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銀河戦國史  (漂泊の者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
3/5

「なんだか、とっても身勝手な理屈にしか、聞こえないわよ」


「そうじゃねえんだ。ほんとに、あの連中は儂の手の平の上で、踊らされているだけなんだ」


「まあ、大した自信だこと。

 芸を披露した代償に、宇宙船に乗せてもらうのが、手の平の上で躍らせたことになるわけ? 」


「芸を披露するだけじゃ、ねえのだぜ。あちこちで仕入れた名品珍品を、あの連中の懐に入れてやっている。

 それら欲しさに、連中は、面白いように、手の平の上で踊ってくれるってわけさ」


「そんなことを、言っちゃて。

 芸とか、名品や珍品なんて、別に、なくても困らないようなものではなくて? 」


「そう思うだろ? ところがどっこい、そうじゃねえのだな。

 権力者や富豪ってのは、見栄や面子が、なによりも大事なのだ。誰かに自慢できるタネってのを、いつでも必要としているのさ。

 自慢できるタネが尽きちまうと、権力者どうしや富豪どうしでの、面子の張りあいに、負けてしまうかもしれねえ。

 それに負けるってことは、連中のもつ権力や財力が、その手から逃げていってしまうかもしれねえ事態なのさ。

 いや、本当に失うかどうかは問題じゃねえ。連中が、そういう疑心暗鬼にかかっているってことが大事なのだ。

 自慢合戦や面子の張りあいで、勝ちつづけてねえと、権力や財力が逃げていっちまうかもって疑心暗鬼に陥っていて、怖くて怖くて夜も寝られねえ。メシものどを通らねえ。

 そんなふうになっちまってるのが、権力者や富豪って連中なんだ」


「だから、あなたの芸や、名品珍品が、のどから手が出るくらい欲しいっていうこと?」


「そうさ。連中の、見栄や面子の張り合いに付けこめば、宇宙船に乗せさせるなんてことは、造作もねえのさ。

 自分はこんなすごい芸を見たのだ、こんな希少な名品珍品を手に入れたのだ、なんて自慢をして面子の張りあいに勝つためなら、あいつらは喜んで、俺の手の平の上で踊ってくれるのさ」


「うふふっ、そうなの。知らなかったわ。

 芸を披露したり、名品や珍品を献上したりすることに、そんなすごい効果があるなんて。

 でも、そんな強気なことを言っていたって、その人たちに自分を売りこむときには、低姿勢にふるまうのでしょう」


「あたりまえだ。権力者にしろ富豪にしろ、目の前にしているときには、頭を床にこすりつけるくらい下手にでて、気に入ってもらおうとするに決まっている。

 まずはタキオン通信で、何光年も離れたところから、ゴマをすりすりしながら、売り込みをかけるのさ。

 それでモニター越しに、玄妙な技芸を一端だけ披露してやったり、名品珍品をちらりと拝ませてやったりすれば、そこで立場は逆転さ。

 連中は、何としてもそれらを、自慢のタネに見たり手に入れたりしたいと渇望する。向うから頭を下げるくらいの勢いで、儂のもとに使いを走らせるのさ」


「うふふっ、そうなの? 面白い。

 でも、そんな言い草をしていることが知れたら、あなたも、ただでは済まないのではなくて? 」


「もちろんだ。プライドだけは、たかい連中だからな。

 こんな軽口が知られでもしたら、命など、いくつあっても足りないだろうな」


「そうよ。あの人たち、とっても怖いのよ。

 権力をもった人たちなんて、もともとは武力で、歯向かう者をかたっぱしから血祭りにあげて、今の地位についたのだから。

 財力をもった人たちも、儲けるためになら人の命なんて、みさかいなく犠牲にしてきたからこそ、そうなれたのよ。

 怒らせてしまったりしたら、あなただって、どうなるか知れないわよ」


「おっと。なんだか、他人ごとではない言い方だな。何か、いやな体験でもあるのか? 」


「それほどのことでも、ないのだけど・・・・・・。

 わたしの両親はね、権力を持った人が、それを見せびらかすためだけに、ある惑星の衛星軌道上をまわっていた集落をまるごと焼きはらったときに、巻き込まれて殺されちゃったのよ」


