表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河戦國史  (漂泊の者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
1/5

プロローグ

 今回で、12作品目の投稿となります。一ダースも投稿すれば、アマチュア小説家としては中堅の域でしょうか?


「銀河戦國史」ばかりを投稿しているので、本シリーズの内容量も、一ダースとなりました。


 ここまで来れば、物語世界の全貌というものへの読者様の関心が、高まっていて欲しいと願うのが作者の心境なのですが、作者自身の力不足がそれの実現を妨げているかもしれません。


 全て独立で完結する物語ばかりですが、恒久平和が実現した世界とか、水浸しの惑星上での生活とか、三種類の超光速移動で銀河系を飛び回る交通事情とか、地球が行方不明になっていることといった、シリーズに共通する事柄に、注目が集まって欲しいのです。


 エリス少年の周辺とか人間関係などにも、関心を持ってもらえるように、作者なりに工夫はしているつもりですが、いかがなものでしょうか?


 今回も、そんなエリス少年の時代を描いたプロローグに始まり、その後に時間を遡り、本編をスタートさせます。

 今回は、たったの5話で終わる、ベリーショートな物語です。プロローグとエピローグを除けば、たったの3話です。


 未来の宇宙を舞台にした物語を、いかにしてたったの3話にまとめたか、是非ご覧頂きたいです。

 よろしくお願い致します。


尚、前回の投稿作品のタイトルと、「漂泊」のワードが重複していて紛らわしいですが、ここは全く関係は無いものと考えてください。同じ語を使っていることに、作品が完成してから気づきました。

 衛星軌道上をめぐりながら宇宙をただよう、平べったい板切れの中に、広大な農園が作られ営まれている。

 こんなことが、が可能となっていた。


 この時代の科学が可能にした、重力制御技術のなせる業だ。

 加速や遠心力にたよった、疑似重力などではない。


 惑星の重力と、惑星を周回することによる遠心力のつりあっているのが、衛星軌道上を巡る物体だ。

 そんな無重力と言ってもいい状況にある板切れが、1Gの重力で万物を引きよせて床面に固定し、農園の経営までをも可能としている。


 稲作水田や野菜畑や果樹園などがあり、多種多様な作物の生産が、実現している農園だ。

 一応、壁や天井で密閉されているが、空気を逃さないためというよりは、恒星風や宇宙線の侵入を防ぐことが主目的だ。空気は、人工の重力で保持しておけるから。


 人工衛星の構造材であるとはいえ、人工重力のおかげで、それほどの強度を求められていないから、床面以外は透明素材で十分だ。

 だから、頭上にも横方向にも、宇宙の壮大な景観を眺められる、開放感たっぷりの農園なのだった。


 そんなものが、一辺約5キロメートルで、厚みが3百メートルほどの板切れの中に収容されている。漆黒の宇宙に包まれて。

 誰かの怨念を吸い取ったかのような、深い漆黒だ。


 誰の怨念か? 銀河系の過去に、虐げられた者? 親にすら売り飛ばされ、孤独と貧苦に落とされた者? 救いを求めて伸ばした手を、ことごとく払いのけられた者? 


 公設であるこの農園の収穫物は、この時代の人であれば、誰でも無償で入手できる。

 ワープ通信やタキオン通信という、この時代には普通である超光速の通信手段により、数光年もはなれた遠方からでも注文できる。


 第3次銀河連邦のもとでの、恒久平和が実現したと謳われているこの時代の銀河系には、調和と安寧があまねくいきわたっている。

 とはいえ、貧富の差が、まったくなくなったわけではない。


 どんな高価な食べ物でも、毎日潤沢に、確実に入手できるだけの財力を、すべての人が持っているわけではなかった。

 恒久平和は、貧乏をも、撲滅できたわけではなかった。


 だが、この時代には、貧乏はあっても貧困はなかった。あまりぜいたくができない人はいても、飢餓にとり残される人は、いなかった。

 ある程度の食料ならば、誰でも無償で手に入れられる体制が、この衛星軌道上の農園などを供給源とすることによって、整えられているから。


 財力に余裕のある人は、他の有償であるルートを使うものだった。もっと豊富な選択肢があるし、高価だったり希少だったりという食材が手に入るから。

 財力に余裕のない人だけが、こういった施設で食料を調達する。


 高価でも希少でもないものばかりではあるが、誰もがおなかいっぱいに食べることはできる。それが、この時代だった。

 深い怨念を含んだ無限の漆黒の中に、こんな時代の文明の創造物が、はかなげに頼りなげに、漂っている。


「ねえ、父さん。こっちのトマトはもう、収穫しても大丈夫だよね。」

 エリス少年が、農園の中で声を張り上げた。


 これでもかと言わんばかりに、少年の頭のずっと上までのばされた蔓から、少年をおおい隠そうとするかのごとくに、たくさんの葉を茂らせている。

 宇宙を、緑一色に染めそうなくらいに陽光を跳ね返している、元気いっぱいな植物の足元で、少年も負けじと元気をふりしぼったのだ。


 遠くから父が、何やらモゴモゴと言ってかえしたらしかったが、彼も元気いっぱいの植物に覆い隠されてしまっているので、言葉の内容が分かるほどには、声はとどかなかった。


 真っ赤な果実を小さなその手につかみ、少年は腰に付けた籠に、大切そうにしまいこんだ。

 ほぼ全自動で栽培も収穫もやってくれる、丸ごとロボットといってもいいその農園だから、何もせずに任せきりにしていても構わないとも思えるのだが、少年は自分の手で収穫していた。


