6-2.ヴァンパイアの王
「やはりねらいはシャルロットだったか」
西棟近くのバラ園。
アイラより遅れて着いたそこで、シャルロットをかばってアイラが何者かと戦っている。
「バカな......」
三人に気づかれないよう息をひそめて見たその光景に、思わず声が漏れた。
シャルロットがケガしている。
しかも応戦するアイラと互角以上に渡り合っている。
強い。
全身黒づくめのローブに身を包んでいるため、武器もわからない。
わかるのはかなり小柄だということぐらいだ。
「大丈夫かシャル!」
「......ええ。不意打ちとはいえ、不覚でしたわ」
「くそっ! ちょこまかと! 姿を見せろっ!」
アイラの突きが黒づくめのフードを引き裂く。
「あちゃあ。さすがアイラ様。もうちょっと素性隠そうと思ったのに」
見えた少女の顔に、肝が冷えた。
フードの下から現れたのはピスコ。
口元についた血を腕で乱暴にぬぐって、にっこりと笑った。
「シャルロット様の血、とっても美味しい。ボク、もっと飲みたいんだけどなぁ」
「ピスコ・マール。お前が一連の犯人か?」
「はい。その通りです」
ピスコが再びアイラに襲いかかる。
得物はーー伸ばした爪の様な刃物、鉤爪だ。
「ぐっ!」
「アイラ様はリッドのこと好きなんですかぁ?」
「好きじゃない!」
激しいピスコの乱撃を剣でさばくアイラが叫ぶ。
「本当ですかぁ? ダンスパーティでアイラ様、リッドに色目使ってるように見えましたよ?」
「色目だと!? ふざけるなっ! 誰がそんなもの使うかっ!」
「はたから見たらそうとしか思えませんでしたよ!」
「ぐうっ......」
アイラが負けるのは時間の問題だ。
このままほっとけば、手を汚さずアイラを殺れる。
よかったじゃないか。
でもなんだ、この胸のモヤモヤは。
「アイラ様、リッドの正体わかってないでしょ?」
「そんなもの知るかっ! あいつはあたしの従者でそれ以上でも以下でもないっ!」
「あははっ! 本気で気づいてないの? リッドはあなたが殺したヴァンパイアハンターの息子よ!」
「え?」
ピスコの蹴りがアイラの腹にクリーンヒットし、薔薇の垣根に吹っ飛ばされる。
「アイラッ!? あぐっ!?」
座り込むシャルロットに蹴りを入れたピスコは、倒れるアイラの髪を掴んで無理やり立たせた。
「ほんとマヌケよね。リッドの目的はあなたを殺すことなのに、惚れちゃうなんて。ねえ、リッド?」
振り向いたピスコがオレの方を向く。
どうやらここにいることはバレているようだ。
素直に三人の前に姿を現わす。
「リッド......」
「ほらぁリッド! 今ならこいつをすぐ殺せるよ!」
アイラの髪を掴んで乱暴に左右に振るピスコ。
確かにその通りだ。
今なら間違いなくアイラを殺せる。
だがなぜかアイラに暴力を振るうピスコに無性に腹が立つ。
気づいたら身体が勝手に駆け出していた。
「ーーえっ?」
瞬時に眼前に移動したオレに、マヌケな声でピスコが答えた。
その顔面に勢いのまま右ストレートを叩き込む。
「うぶっ!? や、やるねリッド。噂通りーーいや、噂以上に強いじゃないか。それに早い」
アイラを離したピスコがオレと距離を取る。
口元から血が滴っている。
だが手ごたえはなかった。
当たる瞬間、身体を反って威力を殺したか。
「リッド、お前......」
「勘違いするな。守ったわけじゃない。ピスコの言う通り、オレはお前を殺すためにここにいる。お前を殺すのはオレだ。あんなやつにお前は殺らせないってだけだ」
「あっはっはっ! リッド! 本当にそんな理由でアイラを守ったの!?」
「黙れ」
ピスコの言葉がいちいち心をモヤつかせる。
アイラが殺される。そう思うと心が痛む。
仇を奪われるから。それは本心。
だが、ピスコの言葉にこんなに腹が立つ理由が自分でもわからない。
「あーあ、なんか醒めちゃった。こんなリッドと闘いたくない」
ピスコが指を鳴らすと同時に、茂みからピスコと同じ黒いローブ姿の人影が現れた。
数は十。現れるまで気配を一切感じなかった。手練だ。
「装備なしで手負いの二人を守りながら戦うのは、さすがの天才ヴァンパイアハンター様でも厳しいんじゃない?」
「どうだろうな?」
「強がらなくていいよ」
再度鳴ったピスコの指の音を合図に、黒づくめの集団が動き出す。
「動くなっ! 動けはどちらかを殺す」
さすがに離れた二人を同時には守れない。
黒づくめの集団がアイラとシャルロットを拘束した。
「二人をつもりだ?」
「んー、からっからになるまで、血ぃ飲んじゃおっかなー?」
「ふざけてるのか?」
「もー、いちいち本気にしないでよ。冗談だよ。ボクは本気の君と戦いたいだけ。この子達はそのための人質として丁重に扱うよ。君が逃げるなら、血を飲み干しちゃうけど」
「お前の目的はなんだ?」
「ボクの目的? そりゃもちろん、リッド・ヴァレンスタイン。君への復讐だよ」
「オレへの復讐?」
「君に殺された仲間達の仇は討たせてもらうよ。ボクはアルディーノ・ハニーシュナップに代わりヴァンパイアの王になる者だ」
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