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01.純血種 アイラ・ハニーシュナップ




「新入生総代、アイラ・ハニーシュナップ」

「はい」


 空席なく埋め尽くされた石造りの重厚感のある巨大なホールに少女の声が響く。


 同じく新入生であるオレ、リッド・ヴァレンスタイン十五歳は、ホールの三階席から豆粒ほどしか見えない少女に視線を向ける。


 遠目でもわかる洗練された優雅な所作。


 燃える様な赤い髪を腰の辺りで揺らしながら壇上に向かって大股で歩く少女の姿に、辺りがざわつく。


「あれがアイラ様......まさに絶世の美女。なんとお美しい......」


 何がお美しいだ。適当言いやがって。こんな遠目でわかるわけないだろ。

 隣で寝言を言う同級生をチラリと盗み見て、壇上の赤髪少女に再び目を向ける。

 

 アイラ・ハニーシュナップ。オレの両親の仇。


 今すぐにでもアイツの額に銀の弾丸をめり込ませてやりたい。だがそれは出来ない。ここ、アルカーノ学園はヴァンパイア共の巣窟だからだ。


 隣で鼻をだらしなく伸ばして壇上を見つめる同級生も周りに立つスーツ姿の教員も全てヴァンパイア、もしくはその関係者である『眷属(けんぞく)』だ。


 下手に動けばアイラを殺す前にオレが殺される。

 こんな三階席じゃ尚更だ。


「あのぅ、大丈夫ですか?」


「え?」


 不意に背中に氷を入れられたみたいに驚いて尻が浮く。


「急に(うつ)いちゃったから。それに手、血が出てるよ?」


 いつの間にか血が(にじ)むほど握り込んでいたオレの拳を指差す、上目遣い気味に覗き込んできた少女に、慌ててポケットに拳を隠して愛想笑いで応戦する。


「大丈夫です......」


「そう? なんか気難しそうな顔してたから心配になっちゃって」


「あはは......」


 バカが。何やってんだオレは。集中力がなさ過ぎる。ここは敵陣真っ只中だぞ。


 集中しろ。

 ここまで来るのにどれだけ苦労した思い出せ。

 オレがここに潜入する為に工作してくれたヴァンパイアハンター達の苦労を無駄にするな。


 一挙手一投足が命取り。


 それを肝に銘じろ。リッド・ヴァレンスタイン。


「ここにいるって事はあなたはヴァンパイアじゃなくて『眷属』だよね?」


「うん。そうだよ」


 変装用に掛けた、ジャムのビン底ぐらい分厚いレンズを乗せた重たいメガネを鼻に乗せ直しながら頷く。


「よかった。『混血(こんけつ)』の方だった失礼に当たっちゃうから」


 警戒した小動物みたいな顔だった少女がほっと息をついた。


 ヴァンパイアには二つの種類がいる。


 一つ目は『純血(じゅんけつ)』のヴァンパイア。

 あのアイラ・ハニーシュナップがそうだ。


 圧倒的な知能と身体能力を持ち、世界の中枢に潜り込んで全てを掌握していると言われる存在。

 頭数が少ない事もあるが、表舞台に現れることは滅多にない。


 もう二つが『混血』のヴァンパイア。

 人の血が混じった雑種。純血の駒として扱われる。表舞台で一国の王なり皇帝やってるやつは大体こいつらだ。


 そして、ヴァンパイアと血縁関係にないが、ヴァンパイアを崇拝する人間、『眷属』。


 オレもこの立場でこの学園に潜入した。

 この三階席にいるやつらは大半がこれに当たる。


「よかったら眷属同士、お友達になってくれませんか? ボク、ピスコ。ピスコ・マールっていいます」


 恥ずかしそうに顔を赤らめた少女が手を差し出す。

 ......こいつならいいか。

 友達を作る手間が省けて丁度いい。積極的にではないが、友達は作るつもりでいた。


 相手は純血種。仕留めるのは長丁場になる。

 学園に潜入入学なんて面倒な手間をかけたのも為だ。

 入学したのに友達がいなくて浮いていては逆に目立って動きにくくなってしまう。


 下ろした前髪をグシャグシャにし、俯き加減に差し出された温かな手を握る。


「リッド・ヴァレンスタイン......よろしく、ピスコ」


「リッド。いい名前だね。うん、よろしく! にしても、今年は異例中の異例だよね」


 手を離したピスコが視線を壇上に向ける。


「『純血』が2人も高等部に入学だよ? それでボクらの世代、ゴールデンエイジなんて言われてるんだ」


「そうなんだ。知らなかった」


 殆ど聞いてなかった誓いの言葉は恐らくもう終盤。


 『純血』が2人。当然知っている。

 ホール最前列に座る金髪巻き髪の女、シャルロット・フランボワーズ。


 真紅のアイラ。黄金のシャルロット。


 どっちも大物。二人に組まれると厄介だ。

 任務遂行の為に二人の関係も調べなくてはならない。


「知らないって......ロイドってひょっとして眷属歴浅かったりする?」


「うん、実は数ヶ月前になったばっかりで」


 と言う設定だ。

 ヴァンパイアの世界は比較的入りやすい。

 仲介者がいれば誰でも安易に入られる。しかし抜けるのは難しい。詐欺集団みたいな世界だ。


「そっかそっか。安心して! ボクそう言うの慣れてるから! 人生15年イコール眷属のボクになんでも聞いて良いからね!」


「あ、ありがとう」


 こいつ、声がデカいな。反対隣の男がさっきから鬱陶しそうにこっちを見ている。


「ーー誓います。新入生総代、アイラ・ハニーシュナップ」


 間のいいタイミングで長い長いアイラの演説が終了した。

 スタンディングオベーション。割れんばかりの拍手が再びホールに満たされる。

 目立たない様、仕方なくオレも立ち上がる。


 壇上で振り返ったアイラの表情は自信に満ち溢れている。


 偉そうに。誰が貴様なんぞに拍手を送るか。いつかその偉そうな面、泣き面に変えてやる。


「え?」


 不意に歩みを止めたアイラがこちらを向いた。


 刺す様な鋭いエメラルドの瞳と目が合った気がして慌てて目を逸らす。


「アアア、アイラ様が僕を見てる! ねぇ見てるっ! 見てるってばぁ!」


「バカッ! お前じゃねえ! オレだオレ! アイラ様ぁあああっ! うわあぁあああっ!」


 隣で男達が悲鳴みたいな歓声を上げて抱き合いながらぴょんぴょん跳ねている。

 

「凄いねリッド。アイラ様がこっち見てるよ。うわぁ......本当、ため息出ちゃうぐらいキレイだねぇ。遠目でもわかるよ。まるで絵本に出てくるお姫様みたい」


「ああ。そうだな」


 目が、合った? まさか、な。

 チラリと盗み見た先、アイラの視線は前に向き直り、優雅な歩行で席に戻った。


 なんだったんだ、今のは......


 数千人以上いるだろう会場の、しかも三階席オレの心の愚痴を聞き当てただと?


 んなわけあるか。いくら純血でもそんな能力聞いたことがない。


 乱されるな、集中しろ。オレはアイツを殺すんだ。


 世界最強と呼ばれたヴァンパイアハンター、親父と母さんの仇をオレは討つ。




お付き合い頂きありがとうございます!


現在、鋭意作品執筆中です。


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