 時々は人間が収穫をすることで、想定外の問題が生じていないかの確認をする必要はあった。

 ほぼ全自動とはいっても、いくつかは、人の手でやらなければならない作業はでてくるものだった。


 毎日数万人分の農作物を出荷しているこの農園で、1日に十人分くらい必要となる人手を、エリス少年は時々ボランティアとして、提供しているのだ。父や母と一緒に。

 多くの、彼らのようなボランティアの協力のおかげで、農園の維持にかかる公的な負担は、最小限におさえられている。


 緑色に輝く葉と葉のすきまから、ぼんやりとした青色を照りかえしてくる惑星が、エリス少年の目にとまった。

 怨念を含んだ漆黒から、切り取られたかのように隔絶した、青い塊だ。彼の家がある「エウロパ」星系の、第3惑星だった。

 透明素材の壁を通して彼は、宇宙空間の向こうにあるそれを、遠望できるのだ。


 テラフォーミングの成功により、人が住めるように、なるにはなったのだが、手違いで水浸しになってしまった惑星だった。

 そんなところにあるので、彼の家は、洋上を走る「セイリングハウス」なのだ。

 葉と葉のすきまから、惑星の上を走っている彼の家は、もちろん見えるはずがない。


 大昔にあった “住宅街 ”という言葉と同じ意味で、この惑星は “住宅惑星 ”だった。惑星上には、ほぼ民家しかない。

 民家以外のほとんどの施設は、衛星軌道上にあった。


 今、エリスのいる農園もそうだが、日常の買い物をするのにも、子供が友達と遊ぶのにも、この惑星の住人は衛星軌道上にのぼってくる。

 重力制御技術をつかって、ヒョイと簡単に衛星軌道上にまではこんでくれる施設が、この惑星にはいくつももうけられているから。


 住宅はすべて、惑星をすっぽりと覆い尽くした水塊―当然のように人はそれを “海 ”と呼んだ―の上を激走している。


 自転周期が、約30時間であるのがこの惑星なのだが、人のからだは、24時間の周期を快適と感じるものだ。

 6時間の差を埋めて、人に快適なくらしをもたらすために、この惑星にある住宅は、海上を激走しつづけている。


 その激走があまりに速すぎて目にとまらない、わけではなく、エリスのいる場所からでは小さすぎるし、大気や雲などにも阻まれるために見えないわけだが、少年はわが家を思い描きながら、茫洋とした青を照りかえす「エウロパ」星系第3惑星を、見つめたのだった。


 青い惑星を視界のなかにとどめたまま、エリス少年はまた一つ、よく熟れたトマトの実を収穫した。


 手のなかの赤くて丸い塊と、宇宙にうかぶ青くて丸い塊が、いっぺんに彼の目に飛びこんでくる。

 腕の曲げ伸ばしをうまく調節すれば、惑星とトマトが、同じくらいの大きさに見えたりする。赤と青の丸が、エリスの前でなかよく並んだ。


 テラフォーミングにより、青いかがやきを人類から与えられた惑星と、重力制御などの技術により、衛星軌道上で赤く実ることができたトマト。それらが並んだ光景に、少年は奇跡を感じた。


 両方がともに、一万年にもおよぶ宇宙でのくらしのなかでみがき抜かれた、人類の科学の結晶だった。

 そしてその恩恵は、今やすべての人があまねく手に入れているのだ。


 惑星上を走るセイリングハウスも、個人で所有するためにはそれなりに裕福でないといけないが、公設の集合住宅も走っていて、誰にでも入居が可能だった。

 トマトを始めとした新鮮な食べ物が、誰にでも無償で手に入れられるのと同じで。


 銀河にくらす人類の誰一人として、貧困のなかに置き去りにすることのない、青と赤のかがやき。

 第3次銀河連邦を中心とした社会システムにより、誰にでもとどけられるようになったかがやき。

 そんなトマトと惑星の間には、漆黒の宇宙空間があった。


 惑星が青ければ青いほど、トマトが赤ければ赤いほど、宇宙の漆黒は際立って見える。

 惑星やトマトのかがやきが鮮やかであればあるほど、まっ暗な空間は、より深く、より遠く、その奥行きを増していくようだ。


 ふと、その漆黒の宇宙から、誰かの声が聞えた・・・・・・ように、エリスには思えた。

 何者かの気配を、感じたのかもしれない。


 何らかの意思が、届けられたと考えるのもいいかもしれない。

 空間の果てからのようでもあるそれは、時間の果てからでもあるかもしれない。エリス少年の、心を引きつけるものだった。


 歴史学者を父にもち、その影響で歴史好きとなった少年には、歴史を知れば知るほど、そんな声が聞こえるようになった気がする。

 父から歴史の話を聞かせてもらう度に、宇宙の漆黒に潜む何者かの気配を、強く感じるのだ。

 蓄えられていく歴史の知識が、何者かの思念を彼に、受けとめさせているのだろうか。


 こんな時代をむかえるまでに、人類は多くの犠牲を必用とした。


 テラフォーミングや重力制御を実現したり、すべての人にそれらの恩恵がいきわたる社会システムを作り上げたり、ということが可能になるまでには、長い長い歴史のなかで、数え切れないほどの人々が、星の数ほどの人たちが、悲劇にみまわれ血を流し貧苦にあえいできた。


