7-3.くたばれ、初恋
赤いホール響く乾いた拍手。
「予想以上の強さだよ。あのアイラが一方的にやられちゃった」
「次はおまえだ」
「そんな焦んないでよ。本当に凄いね。あの激戦の後なのに息一つ切れてない。ポーカーフェイスが上手な様だけど、そろそろ限界近いんじゃない?」
何も言わずに剣を構える。
「まあ大方ねらいは達成できたし、後は自分でがんばるかー」
「ねらいだと?」
「うん。ボクのねらいは二つ。一つは君を疲れさせる事。君が強いのは調査済みだからね。そしてひとつはシルバー・バレットの消費。あれはボクらヴァンパイアにとって脅威だからね。弾、一発しかないんでしょ?」
「どうかな?」
「ハッタリだね。もうちょっと情報のやり取りには気を使った方がいいよ」
耳を指差すピスコが笑う。
なるほど。ニナとの会話を盗聴されたようだ。
「もう君に切り札は残ってない。君達の予想通りボクは純血。戦闘スキルは君が上。だけど体力ではボクには勝てない。満身創痍のその身体でボクに勝てるかなぁ!?」
ピスコの鉤爪を剣で受ける。
「ーーシッ!」
それを捌いて右腕を切り落とす。
「あははっ! 痛いよ! 痛いよリッド! でも残念。無駄でした」
舌を突き出したピスコが腕を拾い上げて傷口にくっつける。
するとすぐにくっつき、再びオレに鉤爪を振り下ろしてきた。
「この程度の傷ならすぐに回復できる。いくら君が強くてもボクには勝てないよ!」
「そのようだ」
純血のお前に勝つには、こいつに頼るしかない。
懐から再びシルバー・バレットを引き抜き、撃鉄を起こす。
「この後に及んでそんなハッタリ、ボクには通用ーーうぐっ!?」
突如ピスコの胸から剣が生える。
「は......? な、なんで?」
揺れる燃えるような赤い髪。ライオンの様な獰猛な表情。
背後からピスコに剣を突き立てたのはアイラだ。
「なんでなんでなんで!? さっき君は死んだはず! シルバー・バレットで......まさか!?」
「まんまと罠にかかったな、バカめ。空砲だよ。オレが敵地で不用心に無線なんて使うと思ったか?」
「クソが! ハメやがったな!」
「くたばれ、クソヴァンパイア」
轟く銃声。
ピスコの額を銀の弾丸が貫通する。
「い、いやぁああああっ! 身体が崩れるっ!? 再生できない! 死にたくない!」
ピスコの身体がまるで紙細工のように崩壊していく。
「調査不足だったな。これがシルバー・バレットの効果だ」
「ふふ、あははっ! リッドぉ、君の憎しみはそんな程度だったの!?」
崩れるピスコから目を逸らす。
オレを見つめる、剣の切先のように鋭いアイラの瞳を覗き込む。
「オレはアイラを憎んでる。だがそれ以上におまえは許せない。それだけのことだ」
「......ボクが許せない? くくっ、あははっ! ......あーあ、つまんな。見損なったよ、リッド」
驚くほど醒めた声と共にピスコは崩れ落ちた。
それを見届けてアイラに剣の切先を突き出す。
「アイラ、おまえはオレの両親の仇だ」
「そうだ」
「お待ちなさいリッド! アイラは確かにあなたの両親の仇かもしれない! でもあなたの両親はアルディーノ・ハニーシュナップとの戦いで死にかけてた!」
「だが殺したのは事実だ。おまえは私を殺す権利がある」
アイラが手に持つレイピアを床に捨てた。
強い眼差し。
その瞳に一点の曇りもない。
「......答えろ。オレの父さんと母さんは強かったか?」
「ああ。強かった。間違いなく今のおまえよりもな」
「そうか」
本当は初めてアイラの剣を見た時、気づいていた。
今のアイラの実力でオレと互角程度。
幼いアイラが歴代最強と呼ばれた父さんと母さんを倒せるはずがない。
オレの復讐は終わったのだ。いや、そもそも始まってもなかったのかもしれない。
血塗れのロングソードを手放して天を仰ぐ。
ボヤける視界。
悲しい、悔しい、虚しい。
様々な感情が押し寄せて、胸が押し潰されそうだ。
「泣いているのか?」
「泣いてない」
「......シャキッとしろ。お前はあたしの従者、だろ?」
「なに言ってる? オレはお前を殺そうとしてたんだぞ?」
「してた。過去だろ? 今は......未来は違うとあたしは思ってる」
さっきまで剣を握っていた手が温もりに包まれる。
戻した視線の先に花が咲いたような笑顔があった。
「リッド・ヴァレンスタイン。改めてお願いする。あたしの従者になってくれないか?」
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