5-5. 舞踏会
「あいつら、どんだけ踊らせる気だ」
ダンスホールのバルコニーの手すりにもたれて一人愚痴る。
たまに吹く夜風が熱った身体を冷ますようで心地いい。
結局、アイラと踊った後、シャルロットや他のヴァンパイア達とも踊るハメになった。
自分でいうのもなんだが、引っ張りダコ。
眷属がいるのが物珍しかっただけだと思うが。
気になるのはザロードや他の男達の視線だ。
明日以降、厄介ごとに巻き込まれなきゃいいけど。
「なにをしている?」
声をかけて来たのはアイラだ。
手にはワイングラス。いったい何杯飲むつもりだ?
酔っているのだろう、頬を赤らめ目をトロンとさせている。
「ちょっと休憩です」
「さすがに疲れたか? んー、夜風が気持ちいいな。隣いいか?」
いいと言うまでもなくアイラがオレの隣にやってきた。
「なあリッド」
「はい?」
「お前は何者だ?」
スッと肝が冷える。
オレを見つめるアイラの視線。
まさか、バレた?
辺りに人はいない。
視線を合わせたまま、万が一の事態に備えて忍ばせていた武器に手を伸ばす。
「お前といると退屈しない」
「え?」
「お前といると予想外の事ばかり起きる。昨日のダンスパーティだけじゃなく、今朝のザロードとの一件とかな」
アイラの伸ばした手が頬に触れる。
「リッド。お前はずっとあたしの側にいてくれるか?」
ーーとくん。
なんだこの感じ。
胸の鼓動が痛いほど早い。
アイラの瞳を見ると吸い込まれそうになる。
こいつはオレの両親の仇。殺したいほど憎い相手。
なのに、なのになぜかその瞳から目が離せない。
「もちろん」
思わず口にしたその言葉は本心なのか、偽りなのか自分でもわからない。
頬に添えられたアイラの手が次は首筋に当たる。
「ちょっと、ノドが乾いた」
さっきからずっとワイン飲んでるくせに何言ってんだか。
「血、飲んでいいか?」
「はい」
湿っぽい水音が耳に届いてくすぐったい。
「きゃあああああっ!」
血を吸われる。そつ覚悟した瞬間、突如響いた女性の悲鳴。
悲鳴がしたのはバルコニーの下。
悲鳴と同時にアイラがバルコニーから飛び降りた。
「ちぃっ!」
ここは四階。オレもやれるが、それをするとアイラに怪しまれる。
バルコニーの横にあった螺旋階段で急いで下る。
降りた先、そこにいたのはアイラと、小さく小動物のように怯える一人の女性ーーって、
「ピスコ!?」
「リッドッ!」
オレの胸に飛び込んできたピスコの声は震えてる。
「一体なにが......」
「あれのせいだろう」
アイラが視線の先、なにかを見つめたままこちらを振り向かずに言った。
「何事ですの?」
空から降って来たシャルロットにアイラが暗闇の方をアゴで指す。
そこにいたのは迎賓館の壁に持たれて座り込む、学園指定の制服姿の一人の男。
虚空を見つめるその男の表情に、精気は一切感じられない。
恐らく、すでに事切れている。
「リッド、ピスコを連れて教員を呼んでこい」
アイラの指示に大人しく従い、オレは震えるピスコ共に職員室へ向かった。
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