流れる世界に身を任せ【一頁完結型童話調・T書庫シリーズ】
__幕間
ここに一冊の本がある。タイトルは掠れてしまっている。
それは、私たちにとっては物語であるかも謎らしい。
しかし、コレが残されているという事は彼等は確かに存在していたのは確かだ。
そういう世界らしいからね。ココは。
さて、短いが少しばかり話に付き合って貰おうか。
弟よ。ココの書庫は蔵書がいっぱいで私はとてもわくわくしている。
どうせ少ししたら存在が曖昧になって私たちは消えてしまうらしいからね。
ちょっと位、盗み見たところで罰は当たらないだろう。
それではDr.Tの読み語りの始まり始まり。
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世界の流れに身を任せ、一つの小石を投じてみる。
風の流れに身を任せ、一つの火種を投じてみる。
川の流れに身を任せ、一つの雷撃を投じてみる。
蝶の羽ばたきが竜巻を生み、小さな音が雪崩を生む。
全ての結果は決まっている。全てに小石を投じてみる。
一つ一つは小さな波紋が重なり増えて何になるのか。
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俺は小石を投じてみる。決められた運命を変えてみたくて。
世界は一つの結果に収束する。小石を投げた所で変わるわけではない。
しかし、運命は変わった。変えられた運命は良い方へ。変えられなかった運命は悪い方へ。
少しずつ、少しずつ良い方へ運命を変えていく。
旗印にされた少女は処刑をされず。担ぎ挙げられた王は戦争をせず。
老女は永い時を生き、少年は人々を助ける青年となった。
気付いてしまった。気付いたからには目を逸らす事は許されない。世界は一つでは無かった。
もう起きた出来事を見て自分は小石を投じていたのだ。
旗印にされた少女は処刑をされ、担ぎ挙げられた王は周辺の国を燃やした。
老女は魔女だと火炙りにされ、少年は失意のまま世界から退場した。
それは俺の居ない世界。俺が居るからこの結果であって運命だったのだろう。運命を変えた気がしただけで結局、運命を変えていなかったのか。
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俺は変えられないモノを変えたくて旅に出た。どの世界でも可哀想にも思える人生を終える者が沢山居る。
俺は俺が楽しいと思う方に誘導した。俺が出来る事は小石を投じる様にその人の選択肢を増やすだけ。
多くの人々に触れても、多くの人が記憶していても人々は選択を続けていく。
流れる世界に身を任せ、世界を渡り歩いていく。これも俺の選択だ。
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そいつはゼロと名乗った。光源で出来た人型の人物。眩しすぎて顔も見えない。
どうやらそいつは勧誘しに来たらしい。色んな世界の人を導く簡単なお仕事です。とか言っている。
断る理由もなく、俺はその流れを選択した。そうして俺様は神様になった。
案内されたのは黒い箱の様なモノが置いてある部屋。ここが俺様の仕事場らしい。
黒い箱はキーパーボックスとかいう名前らしい。タイプライターみたいなモノを押して文字を入力すると指示を貰えるだとか。ロストテクノロジーかと言ったら、コレが世界の元だとゼロは言っていた。
俺の仕事は選択肢を増やすだけらしい。俺様の様な世界を流れてる者が神になるのは珍しいらしい。存在があってこその神らしいしな。
例えば、その世界で偉業を成し遂げたとか神に至る命を手に入れただとか、精神が昇華しただとか。死んだ後も回収されずに彷徨ってた奴だとかそう言う奴。
俺はどうやらそれらには当てはまらない様だ。
ゼロが言うには概念と言う存在が稀に人の形を取るらしい。俺様は選択をする勇気という概念と言っていたが、絶対違うな。選択をさせると言う概念が多分、俺様なのだろう。
仕事は今までやってきたことと一緒、まぁ何とかなるだろう。
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ゼロが予想以上にポンコツ過ぎた。
__終幕
どうやら、この俺様君はゼロと言う人に連れられて仕事をする事になった。だけど上司がポンコツだったらしい。
「はっはっは、それを読んでいるのか?何だか妙な気分だな」
黒光りするエナメルで出来た男が話しかけて来た。いや実際は服着てるけど。
「弟が怖がるからそれ以上近寄らないで貰えるか?」
「分かった分かった。俺様はフォースと言う。よろしくな。ふむふむ、ここ迄読んだのなら次はコレを読んでみると良い」
「選択させに来たと言う事か?」
「そう言う事になるだろうな。これが性分だ。そう言う流れだからな。諦めろ」
「俺様さんがコレ書いたの」
「あー、それな。俺様達がここに来たプロフィールみたいなもんなんだよ。まぁ、忘れ去られた世界の物語って奴だ。ここに来たやつの経歴が自動的にこの書庫に入るって感じだな」
どうやら神様は本当に八百万位は居そうだ。
「おっと、コレコレ。じゃ、俺様はもう行くからごゆっくり」
うん、アレは人間じゃない。空気が服着てるみたいな印象を受けた。
このタイトルは流れる世界に身を任せにしよう。
シリーズと銘うってありますが何処からでも読めます。
彼が人に対して出来るのはほんの少しの勇気を、安牌を選択せず。勇気を出して選択する。少しの勇気が死を生に変える。後悔ない選択を保証するのが物語の彼の出来る事です。
それでは皆様また次回。