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確信


 バタン!と、施錠されている部屋のドアが開き、たくさんつけていた鍵の残骸が、壊されたドアにぶら下がった。

 コトミはすぐにベッドを飛び降り身構えた。


「だれ」

 開いた扉の前にたっていた背の高い細身の男が、白く長い髪の間からコトミを見据えて言った。


「おまえ、竜族だろ」

 コトミは後ろの窓をつきやぶると屋根伝いに走ってステッキを杖に変えた。

 そして杖に飛び乗ると、超高速で夜空を駆け抜けた。


 男は、普通の魔法士では追いつけないコトミのすぐ後ろについた。

 高速で飛行しながらも数本の青白く光った短剣をコトミめがけて撃ち放ち、その全てがコトミの背中に命中した。


「グゥッ……これはあのときの」

 短剣は刺さった瞬間溶けて姿を消し、その傷跡からはコトミの血が流れた。

 一瞬体制を崩し、速度も落ちだしたコトミは、風俗街の中心に方向を変えた。


(長くは体制を維持できない……なるべく人のいるところへ)


 男はムチを出し背中の傷口をめがけて強く打ち付けた。

 打たれるたびにコトミの杖はガクンっと下がる。

 血を流したまま街なかにおりて騒ぎにしようと思った瞬間、男はムチでコトミの足を縛り上げ、近くの建物の屋根にたたきつけた。


 背中を強く打ち、グホっと血を吐くと、コトミはそのまま屋根から転げ落ちた。

 地面で体を強打し一瞬息が止まった。


 女性の悲鳴が聞こえ、あっという間に人だかりができた。

 この風俗街一番の盛り場に落下したことでコトミは助かった。

(ここに落ちたのは……正解だった……)

 閉じかけた目に、のぞき込む人の顔や、動き回る人の足下が見える。

 コトミは意識を失った。


「誰か医者のとこに運んであげて!」

「大丈夫か、死んでないか?」

「役人を呼べよ」

「馬鹿言わないでよ! 役人なんか呼んだらあんた出禁だよ!」


「チッ……落としちまったか。あーあ2回目の失敗か、まずいな」

 白髪の男はそうつぶやくと夜の空に消えていった。



 むせるような香りで意識が戻り目を開けると、ここが男性たちが遊びに来る館だと、近くに座っている女性の姿で気づいた。 体を起すと激痛が走る。


「いっつ……」

「フッ、まだ痛いでしょ、寝てなさい」


 濃い化粧と、胸元が大胆に開いたドレスに身を包んだ女性が近づいてきてベッドに腰掛けた。

 派手ではあるが、高価な装飾品とその着こなしから、身を売る商売をしている人ではないと思った。

 まだ強い痛みはあったが、傷は塞がっているようで、手を尽くしてくれたことがわかった。


「治療してくださったんですか。 ありがとうございます」

「どういたしまして。 腕のいい医者がいるから店の子に呼んでもらったの。

 それにしてもあなた……変わった体してるのね」


 ギクッっとしたが、まあいいやと思う自分がいた。

 これが軍の人間だったらかなり焦る。


 竜族のコトミの背中は、透明な皮膚の下にウロコが見える。

 エメラルドグリーンのウロコは外の光を反射すると青やピンクに輝きとても美しかった。

 大人になるにしたがってウロコは全身にまわり、やがて顔もウロコで覆われる。


 竜族の女は非常に生まれにくい。

 次の世代を残すため、少女の時期には結ばれる相手が決まる。

 そして女児が生まれるまで子を産み続ける。

 先に伴侶が死ねば相手を変えてそれが繰り返される。

 コトミはそこから逃げ出し、逃げ続けている。


 望まぬ関係を強いられるのは、風俗街の女たちと似ていると思っていた。

 そのせいか、そこで働く女性たちに対する同情も強かった。


 連れ戻そうとする竜族以外にも、竜族の女を求める人々がいる。

 成長した竜族は数体もいれば国を滅ぼせるほどの力がある。

 だが竜族は基本人族の生活圏には興味がなく、自分たち種族が平和にすごせればそれで良かった。


 竜族の女は、人族と結ばれても竜族の血を引き継ぐ強靱な人族を産み、その混血の子供の寿命は普通の人族の数倍になると言われていた。

 そして人との間に子をもうければ、その子のために必然的に命がけでその国を守る。

 人族の国や権力者は、戦力と強靱な子孫ほしさに竜族の女を狙うのだ。


 この国の王の庇護をうけているコトミも将来この国が有事のときは助ける約束をしていた。

 第一王子が竜族との結婚をひどく嫌がったため、結婚の約束はさせられずにすんだ。

 それでも王は、王子の中の1人にコトミを嫁がせることを諦めてはいなかった。


「獣人の体はたくさん見てきたけど、あなたみたいにきれいなのは初めて。

 その背中、神がかっていたわよ」


(普通の人なら獣人族だと思うよね……)


「あの、このことは、私の体のことは内緒にしてもらえますか」

「言う相手がいないわ。でも、そうね……言わない約束をしてほしいなら」


 そう言って彼女はコトミの顔の前に手を出した。

「なんかちょうだい」


 一瞬あっけにとられたコトミだったが、すぐに吹きだした。

「プッ……。アハハ……いっつ……」


「おかしな子。なんで笑うの?

 まあいいわ、今回は特別に何も取らないであげる」

「あの、でも何かお礼をさせてください」


「お礼ねぇ……。

 そうだ、あなたを診てくれた医者ね、ライトって言うんだけど。

 その医者がやっているジャスティスっていう食堂があるから、そこに食べに行ってあげて。

 場所はカーザン地区。ここからすぐよ」


 ジャス地区はメイン通りが200メートルほどしかない狭い地域で、そこにある建物にはすべて風俗店か酒場が入っている。 お金さえもっていれば夜通し遊べて、男性にとっては楽園だった。

 カーザン地区はジャス地区に隣接していて、ジャス地区から帰る人めあての食事処が多い地区だ。


「ジャスティス食堂……はい、必ず行きます!」


 ドアが開いて獣人のかわいい子が入ってきた。

「ミリアさん、みなさん待ってます」

「はいはい、さてと。 適当に帰りなさい。じゃあね」

(彼女の名前はミリア……か。

 私の名前すら聞いてこなかった。

 人に踏み込んでこないこういう感じが好き)


 店の裏口から出て、とりあえずカーザン地区へ向けて歩き出した。

 騒ぎになったことで追っ手はこのあたりにはもういないと思ったが、家がわれてしまった今、ジャス地区からは離れた方が良いと思った。


 歩きながら襲われたときのことを思い出していた。

(竜神の村の者ではなかった。

 背中に短剣を……違う、剣は残っていなかったから氷の刃?

 それを撃ち込まれて、あとはムチでつるされ……落とされた?

 落とされたんじゃなくて、つかみ損なっただけでは。

 だとすれば前回も失敗して私を落としてしまったのかも。

 殺すことではなく、さらうことが目的……。

 いったい誰が。どこかの権力者に竜族であることがばれてしまったのかもしれない)


 コトミは竜族以外にも、狙われる相手が現れたことを確信した。




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