人は男に向かって一言告げ、胸前に抱えていた荷物を男に手渡す。

 荷物と表現したが、箱の中には赤子が包まれていた。

 男は荷物を受け取り、布に包まれた赤子を見るが、その表情は一切変わらない。


 客人の端的な言葉を男は十分に理解していた。

 男の過去がこの現状を生み出しており、そこに後悔はない。

 そして、これからしなければならない自分自身に課せられた義務も理解していた。


 男は荷物を受け取り、何も言わずに戸を閉める。


「あのお方をお忘れなきよう」


 戸の先から客人は男に向かって警告を発した。

 男は初めて表情を変えた。変えたといっても片方の眉を少し歪めただけだった。


「……当たり前だ」


 ぶっきらぼうにそう言い放った。

 そして背を向けたまま客人に初めて訪ねた。


「この子の名はアカイア。彼女はそう名付けました」


 男はその名を聞いて、目に優しさが宿る。

 男の名前はデミ・パーシアス、アカイア・パーシアスという英雄の卵の父だ。


 ◇


 アカイア・パーシアスは十五歳になった。


「親父! 今日こそ出て行くからな」


 アカイアはこのセリフを一年毎に自身の父に言い放ち、すでに三回止められている。

 彼はまだ一度も家の外に出たことがなかった。

 十分な教養を得るものは家の中に揃っており、世間の十五歳と同程度の学習は受けられた。父はそれを理由に外出を認めなかった。父がいない間に家から脱出しようとしても父お手製の鍵を開ける方法が分からず、扉はもちろん窓ですら彼自身の力で開けることができなかった。


 この世界には魔法というはるか昔人類が神々と戦う時に生み出した術がある。剣と魔法の二つが戦う術であり、剣王と魔王がそれらを学ぶ環境を整えた。世界の様々なところに剣王ギルドと魔王ギルドというものが建てられ、世界の平和を守るために日々研鑽を積んでいた。


「いいだろう」


 そして、アカイアは十五歳になり、魔法を学ぶために家を出る。魔法学園ピトリーノに入学するのだ。

 彼の父もそのことを認めていた。父はこの十五年で彼が持つ鍛冶の技術を教え、最低限戦うための知識を伝えていた。だが、アカイアに剣の才能はなく、戦う術として魔法を学ばせることにした。


 アカイアを見て父は彼女の面影を感じる。


 髪は黒に彼女と同じ銀が混じっており、瞳は俺と同じ金色だった。外見だけなら俺に似ているが才能は彼女の方に寄ったようだ。


 この十五年で今のアカイアに教えられる技術は教え切った。だが、俺自身に魔法の才はない。彼女の血を引いている以上、人の中に溶け込める程度の才では済まないだろう。

 戦う術を教えることはできても、社会に溶け込む方法は俺には教えられなかった。


 神々との戦いの残滓である神獣がこの世界には多く生息している。

 神界に繋がっている神門がこの世界にはいくつも残っており、そこから神獣が現れる。

 人間は剣王ギルドと魔王ギルドが中心となって神獣からこの世界を守っているのだ。


 アカイアが突出した才を示した場合、成熟する前に戦場に赴くことになるかもしれない。

 だから、この子を外に出すのが怖い。

 しかし十五年、これ以上はアカイアのためにはならないだろうから、魔法学園への入学を許した。


「これを持っていけ」


 デミ・パーシアスはアカイアに儀式剣を放り投げた。


 アカイアはそれを片手で受け取る。限界まで荷物が詰められ、はちきれそうになっている鞄を彼は背負っている。だが、十五年間鍛えた彼はふらつくような軟な身体をしていない。

 アカイアは右手で剣の持ち手を握り、鞘から引き抜く。その儀式剣の刃には今まで習ったことのない文字が刻まれていた。切れ味がありそうな剣ではない。


「何この剣」


 アカイアは剣に魔法の属性を付与する方法として魔法文字を剣に刻むことは教わっているが、彼自身はこの剣はその方法とは違うように感じていた。魔法文字に魔力を流すことで剣に魔法の属性を付与できる。彼は儀式剣に刻まれた文字に魔力を流そうとしたが剣に使われている材質のせいか、魔力が弾かれてしまう。


「……お守りみたいなものだ。持ってけ」


 アカイアは不思議そうな顔をしながらも、黙って剣を大きな鞄の横に刺した。


「じゃあな」

「……いつでも帰ってこい」


 無愛想なのは親に似たのかアカイアもデミ・パーシアスもぶっきらぼうに言葉を交わした。


 魔法学園ピトリーノは山を越えたその先にある魔王が収めていた場所の本拠地ローマロアにある。一度行けばそう簡単に帰ることができない距離だ。アカイアも今日は馬車に乗せてもらって山を越える。


 アカイアは父に背を向け出発した。

 扉が閉まる音を背中に受け、父は立ち上がった。


 十五年の子育てを終え、男はまた鍛冶場で金属を鍛え始めた。




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