「・・・・・・そりゃあ、恨んでも恨み切れねえ、泣き叫んでも癒されることもねえ、はらわたの煮え続ける悲劇だったな」


「別に。親とは名ばかりで、一度も会ったことのない人たちだもの。

 ものごころさえも、ついていなかった幼い私を、二束三文で売りはらって、こんな孤独で貧しいくらしを、しなくちゃいけないようにしてくれた人たちなのよ。

 だから、殺されたところで、怒りも悲しみもなかったわ。

 ただ、怖いって思うだけよ。権力や財力をもった人が、私には、怖くて怖くて仕方がないの」


「そうか。まあ、そんなのは、この国じゃあ、珍しくもねえ話だな。

 儂だって、5つか6つのころ、口減らしのために、数日分の食料だけをのせたカプセルに押し込まれて、宇宙に放りだされちまったクチさ。

 ある漂泊者の男にひろわれ、そいつの見よう見まねで、儂もこうしてめでたく、漂泊のくらしを身につけたってわけさ。

 儂を宇宙に放りだしたやつらも、どこぞの富豪に、唯一の生活のすべだった資源採取用の人工衛星を、だまし取られちまいやがった。

 それに絶望して、自ら命を絶つっていう、まぬけな最期をむかえたのだと、後になってから知ったのさ」


「じゃあ、あなたにとっても、権力や財力をもった人たちは、怖いものなのではなくて? 」


「いやいや、そうでもないさ。

 確かに、権力や財力を武器にしてかかってこられたら、儂なんぞひとたまりもないだろうが、低姿勢と、芸や名品珍品で、そんなものは簡単に封じることができるからな」


「本当なの、それ? 」


「本当さ。

 ああいった連中は、権力や財力で、欲しいものが簡単に手に入るくらしばかりをしてきたから、我慢するということが、ちっともできないのさ。

 己の欲望を抑えるという能力が、人類のなかでも、ダントツに低い種族なのだな。だから、あっさりとこちらの思惑通りにふるまってくれるのさ。

 おまえだって、権力者や富豪を客にとってきたのなら、連中の我慢のなさは、よく知っているだろう? 」


「確かに、そういう人たちって、食いつきがすごくいい印象があるわね。でもそれは、持つべきものを持っているからなのだと、私は思ってきたわ」


「まあ、それもあるだろうが、それだけじゃねえ。我慢が足りねえから、名品を見ても、いい女を見ても、後先も考えずに見境なく食いついてしまうんだ」


「それで、あなたは芸や名品珍品で、権力や財力を持った人たちを手玉にとって、くらしているわけね」


「そうさ。

 見たこともない楽器から鳴りひびく、聞いたこともない音色や、それが奏でる未知の旋律、更には、それにあわせて、摩訶不思議な体の動きをともなった、珍妙な踊りなどを見せてやると、あいつらなんてイチコロに心を奪われてしまうのさ。

 異国から取り寄せた美味珍味なんてのも、あいつらの眼の色を変えさせるには、もってこいなんだぜ」


「なるほどねえ。そうやって、国じゅうに名をとどろかせるほどの、権力や財力を持った人たちを、思うがままに手の平の上で躍らせてきたわけね、あなたは」


「そうさ。

 この笛の音一つだけで、最新鋭の大型航宙戦闘艦に便乗して、いくつもの星系にわたる飛び領などを、めぐったこともあるさ。

 租税を収奪してまわる、徴税部隊に同行できたおかげでな。高級将官たちと同じメシにも、ありついたんだぜ。

 それぞれの飛び領で召しあげた、豊富な食材をふんだんに使った、それはそれはぜいたくなメシだったなあ。

 権力者たちの所領の住民たちが、命がけで採取した資源をつぎこみ、膨大な量の汗水をながして作りだしたものが、材料だったのだぜ。

 それなのに、領民たちには、決っして口にできねえ代物なのだぜ。それを、命もかけねえし汗水も流さねえ儂が、笛の音一つでたらふく食べられたのだからな、してやったりというものだ。

 何十光年もの距離を旅してまわるっていう、そこの領民なんぞには一生できない、面白い経験もした。珍品のひとつでも、ちらつかせておきさえすれば、行き先だって、思い通りに変更できたよ」


「まあ、悪い人ね。領民の人たちが、かわいそうよ」


「いいのさ。

 かつて、行く当ても無くて、困り果てていた儂が、救いを求めて伸ばした手を、ことごとく払いのけやがった連中なのだからな。

 その上に、色んな迫害を加えることさえ、やってくれやがった。

 そういった領民の、集落なのだ。あんな目にあうのも、お似合いのザマというものだ。

 それに、こんなので悪い人なんて言ってちゃ、切りがないぜ。

 ちょいとひと踊りしただけで、領民が手塩にかけて育てた、清楚で純朴な娘たちを差しださせるように、権力者や富豪を、けしかけたこともある。

 何人も何人も、年端もいかねえ生娘どもを、領民どもの宝でもある愛娘たちを、奴らの目の前で、心ゆくまでねぶってやったさ。

 異国の珍味と引き換えに、領民の何人かを、奴隷として連れまわして、こき使ってやったこともある。

 人手を奪われた集落の方では、租税を収めるのにも、難儀するハメに陥ったのだろうが、それにも構わずに権力者どもは、儂に領民を、奴隷として差しだしたのさ。

 異国の珍味に、目がくらんでな」


「あら、まあ。本当に、芸や名品珍品だけで、権力や財力を持った人たちを手玉にとって、あらゆる欲望をかなえてきたのね」


「芸や、名品珍品だけでも、ねえんだぞ。もっと効果的なものだって、あるのさ。

 それが、情報だ」

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/4/23  です。


 登場人物たちは、ある時代のある国をイメージして創作された人たちですが、どの時代のどの国にも、こういった人は居たのかもしれません。


 旅をしながら、食事提供と歌舞披露と売春をセットにしたサービスを販売している集団も居た、という記述を見かけたこともあります。白拍子や傀儡子と呼ばれた人々が、そうだったのだと作者は認識しています。


 こんな漢字名を書けば、どこの国の話か言ってしまったようなものですが、どこの国でも似たようなものかもしれません。


 上記3つのサービスに加えて重要なのが、神事や祈祷といったもので、元々はそれがメインだったのかもしれません。

 多くの国で、神事と歌舞と売春というのが、密接に繋がっていたという風に、作者は理解しています。


 そんな職業は、予にはぐれて行く当てを無くした人たちの成れの果てなのかもと想像し、そんな人が実は陰で社会を揺さぶっていたりして、などと想像を膨らませ、この話のプロットは仕上がりました。


 舞台設定はカリクローという環を持つ小惑星の存在を知ったことで、プロットは白拍子などの昔の職業を知ったことで出来上がり、それらを混ぜ合わせて、この作品に結実しました。

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