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すれちがい(1)


 コトミの飛び去る姿を見たルイは、ジャスティス食堂へ走った。

 そこで店主のライトを呼び出した。


「突然すみません。

 ここは、以前コトミが助けた生徒の家ですよね?」


「あ、ああ、そうだが。

 あんたよく来てくれている蒼い風部隊の人だろ?

 コトミの知り合いなのか?」


「はい、ルイと言います。

 コトミのことで、ちょっとお願いしたいことが」

 ルイはコトミが近いうちに訪れそうな場所を考えたときに、ここしか思い浮かばなかった。

 頼みたかったことはコトミへの言づてで、軍の人間に頼めるような内容ではなかった。


 ルイはライトに今回の任務が大変厳しく、もう戻ってくることができないかもしれないと話した。

 その上で、すれちがってしまったコトミに、自分の気持ちを伝えて欲しいと頼んだ。


「明日の朝早くここを立ちます。

 俺がいくじがないばかりに、コトミを傷つけてしまった。

 帰ってきたら、きちんと話を……2人のことについて話をしたいから待っていて欲しいと。

 そう伝えて下さい」


「そうか……。

 わかった、必ず伝える。

 いいかルイ、これは約束だ。

 おまえは今、帰ってきたらと言った。

 だから帰ってこなくちゃいけない。

 それで……帰ってきたら2人で飯を食べに来いよ」


「はい、帰ってきたら……元気な顔を見せに来ます!」

 そして翌朝、まだ夜が明けきらぬうちに、蒼の風部隊は軍の兵士とともに出発した。



 目覚めたコトミはだるさの残る体ですぐに身支度を整えた。

 昨日のカーシャの話が気になって、いてもたってもいられず、採血の約束をすっぽかして部屋を飛び出した。

 そして考えあぐねた結果、任務の詳細を聞くためにルキアスの元を訪ねることにした。

 すでに蒼の風部隊が出発してしまっていたことを知らずに、自分も部隊に合流できないか相談するつもりだった。


 部屋に通されたが、ルキアスはチラリとコトミを見るとすぐに机の上に目を落とし仕事を続けた。

「久しぶりだな、何の用だ。おまえのおもりはミカエル様がしているはずだが」

 ルキアスは、王からミカエルにコトミの管理が移った段階で、コトミへの関わりを絶っていた。


「蒼の風部隊の任務のことを教えて下さい」

「ミカエル様に聞けばいいだろう。 私の立場では余計な話をすることはできない」


「あなたは、言えないことがあるときは口をつぐむ。

 だけど別の言葉でごまかしたり、嘘をつかない。

 ありのままが知りたいんです。

 教えてください」

 何かを書いていたルキアスの手が止まり顔を上げた。


「それを聞いてどうする」

「私にできることがあるなら手伝いに行きたい」


 ルキアスはゆっくりと席を立ちドアをあけると、廊下で控えている兵に何かを伝えた。

 そして机に戻り、後ろの棚から地図を取り出すと部屋の中央に置かれたテーブルに広げた。

 コトミもそのテーブルに近づいた。


「少し前に、王都からかなりはなれた北東の端にあるダクア村に難破船が漂着した。ここだ」

 そう言って地図の一部を指でさした。


「船には8名が乗っていたが、助かったのは2名だけ。

 他のものは治療をしたが救うことはできなかった。

 幸い助かった2名はすぐに動くことができたため、村の役人とともに王都へ陳情へ来た」


「陳情?」


「ああ、自分たちの島を救ってくれとな。

 その者たちは国に助けを求めるために船を出したんだ。

 王都にその話が伝えられたのは、その2名が救出されてから2日後だった」


 ルキアスは、地図のその村の地点から真っ直ぐ北の群島のあるあたりへ指をすべらせた。

 そこにはマキラと書かれている。


「マキラ島は知っているか?」

「はい、海底から隆起した希少な鉱石の採掘場がある島だと聞きました。

 その石はこの国の重要な交易品ですよね」


「そうだ、住民は数千人いて、島とは思えないほど町も発展している。

 このあたり一帯はマキラ群島と呼ばれ、小さな島がいくつもあるが、人が住んでいるのは一番大きなマキラ本島だけだ」

 そう言って地図上の群島のあたりを指でさしながら説明した。


 マキラ島には巻き貝のような形状の山が2つ立ち上がっていた。

