エピローグ
「この度、アルカーノ学園生徒会長に就任した、アイラ・ハニーシュナップだ」
石造りのホールに割れんばかりの歓声が上がる。
入学式でも使われたこの重厚感のあるホールのステージで、アイラの所信表明演説をステージの袖で観察する。
こんな人前でよく平然と話せるな。
見ているこっちは汗をかくほど緊張してるっていうのに。
「あなた、震えてますわよ? 大丈夫ですの?」
「ああ......」
副会長に就任したシャルロットに心配されてしまった。
あの戦いの後、学生、教師含め、ブラッド・ラバーに関するかなりの数の学校関係者が処分された。
その足固として、騒動を鎮めた中心人物を学生の代表である生徒会に就任することになったのだが......
「頼みますわよ書記さん。まったく、こんな腑抜けが純血を倒したヴァンパイアハンターとは思えませんわ。襟も曲がってますし」
「そりゃ申し訳ないね」
かく言うオレも、なぜか生徒会書記というポジションをあてがわれてしまい、アイラ同様、全校生徒の前であいさつしなければならい状況に置かれている。
「おいリッド、シャルロット様に向かってなんだその口の聞き方は」
「あら会計さん」
次はお前かザロード。
眉を八の字に曲げたザロードがオレを睨んでいる。
「おまえは私の友だが、純血の方々への失礼は見過ごせん」
別にオレはおまえのこと、友とは思ってないがな。
しかしこいつ、中々にしぶとい。
黒いローブの二人との闘いで逃げ回ったおかげで運良く生き延びた。
本人曰く、逃げてはおらず、あれで勇敢に戦っていたそうだ。
結局、黒ローブの二人は合流したオレとアイラが始末した。
「おい。会長であるあたしのあいさつを聞かずになにくっちゃべってる?」
腰に手を当て、ため息混じりでオレ達を見つめるアイラ。
「もうあいさつ終わったのか?」
「......あきれたもんだ。次はシャル、おまえの番だぞ」
「おほほっ。ちゃっちゃとかまして来ますわ」
さすがシャルロット。堂々としたステージ入りだ。
オーディエンスの熱狂的な歓声にも全く動じていない。
「たくリッド、こんな日になんでそんなボサボサな髪で来た? みっともないぞ」
「この方が落ち着くっていうか......お、おい!」
ため息をついたアイラに変装用のメガネを取られてしまった。
「ダサすぎだ。おまえはあたしの従者だぞ。ちょっとは身なりに気を使え。おい会計、整髪料持ってないか?」
「ここに」
「うむ。リッド、ちょっとじっとしてろ」
ザロードから受け取ったジェルでアイラに無理矢理髪を固められる。
「アルカーノ学園始まって以来、初めての眷属出身の生徒会役員の所信表明だ。気合いを入れろ」
「あらリッド、身だしなみ整えたの? あなたその方が品があっていいわ。あなたは私の従者候補。常にエレガントにね」
「......おいシャル。その発言は聞き捨てならんな」
「おほほっ! 恋はいつも無情ですわ」
「だから言ってるだろっ! あたしは恋などしておらん!」
「二人とも、ちょっと集中させてくれ」
「と言うか、なにをモタモタしてるの? 私の次はあなたの所信表明ですわよ。早く行きなさいな」
「わかってる」
やばい。人生で今が一番緊張してる。
ヴァンパイアハンターの初任務の比じゃない。
足がすくむ。一歩が踏み出せない。
「リッド。大丈夫だ」
ふと花の蜜のような甘い髪の香りが鼻口をくすぐった。
ついで、唇に当たった柔らかな感覚。
「おおお、おまえには、あたしがついてる」
............え?
今、なにがおきた? オレ、なにされた?
「ほら行けっ!」
顔色を髪色と同じにしたアイラに突き飛ばされたオレの身体が舞台袖からはみ出る。
瞬間、沸き上がる拍手喝采。
「いよっ! 眷属の星!」
「きゃああああっ! リッド様ぁあああっ!」
ーーーーいかん。頭が真っ白になった。
チラリと舞台袖を見る。
そこには心配そうな表情でガッツポーズをするアイラ。
「ふっ」
なんだその顔。思わず笑ってしまった。
ステージ中央に置かれた演題の前に立って会場を見渡す。
覚えた原稿は頭からすっ飛んでるっていうのに、びっくりするぐらい今、落ち着いている。
「この度、生徒会長書記にご指名頂きました、リッド・ヴァレンスタインです」
あいつといると驚くことばかりだ。
あいつといると毎日が予想外で楽しい。
きっと自分で思ってる以上に彼女に惹かれてる。
アイラ・ハニーシュナップ。
初恋相手は死ぬほど憎かったヴァンパイア。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
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