03-2.奴隷のお仕事
「おはようございます。アイラ様」
アイラが無言で差し出した手提げ鞄を受け取り、半歩後ろについて朝の日差しの降る通学路を歩く。
奴隷業務その1。朝のお迎え。
アルカーノ学園は全寮制なので、通学と言っても敷地内を10分歩く程度だ。
それに男子寮と女子寮は隣同士なので、迎えに行くことに特に労力はない。
「アイラ様。今夜、新入生歓迎のダンスパーティが開催されます。お忘れなきよう」
「そう言えばそうだったな。忘れてた。チッ。面倒だ」
わかりやすい不機嫌な表情を浮かべるアイラに愛想笑いを送る。
奴隷業務その2。スケジュール管理。
アルカーノ学園はヴァンパイア界隈では名の知れた名門校。学舎であると共に太いパイプを築く社交場でもある。
純血のアイラはそう言う場に当然招待される。
混血ヴァンパイア共がパーティを積極的に開くのは彼女ら純血にコネを作る為と言っても過言じゃない。
毎日のように開催されるパーティに参加する忙しい彼女のスケジュールを管理するのも従者の務めだ。
後はその3、帰りの送迎して任務完了。
ちなみにオレのような眷属がパーティに参加する事はもちろんない。
従者の仕事と言ってもそんなものだ。大した事はない。
......4つ目を除けばの話だが。
「そうだ。忘れてた」
前を歩くアイラがクルッとターンして、オレの襟を掴んだかと思うと、勢いよく道の脇にあったベンチに無理やり押し倒すように座らせた。凄い力だ。
「飲ませろ」
座るオレに跨るみたいに覆い被さって舌舐めずりする姿は肉食獣そのもの。
ヴァンパイアーーしかも純血が『あれ』を忘れるはずないか。
素直にシャツのボタンを2個外して首筋を露わにする。
そこにアイラの熱い吐息がかかる。
「うん、相変わらず良い香りだ」
「ぐっ......」
首筋に舌を這わされる。
ピチャピチャと鳴る水の音が鼓膜に届いて身体が震える。
奴隷業務その4。血液提供。
ちくりと針を刺された様な痛みが走る。
従者になって1週間、この血を啜られる感覚には一向に慣れない。
それに合わせて嫌なのが、アイラは血が飲みたくなればどこでも構わずオレの血を求める事だ。
今も寮から出てきた他の生徒達がオレ達を横目でチラチラ見てきて恥ずかしい。
普通、ヴァンパイアは周りにバレない様に吸血行為を行うのだが、アイラは違う。
通学中だろうが授業中だろうがお構いなし。
白昼堂々、すぐにでも殺したいやつに人前で血を飲まれる。
これが耐えがたい程の屈辱なのだ。
「......ふぅ。お前の血はいつも美味いな」
「......ありがとうございます」
「ふふ、良い顔だ。行くぞ、遅れる」
口元を拭ったアイラはさっきとは打って変わって、上機嫌そうな笑みを浮かべている。
誰のせいだよ。
心の中で毒づき、苛立ちが態度に出ないよう注意しながらシャツの襟を正して再びアイラの半歩後ろについて歩く。
やっぱりこいつ、人前で血を飲んだ後のオレの反応見て楽しんでやがる。サディストめ。
だがこの仕事、悪い事ばかりじゃない。
やつの趣味趣向、習慣なんかも少しずつわかってきた。
このまま自然に接し続けて情報を吸い取れば、こいつを殺せる材料が確実に集まる。
「どうしたリッド、遅れているぞ」
「申し訳ありません」
どこまでもどこまでも追いかけて、この屈辱を必ずお前を殺す事で晴らしてやる。
少し開いた間を小走りで埋めてアイラの後ろに続いた。
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