覆面小説家の集いPART2
私は小泉太郎。
先日、覆面小説家の集いで、すっかり騙されて腰を抜かした小心者だ。
今度は、あの時のメンバーで小説を書き、作者を当てるゲームを開催するという通知が届いた。
開催場所はあの因縁のホテル。何か嫌な予感がする。
但し、今度はドッキリはないという。本当か?
しかし、また覆面で集まるのだそうだ。やはり怪しい。
期限は一ヶ月。短過ぎる。
遅筆の私には荷が重かったが、文字数の最低限はないそうなので、何とかなりそうだ。
但し、印刷するのではなく、CD-RWのディスクに落として持参する事になっている。
紙や印字で特定させないために、委員会で規格を統一するのだそうだ。
私はなるほどと思いながらも、面倒臭いとも思った。
そして本番当日。
また参加者は、黒い頭巾を被り、ホテルの会場に集まった。
あ。あの太った人は、確か神林光子とかいう作家だったな。
む? 名前違ってるか?
それにしても、前回より更にパワーアップしているぞ。
どんな食生活を送ると、あんな酒樽のような体型になるんだ?
しかも身長が低いから、歪な酒樽だ。
いかん、私が見ているのがばれた。彼女が近づいて来る。
「今晩は」
「今晩は」
私は頭巾で見えないのに愛想笑いをして応えた。
「実行委員会の者です。執筆された小説をお渡し下さい」
「はい」
私は携えていたアタッシュケースからCD-RWのケースを取り出し、彼女に渡した。
「ありがとうございます」
彼女は次々にそれぞれの作家が書いた小説の原稿のデータを集めて回った。
「それでは、皆さんにお渡しする原稿を印刷して参ります。それまで、お食事をお楽しみ下さい」
酒樽が言った。彼女は他の委員と共に会場を出て行った。
私はおいしい料理を食べ、ワインを飲み、楽しんだ。
やがて食事は終了し、ホテルの従業員達がテーブルを片付け始めた。
おや、と思った。
「ねえ、君、何故テーブルを片付けるのかね? 集いはこれからが本番だよ」
私が一人の従業員を呼び止めて言った。するとその従業員は、
「私共は、お食事会とお聞きしております。主催者様はもうお帰りになりましたよ」
「ええ!?」
私は度肝を抜かれた。どういう事だ?
近くでその話を聞いていた他のメンバーが、
「騙されたんや! あいつら、最初から騙すつもりやったんや!」
と叫んだので、場内は騒然とした。
「もしかして、この食事代も、ウチらに請求が来るんとちゃいますか?」
「そんなバカな。俺は払わんぞ、そんな金!」
大騒ぎになった。
しかし、食事の代金は全て前払いされており、その心配は不要だった。
「何だったんだ、一体?」
私は疑問を拭いきれないまま、ホテルを出た。
答えはそれから二ヶ月あまりたった頃に判明した。
「神村律子作 特捜刑事 相方」
そんなタイトルの推理小説が、ある投稿サイトに載っていた。
これは杉下左京氏の作品のタイトルと全く同じだ。
「パクるためか?」
私はまた騙されたのだ。そして、自分の作品が投稿されていないか、探した。
なかった。他の作家のパクリ小説はいくつか見つかったのに。
何となく寂しかった。