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カルツォのたくらみ(1)


 コトミは空を見上げた。

 満点の星が見えるだけで、怪しげな者の姿は見えない。


(さて早く帰ろう。 今夜は楽しかったな)

 杖に飛び乗るとそこから飛び立った。


「あのさ、さっきコトミの後ろの方に人影があったような、誰かが見ていたような気がする」

「え? ほんとかルイ」

 レンがそう言ってミルズと顔を見合わせた。

「勘違いならいいけど……俺ちょっと行ってくる」


 そして3人で今来た道を戻ると、ちょうとコトミが飛び立つところだった。

 ルイが声をかけようとしたとき、横から急上昇していく魔法士がいた。


「あれは……ダグ!」

 ルイが叫んだ。

 白く長い髪は夜目でも本人を特定できる。


「え、ダグって、カルツォ伯爵の従者か?」

 ミルズがそう言いながら羽を広げて飛び出した。


「コトミ逃げろ!」

 ミルズが叫んだ。

 コトミが振り返った瞬間、コトミの胴にムチが巻き付き夜空に引っ張り上げられた。

 宙づりにされたコトミの、さらに上空に獣人が2人、網を持って待機していた。

 なげた網でコトミを捕獲した2人の獣人は、その場から飛び去り、追ってきたミルズの前にはダグが立ちはだかった。


 ルイは魔剣に魔力を帯びさせるとそれに飛び乗りコトミを連れ去った獣人を追いかけた。

 獣人の飛行速度には、魔剣では到底かなわない。

 魔法士の杖でも、上級者でなければ負けることがある。

 コトミを運んでいるため速度が落ちていたとしても、魔剣で獣人に追いつくのは不可能だった。


「応援を呼んでくる!」

 レンが叫びながら走り出した。

 任務が終わり魔鳥を連れていなかったレンだが、エルフ種族の俊足の能力で移動ができる。

「頼んだぞレン! 場所はカルツォの別宅だ!」

 ルイが叫んだ。


 伯爵家の敷地の中には本宅とカルツォの別宅があった。

 ルイは以前、その別宅へよく出入りしていた。

 コトミを連れ込むとすれば本宅ではなく別宅だとルイは判断した。

 その別宅はカルツォが15歳のとき、伯爵に無理強いして建てさせたものだ。

 その頃から徐々にカルツォは権力に執着し始め、考え方に相違が生じたルイは距離をおくようになった。

 ミルズがダグに向け槍を振り下ろすと、槍の先からほとばしった雷がダグの胸にあたり空中で後ろに飛んだ。


「そこをどけ、この白髪野郎!」

「フン、獣人風情が、お前の出る幕じゃない」


 ――円爆の陣、炎


 ダグがつぶやくと空中のミルズの足下に魔方陣ができ、そこから上空へむけて炎の柱が立ち上がった。


「ぐうぉぉぉ!」

 ミルズはもがくが魔方陣の外にでることができない。


 それを見たルイはコトミを追うのをやめ、ミルズのもとに引き返し、魔剣から飛び降りた。

 魔剣に魔力を流し氷をまとった剣をミルズの足下にできた魔方陣に向けた。


 ――氷結の嵐


 ルイはそう唱えて、ダグの魔方陣に氷結の魔方陣をかぶせた。

 相殺された魔法エネルギーは魔方陣とともに消え去りミルズは落下した。


「ミルズ!」

「あーあ、面倒くさい連中だな」

 そう言ってダグはあっという間に夜空に姿を消した。


「ルイ、俺は大丈夫だ。コトミを追え!」


「わかった!」

 ルイは伯爵家の別宅を目指し飛び立った。



 一方コトミは、ムチでつるされたときに背中にまた何かを打ち込まれ体がしびれていた。

(怪我とは違う。何か薬を撃ち込まれた)


 しびれた体でなんとか体制をたてなおそうとしたが、思うように力が入らなかい。

 しかも網に絡まり杖をつかむこともできなかった。


(竜族の力を使ってしまおうか。でもそうすれば竜族に居場所がわかってしまう。

 杖も持てない……どうすれば)


 暗い小屋のようなところにつくと床に転がされ、そこで無理矢理何かの薬を飲まされて意識を失った。

 そして気づいたときには薄い衣を着せられ椅子に座らされていた。

 体は洗われ、治療も行われたようで怪我もなくなっている。

 ただ胸や背中には時々痛みが走った。

 気がついたコトミを、2人のメイドがかかえるように別の部屋に連れて行く。

 抵抗したくてもひどい脱力で、1人で立つことも出来ず、なすすべがなかった。


 レンが部隊棟へ戻ると当直のカーシャがいた。

「カーシャ、コトミが拉致された。カルツォの別宅へ行ってくれ! 俺もすぐにプロトンで後を追う」

 カーシャは何も答えず窓を開けるとすぐに飛び出した。

 上級魔法士のカーシャはコトミの超高速ほどではないが、それに近い早さで飛べる。

 レンはプロトンを出すため魔鳥厩舎へ走った。


 ルイが別宅につく頃にはカーシャが追いつき、2人で2階の窓から侵入し、コトミを探した。

 何度も入ったことがあるこの屋敷の私室の場所を、ルイはだいたい覚えていた。

 悲鳴をあげるメイドたちをしりめに、めぼしい部屋をあたったがどこにもコトミの姿はなかった。


「おかしい、ここじゃないのか。確かにこの方角へ飛んでいったんだが……」

 ルイは動揺していた。

「ルイ、落ち着いて。 殺すことが目的ならわざわざ運んだりしない。

 大丈夫、探しましょう。この近くでどこか思い当たるところは他にない?」


「あ、いや……どうしよう……」

 冷静さを失い、混乱しているルイを見たカーシャはルイの頬をたたいた。

「しっかりしなさい。 とりあえずまだ見ていない場所を探しましょう」

 別宅と言っても部屋は数十あった。それを2人で一部屋ずつ見て回った。


 プロトンに乗ってきたレンも合流し、3人で部屋を見て回ったが一向に見つからなかった。

「こうなったら……」

 3人の姿をみて逃げ出すメイドたちの1人をカーシャは捕まえた。


「ここに連れてこられた子がどこにいるか教えなさい!

 これは国の仕事よ。 隠し立てをすればあなたは国を追放される!」

 当然そんなことはないが、そうでもしなければ口をわらないとカーシャは判断した。


「あの……その、地下に別の部屋が。今そこにカルツォ様と一緒にいます」

 座り込んだままのメイドは、半泣きの状態で答えた。


「なんだと!」

 ルイは思わず剣をそのメイドに向けた。

 その剣をカーシャが杖でたたいた。


「あなた、案内しなさい」

「は……はい」


 そのメイドに案内された地階の通路には施錠された扉があり、その鍵はメイド長しか持っていないということだった。

 壊して先に進むとまた扉があり、そこも施錠されていた。


「あの、私は戻ってもいいでしょうか? 部屋はこの奥です」

「いいよ、ありがとね」

 カーシャはメイドの手を放し、メイドは走ってその場を立ち去った。


「あといくつ扉があるんだ……」

 カーシャはそう言うと、火炎魔法で鍵を壊した。

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