プロローグというよりモノローグ
ハッキリ言おう。俺は天才だ。
この国の士官学校を首席で卒業。
学校で習うことの全てはすぐに理解できたし、試験だって満点以外とったことはない。
本当かどうかは分からないが、読み書きは1歳で覚えたと、母は自慢げによく語ってくれた。
また、俺は剣術にも長けている。
士官学校時代、剣術の授業で負けたことは一度たりともなかった。
同年代の学生だけじゃなく、指導教官にだって負けたことはない。
もちろん剣術だけじゃない。槍術、棒術、格闘術その他もろもろの武術、すべてにおいて俺は長けている。
更に言おう。俺は王族だ。
それもこの国の王子である。
この国、「ラドサニア共和国」の王である<アサーム・ラディス>の息子であり、正式な王位継承権を持つのがこの俺<カンザス・ラディス>だ。
これだけじゃない。俺は顔も良い上に、身長も高い。
切れ長な目に整った鼻筋、薄い唇に黄金色の長髪が触れる様はまるで絵画のようだと評されている。
肩幅は少し狭めだが、しっかりと鍛え抜かれた筋肉は見た目以上の威圧感を対峙した相手に与えることだろう。
これ以外にも、俺の魅力はまだまだ語り切れない。
大体の楽器は一通り弾けるし、絵だって上手い。もちろん詩だって詠める。
この俺が窓辺でハープを演奏する姿を想像してほしい。きっとそれだけで貴族のご令嬢は俺に求婚すること間違いなしだろう。
そう、この俺<カンザス・ラディス>は、
頭も良く、武術に長け、身分も高く、容姿にも優れ、芸術にも明るい、
完璧な人間なんだ。
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だが、そんな完璧な俺を差し置いて、この国の英雄となった男がいる。
そう、それが俺の実の兄、<プラナス・ラディス>だ。
この国の第一王子かつ、この国の英雄である<プラナス・ラディス>、こいつはとんでもない男だ。
この男の凄さは一文で説明することができる。
”全て”において、俺よりも優れている。
この俺よりも頭がよく、この俺よりも武術に長け、この俺よりも先に生まれ、この俺よりも容姿に優れ、この俺よりも芸術に明るい。
更に、この俺よりも良い性格をしてやがる(これは皮肉じゃない、そのままの意味だ)。
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この男は、俺より4年早く生まれていることから、幸いなことに(本当に、心の底からそう思う)士官学校で一緒に過ごすことはなかった。
この男が卒業した翌年、俺は士官学校に入学した。
かの有名人<プラナス・ラディス>の弟ということで、入学当初、俺は周囲の注目をかなり集めていた。
もともと自分が王族ということもあり、多少の注目は覚悟していたが、予想を上回る好奇の目に、最初は少し面食らったものだった。
だが、その好奇の目は、次第に薄れていった。
同年代に比べ、圧倒的な成績を残す俺に注目するものはだんだんと減っていた。
誰も俺の座学、剣術の成績に驚くことはなかったのだ。
全て我が偉大な兄<プラナス・ラディス>の成績のほうが上回っていたからだ。
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俺が士官学校にて9度目の学年一位を取り、首席卒業を決めた日、この男<プラナス・ラディス>はこの国の英雄となった。
この男が、長らく続いた隣国「サンテガルド帝国」との衝突を終わらせたのだ。
大抵の国は仲が悪い。
どんな条約を結んでようが、どれだけ友好的な交流をしていようが、国同士って本当は仲が悪いのだ。
仲が良い国なんて本当は存在しないんだろう。
国というのは自分の望むままに事が進まないと我慢ならない、駄々をこねる赤ん坊のような生き物だと俺は思ってる。
当然、この国「ラドサニア共和国」と、隣国「サンテガルド帝国」も仲が悪い。
領土問題、ただそれだけの理由。
あと隣国「サンテガルド帝国」の方がちょっとだけ南にあるから、ちょっとだけ暖かいらしい。
知らんけど、行ったことないし。
そんなよくある理由で、ここ数十年、衝突を起こしていた両国だが、たった一人の男の戦略で、たった一人の男の武力で、たった一人の男の言葉で、その衝突はあっけなく終了した。
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その結果、隣国「サンテガルド帝国」はこの国の領国となり、この国の領土は2.5倍!
国民の人口も2倍、生産人口も増加して国力も大幅に増加!
我が国、水と緑にあふれた「ラドサニア共和国」は一躍世界の強国に!
この国の偉大な王様であり、俺の父上でもある<アサーム・ラディス>も大喜び!
そんなお兄様の大活躍で、自称完璧のこの俺<カンザス・ラディス>の心は完全に折れてしまったのでした。
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