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銀河戦國史  (漂泊の者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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エピローグ

 十歳の少年には、意味不明な部分の多い物語でもあった。

 けれど、分かることも、いくつもあった。


 どれだけ大きな権力や財力を手にしようとも、人にはいくらでも、つけ入る隙は生じるものなのだ。


 虐げられた者たちの何人かは、そんな隙を、たくみに突くことで、我欲を遂げようとする。それは、防ごうとして、防ぎ切れるものでは無いのだろう。


 漂泊の者の豪語を、すべて真にうけることはできないと思いつつ、少年は彼を、恐ろしいと感じた。

 虐げられた者の、反撃や復讐は、決して甘く見てよいものではない。


 誰かを虐げる行為は、虐げられた者だけを不幸にするのではない。

 虐げた者も、それを傍観していた者も、ときにはまったく関係のない第三者をも、不幸の渦に、引きずり込むことがある。

 武力でも権力でも財力でも、それ以外のあらゆる力でも、それから逃れきることなどは、できない。


 父の話してくれた歴史物語から、少年は、そんな教訓をくみ取っていた。


 目にしている、エウロパ星系第3惑星の青いかがやきも、手にしたトマトの赤い輝きも、宇宙の漆黒を消し去ることはできない。

 そこに刻みこまれた歴史の悲劇も、不幸に身をやつした者たちの声も、いつまでも闇のなかに残り続けるだろう。


 少年は、漆黒の宇宙の奥底に、深々と視線を射込んでいった。


 歴史のなかで繰りかえされた、無数の悲劇も、その多くは、誰かが誰かを虐げたことの結果として、もたらされたのではないだろうか。

 もしかしたら、すべての悲劇が、虐げるという行為に、端を発しているのかも。


(5次にわたる銀河大戦や、銀河暗黒時代という銀河史上の悲劇も、人が人を虐げる、という行為がなければ、避けられたのじゃないかな。

 富を独占せずに、不幸な立場にいる誰かに、少しでいいから救いの手を差し伸べる。そんなことの積み重ねが、歴史の悲劇を繰り返さないことに、繋がるのじゃないかな)


 エリス少年は、宇宙の漆黒から引き抜いた視線を、手にしたトマトの赤いかがやきに転じた。


 今、この新鮮なトマトにガブリとかじりつけば、美味しさという幸福が手に入る。

 しかしそれを、財力に恵まれない誰かに譲るという行為にも、幸福感はある。

 富を独占して、贅沢を謳歌するのも幸福なのだけれど、誰かを虐げたりせずに、救いの手を差し伸べてあげるという行為でも、幸福は得られるのだ。


 富の独占による幸福は、富からあぶれた者に「虐げられた」と、受け止められるかもしれない。

 これでは、不完全な幸福としか、いえないのではないか。不幸の渦を、発生させてしまう可能性が、あるのだから。

 運が良ければ、渦に巻き込まれずにすむ場合もあるのだろうが、防ぎ切る手立てがないのも、現実だ。


 一方で、誰も虐げたりしないというやり方なら、不幸の渦を起こす可能性を生まずに、幸福を得られる。

 このトマトを、今ここでガブリとやるのと、財力に恵まれない誰かに譲るのと、どちらがより確かな幸福か、考えるまでもない。


 少年はまた、宇宙の漆黒に目をやった。

 その深さを知るほどに、そこからの声に耳を傾けるほどに、赤や青のかがやきの、本当の価値に気づかされる。エリスには、そう思えた。


 彼のいる農園を維持するのには、多くの公費が投じられている。それは、この時代の市民には重い税負担として、のしかかっている。

 エリスの家族を含め、多くの者が多額の寄付もしているし、今の少年がそうであるように、ボランティアとして人手を提供したりもしている。


 皆が色々なものを負担して、自分の手にある財力や労働力を拠出することで、この農園は維持されている。

 財力に恵まれない人への食料の無償提供は、この時代でも、多くの人々の自発的な善意や努力なしには、実現しないものなのだった。


 それは、楽なことではない。ときには、激しい忍耐を求められることもあるだろう。

 でも、この農園のような施設を維持して行かなくては、また虐げられたと感じる人がでてきて、不幸の渦が生じるかもしれない。

 歴史の悲劇が、繰りかえされるかもしれない。

 どんなに苦しくても、維持して行かなくてはいけないものなのだ、とエリスは思うのだった。


 漆黒の深淵に、エリスは耳をすませた。

 そこから聞こえる声が、少年の想いをさらに加速した。


 恒久平和が実現した時代にあって、それでもなお、いまだに貧富の差をなくせない銀河系で、誰もが虐げられていると感じることのない、そんな世界を実現しなくては。

 そうでないと、歴史の悲劇は、繰りかえされてしまう。漆黒の深淵から聞こえる声も、無駄な叫びになってしまう。


(もっと、もっと、歴史を学んで、僕は宇宙の暗闇から、色々なメッセージをくみ取れるようになろう。そして、歴史の悲劇が繰り返されることを、何としてもくい止めなくちゃ)