 歴史を深く学ぶことで少年は、宇宙の深淵から、そんな人々の声や気配や意思を、感じとれるようになっているのかもしれない。

 手にしたトマトの赤いかがやきが、「エウロパ」星系第3惑星の青いかがやきが、宇宙の深淵からの声にたいするエリスの感性をより鋭敏にしている、とも考えられる。


(とり残されてしまった人、置いてきぼりにされた人、誰にもたよれなかった人、すべての集団から溢れてしまった人、そんな人が銀河の歴史の中には、無数にいるんだ。そんな人たちの犠牲の上に今、僕は、このトマトを誰でもが食べられる世の中で、生きることができている。)


 聞こえたように思える声が、感じたように思える気配が、少年の歴史への渇望をかき立てた。


(もっと、知っておかなくちゃ、今の自分のくらしが、どんな人のどんな犠牲の上にあるのかを。)


 赤と青のかがやきと、深い漆黒によってかき立てられたそんな思いが、少年に一つの物語を思い出させた。いつか父から聞いた、数千年前の銀河系における歴史物語だ。


 国から見捨てられ、どの集落にも属すことができず、孤独に宇宙を、当てもなくめぐる生涯を送らざるを得なかった者たちのなかの、一人の話だった。

 漂泊者とも呼ばれた、そんな人々は、それでもしぶとく、たくましく、ときにズル賢く、したたかに世を渡ったという。


 少年の時代には、「宇宙系人類」との呼称が与えられている人々が、かつての銀河にはいた。

 約1万年前に、人類発祥の “ 地球 ”という惑星で勃発した全面核戦争から逃げ出し、宇宙での放浪の時期を長く過ごした人々の末裔なのだが、その「宇宙系人類」が作った国に、漂泊者は多かったようだ。


 少人数での宇宙放浪のなかで、科学技術も統治手法も大きく劣化させてしまった人々の末裔が「宇宙系人類」だから、かれらのつくった国での社会水準は、とんでもなく低かったらしい。


 いつか父に教わった、数千年前のそんな国で生きた漂泊者の物語が、少年のなかで再び紡がれ始めた。

 エリスの心は、引き込まれる。新鮮なトマトを手に、巨大な惑星を目に、遠い昔の歴史物語へと、迷いこんでいったのだった。



 少年の意識が時間をさかのぼったのか、誰かの思念が、はるかなる過去から呼び起こされたのか、どちらなのかは分からない。

 だが、いずれにせよ、少年の脳裏には、鮮明すぎる景色が像をむすびつつあった。


 父から聞いた話にも、それ以外のどんな知識にも、これほどにまで詳しい景色を思い描けるほどの情報は、含まれていなかったはずだ、というくらいの。


 少年の想像力の、成した業かも知れない。色々な方面からの知識や情報を、混ぜ合わせることで出来上がった景色なのかもしれない。

 でも、それだけとは思えない。


 それくらいに、鮮明なのだ、少年の見ている光景は、思いうかべている人物像は。おそろしいほど精緻で具体的で・・。

 さらに少年は、はるか数千年もの昔に生きた見知らぬ誰かの、肌の温もりさえも・・・・・・まさか・・・・・・でも・・・・・・。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/4/9 です。


 物凄く基本的な事ですが、一応説明しておくと、衛星軌道上は正確には無重力ではありません。地球の衛星軌道上とは、地球の重力が、がっつり作用している空間です。


 その重力が遠心力と釣り合っているから、見かけ上、重力が無くなったように感じられ(観測され?)る状態があり、無重量状態なんて言ったりします。


 宇宙モノのSFを描くのに、こういう細かいことを説明していられない場合も多く、断りも無く無重量と書くべきところで無重力と使ってしまうこともあるのですが、ご理解賜りたいと思っています。


 それと、重力で大気を保持しているから、密閉は必要ではない、とか書きましたが、こういったところも鵜呑み厳禁で、正確な知識を得たい場合は、読者各位で調べて頂きたいと思います。


 ただ、宇宙時代を迎えるにあたっては発想の転換が必要ということを、訴え得る物語にはなっているのではと自負しています。


 地球は、永久に生命のゆりかごであり続けてくれるわけではないので、生き続けるためには、人類はいつか宇宙で暮らせるようにならなくてはなりません。


 遠い未来の話だとは言え、課題の困難さを考えれば、今の内から、こういった発想の転換に慣れて行くことも必要なのではないでしょうか?


 未来宇宙小説を書く者の、大袈裟すぎる大義名分というやつでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