 山の中も巻き貝のようにらせん状に道があり、その道にそって町が作られている。

 そのため通称、巻き貝の町と呼ばれた。


 2つの山の表面の色はそれぞれ白と灰色で、白巻き貝と灰巻き貝と呼ばれていた。

 石灰岩と花崗岩でできた山の中には、住居や店が建ち並び、採光を取るため壁に穴をあけて、たくさんの窓も作られていた。

 山の出入り口も巻き貝のように大きく開かれ、その先は砂浜で海に続いている。

 2つの山の間に採掘場がつくられ、海底から隆起し続ける希少な鉱石の掘削が行われていた。


「軍の船でも到着までには丸2日ほどかかる。

 上級魔法師が杖で飛んでも魔力補充薬を飲みながら1日以上はかかる場所だ。

 おまえが全力で飛べば半日かもしれないがな。

 難破船はそのマキラ島から来た。

 乗っていた者たちは口々にイプピアーラが出たと言っていた」


 その名前を聞いたコトミは驚いた。

「イプピアーラが……いきなり島を襲ってきたんですか?」

「ああ、群れで襲ってきたとすれば、それを率いている知能の高いイプピアーラがいるってことだろう」


 陳情に来た2人の話では、ある日突然、海から10体ほどのイプピアーラが上陸し、巻き貝の町に侵入して人を襲った。

 島に兵士の常駐はなく役人しかいなかったため、すぐに助けを呼びにいくことになった。

 船を扱える者たちが2艘の船で王都を目指したが、海上にいたイプピアーラに追われ、みるまに船はぼろぼろにされた。

 船に乗り込んできたイプピアーラの爪で切られた者は、傷口がすぐにうみだし、戦えなくなる。


 1匹のイプピアーラにモリが命中すると、その叫び声を聞いたイプピアーラたちが、モリを撃ち込んだ船を総攻撃した。

 そのすきにもう1艘は、なんとか逃げ切ることが出来たが、漂着するまでに5日もかかった。

 船が群島周辺の海流が切れる潮目を超すと、イプピアーラは水面に顔を半分だけ出して、それ以上は追ってこなかった。


「王の指示で少し前に軍の調査部と一緒に救出部隊が出動したが、消息不明だ」

「消息不明?! 救出部隊って、どこですか?」

「紅蓮の炎の部隊だ。すでに到着したと思われる日から1週間以上たっていて、島についたらすぐに飛ばすはずの連絡係がこない。

 連絡係になにかがあったことも考えられるが、軍と救出部隊、両方の連絡係が未着になることは考えにくい。

 連絡係を送ることができない状況なのかも知れない。

 指揮を執っていた王は、この一件をミカエル様に投げる……いや、任せることにして、数日前にミカエル様はこの件の司令官になった。

 今朝、群島へ向かった蒼の風部隊と軍の大隊は群島の島に潜伏し、そこに拠点を作ってからマキラ本島を調べることになっている」


「え……蒼の風は出発してしまったんですか?」

 コトミは動揺し、すぐにでも部屋を飛び出して蒼の風を追いかけたい衝動を抑えた。


「ああ、明後日には計画した小島に着くはずだ。

 遠回りだが西側から回り込んで、群島のこの島に降り立つ。

 やつらは鼻がきくはずだから、気づかれないように念のためマキラ本島からは距離をおいて、群島内に潜伏する計画だ」

 ルキアスが指し示した島はマキラ本当から2つほど北にある島だった。


「イプピアーラが確認できれば……どうするつもりですか?」

「今、バリスタや艦砲できる船をありったけ準備している。

 入ってくる情報次第では、他国とも連携をとるつもりだ。

 とにかく今は連絡を待つしかない」


「私が行けば解決できるかもしれない」

 地図を見つめたままコトミはつぶやいた。


「やめろ、隊形を乱す恐れがある。

 自分の力を過信するな。

 今おまえは必要ない」


 その言葉にルキアスのやさしさを感じた。

 厳しい言い方だが、コトミを引きとめてくれている。

 動揺したコトミに冷静さを取り戻させてくれるいつもの対応だった。


 バタンとドアが開くとミカエルの側近のシャスバンが入ってきた。

「ルキアス、連絡を感謝する」


 コトミはルキアスを見た。

「ミカエル様に連絡を入れた。 おまえは私の管轄ではないからな。

 シャスバン、申し訳ないがマキラ島の話をしてしまった」


「そうか、わかった」

 コトミはシャスバンに促され部屋を出ると、ミカエルの執務室へ連れて行かれた。



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