03-1.奴隷のお仕事
「失礼承知ではっきり言わせてもらう。君はバカだ」
丸めた雑誌で叩かれた頭からポンとマヌケな音がなった。
その通り過ぎてぐうの音も出ない。
独特の薬品の匂いに混じってほのかに香るタバコの匂い。
アルカーノ学園、保健室。
呆れ顔でため息をつく、端正な顔に眼鏡を乗せた白衣の黒髪女性の顔をまともに見れない。
彼女の名前はニナ・アップルシード。
ヴァンパイアハンターのエージェントで長年アルカーノ学園に保健医として潜入しているスパイだ。
「冷静沈着、天才ヴァンパイアハンターと呼ばれる君はどこに行った?」
「......面目ない」
入学式でのあの粗相。
みんなの努力を全て無駄にするところだった。
「純血を舐めるな。まあ、長年探し続けた親の仇を前にすれば、冷静沈着と呼ばれる君も、さすがに年相応の男の子に成り下がるってことかな?」
「......んんっ。そんな事より本題に入っていいか?」
「照れてる照れてる。咳払いなんてしちゃって」
「からかうな」
「ごめんごめん。従者の仕事はなにかって話だよね?」
「ああ」
「いやー、さすが天才ヴァンパイアハンター! まさか『真紅』のアイラ・ハニーシュナップのハートを射止めて従者になっちゃうなんて!」
「......だからからかうな」
「そんなカリカリしないしない。素直に褒めてるだよ? あ、そうそう、言い忘れてたけどこの部屋、外に情報が漏れない様に色々細工してあるから安心して話して大丈夫だよ」
言われなくても最初からそこは心配してない。
凄腕と言われるニナがこんなペラペラ喋ってるんだ。
何もないはずがない。
「従者の情報、希少過ぎて集めるのに苦労したんだから。あ、読んだら燃やしてね」
「わかってる」
機密文書取り扱いの基本中の基本だ。
ウィンクと共に差し出されたのは一枚の羊皮紙。
それを受け取り、文字を目で追う。
「アイラの従者になったのは本当に冗談抜きでファインプレーだよ。純血は未だ謎に包まれてる。下手に探れば命がいくつあっても足りないからね」
タバコに火をつけたニナが紫煙をくゆらせる。
「............やりたくない」
煙を嗜むニナは意地の悪そうな笑みを浮かべている。
「そう言うと思ったよ。でもやりませんなんて選択肢は存在しない」
そんなことわかってる。
ニナの持つライターを引ったくって羊皮紙を燃やす。
1、2、3は我慢できる。だが4は無理だ。絶対出来ない。
「リッド、従者の仕事は4つだ。たかが4つ。君含め、我々が命懸けで追いかけて追いかけてやっと辿り着いたアイラの背中だ。プライドなんていう、ちんけな感情に負ける事なく、噂通り冷静沈着な君が従者の仕事を完遂し、情報収集してくれることを期待しているよ」
......くそったれ。こいつ、嫌いだ。
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