 少年の時代の銀河系は、すべての矛盾からは、解放されてはいない。不幸の種が、いくつも残されたままになっている。

 貧富の差などといった、矛盾や不幸の種を消し去るために、人類は銀河系において、未だに戦っている。


 恒久平和が実現したからといって、戦いが、まったくなくなったわけではない。兵器こそ使われないが、まだまだ戦いの只中にあるのだ。


 少年の内心での呟きは、そんな銀河世界への、参戦の意思表示でもあった。少年が、銀河系に宣戦布告したのだといえば、大袈裟すぎるのだろうが。


 手にしたトマトを、少年はまた、腰の籠に押し込んだ。空になった小さな手で、拳をにぎり、そしてそれを、宇宙に目がけて突き出した。


 宣戦布告とよぶのが大袈裟であっても、その拳が銀河に比してあまりに小さすぎようとも、少年には、一歩たりとも、引きさがるつもりなんてないのだ。


「おうい、エリス。ちょっと作業をやめて、昼ごはんにしようか」

「おうちで作って持ってきたサンドイッチを、もう広げてあるわよ」

「うん!分かったよ、父さん、母さん。やったあ、ぼく、もう、お腹ペコペコだったんだよ」


 昔の誰かが知恵をしぼったように、少年も勇気をふりしぼって、銀河系の戦いへと立ちむかっていくだろう。

 今すぐでは、ない。だが、いつかは。

 少なくとも、昼ごはんを、食べ終わった後で。



 小さな少年の、ささやかすぎる宣戦布告に、グサリとやられた気配が、銀河に漂った。


 かつて、虐げられたとの思いから、多くの人を傷つけた彼には、少年の決意は余りにも眩し過ぎた。

 こんな少年に、命あるあいだに巡りあっていたら、彼は、あるいは。


 復讐や我欲の追及のために、悪知恵をしぼり尽くした生涯だった。

 数千年のときを経た、今になって、少年の眩しい決意が、別の角度から光を当てたことで、異なる可能性もあったことを指し示した。

 そんな風に、彼には感じられたのかもしれない。


 権力者や富豪を手玉にとった、彼のしたたかさも、一国を混乱に陥れたズル賢さも、少年の無垢な決意の前には、鳴りを潜めるしかない。

 ひたすらに、自身の生涯を恥じる心境だ。

 誰かのために戦う拳を、自分も振るってみたかったものだと、肉体をうしなった彼が、歯噛みした。


 生前は、人の世に背を向けていた感のある彼ではあるが、今は、未来に向かう少年の背中を、そっと押してやりたような思いに、胸を満たされている・・・・・・・・・・・・そんな気配を、感じたというだけの話。

 今回の投稿は、ここまでです。 そして今回で、この作品は完結となります。


 なんともくだくだしいエピローグとなってしまい、こんなことをやってたらエピローグを読んでもらえなくなっても仕方ないなとか反省しつつ、上手にまとめる方法も思いつかないので、このまま投稿してしまいました。


 これだけ短い作品なのだから、なんて意味不明の言い訳で自分を誤魔化しつつ、書きたいことを描き切ることを優先させてしまいました。


 今後、こういった部分を改善して行けるように努力するつもりはあるので、これでお見捨てにならずに、次回作にも目を通してやってくださいと、伏してお願い申し上げます。


 それで、次週 2022/5/7 から、新たな作品の投稿を始めます。

 今回よりやや長めで、中編の域に少し達しているかなというくらいです。


 前半にそこそこ派手な戦闘シーンが登場し、ある程度のエンターテインメント性は確保できたつもりでいるのですが、話の本筋は戦闘ではないという展開でもあります。


 次回作にも目を通して頂けることを祈りつつ、本作を読んで頂けた方には、心からの御礼を申し上げます。短かったのでお疲れさまの言葉は不要かと思いますが、有難う御座いました。

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