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貧相なドラゴンなんて要らないと言われた

「おい。てめェ」

 と、声をかけてきたのは、トラのような女性だった。赤とも黄とも言えぬ、猛々しいトラの皮の色と同じ髪の色をしていた。胸のふくらみで女性とわかったが、髪は少年のように短くしていた。



「な、なんでしょうか」

 と、女性の猛禽類のような双眸を前にして、オレは怯んだ。目つきが鋭いというわけではないが、迫力のある目をしていた。目には黄金色の虹彩が宿されていた。



「てめェ。どこのもんだ? 見ねェ顔だし、ドラゴンだってこのあたりじゃ見かけねェもんだ」



「龍騎手でして」



「龍騎手? ああ。そのドラゴンはあれか? ゴール直前で落っこちてた野郎か」



「見てたんですか」



「私も今、ドラゴンに乗って会場から帰ってきたところだ。まぁ、会場つっても、ただの平地だったけどよ」



「そうでしたか」

 と、オレは赤面をおぼえた。



 やっぱり観衆には、落っこちた野郎、という覚えられ方をしているらしかった。



「さっきの試合に免じて、許してやるがよ。この都市ブレイブンの運び屋の仕事はよ。ロクサーナ組合が仕切ってンだ。行きも帰りもロクサーナ組合に話を通してもらわねェとな」



「チョウドその組合に顔を出そうと思っていたんです」



「ん?」



「運び屋の仕事をもらいたくて」



「なんだ。兄さん。龍騎手じゃねェのかい?」

 と、その女性は首をかしげた。



「ついさっきまでは龍騎手だったんですが……」

 みっともない試合をしてしまったために、龍騎手免許を剥奪されたのだと説明した。事情を把握した女性は鼻で笑った。



「なんだい。あんたもその口かい」



「オレのほかにも同じようなヤツがいるんですか?」



「最近そういう連中が増えていてね。負けておめおめと故郷に帰るわけにもいかず、とりあえず運び屋として糊口をしのごうって連中が」



「そ、そうですか」



 見事なまでにテンプレートな思考をしていたようだ。女の口調からは、潔く故郷に帰らない連中を蔑む気配があった。蔑まれているとわかったから、非常に居たたまれなくなった。



「まあ、よその都市を当たることだね。都市ブレイブンじゃ、あんたみたいなのを雇おうとは思わないよ」



「そう言うあなたはロクサーナ組合の関係者なんですか?」



 女性の口ぶりからはなんとなくそんな感じがしたのだ。

 はぁ、と女性はあきれたようなため息を吐いていた。



「なんだ。そんなことも知らねェのかよ。私がそのロクサーナ組合の頭だよ」



「え? あなたがロクサーナさん?」



「ああ。そうだよ」



 なるほど。言われてみれば、ただならぬ気配をはらんでいる。これは大変失礼なことをしてしまったと一瞬焦った。焦ることもないか。知らなかったという他には、たいして失礼なことを口にした覚えはない。



 むしろ好都合だと思った。



「これも何かの縁です。ロクサーナ組合のほうでオレを――」

 雇ってもらえませんか――と言い切る前に、厭だよ、と拒否られた。



「言っただろ。あんたみたいなのをロクサーナ組合で雇おうとは思わないよ」



「そこを何とか」

 と、オレは頭を下げた。



 運び屋の仕事をロクサーナ組合が一任しているというのならば、ここで頭を下げるほかなかった。



「だからお断りだって。だいたいこんなみすぼらしいドラゴンで、運び屋なんかつとまるのかよ」



 オレ自身のことは何を言われても、べつになんとも思わない。寛大というより、鈍感なんだろうと思っている。



 クロの事を悪く言われると、カッとしてしまう癖があった。ついさきほど国王陛下の前でも言い返してしまった。



 今度はどうにか押し殺すことが出来た。たしかに悔しいことに、今のクロはやつれてしまっており、みすぼらしいと言われても仕方のない風貌ではあるのだ。



「それには事情がありまして」



「事情?」



 試合に参加する旅の道中で、嵐に遭ったのだ――と説明した。



 空模様は事前に見ていた。旅の行程も事前に熟慮したものだった。オレの計算を狂わせる嵐が来たのだ。なんの予兆もなく。トツゼンに。ホントウならばあと数日早くに、こちらに到着する予定だった。嵐のせいで遅れてしまい、クロを休ませる暇もなくなってしまった。



 オレとクロを試合に負けさせる悪意が、天にあったとしか思えなかった。万全の状態にさえなれば、クロはどんなドラゴンよりも雄々しく勇ましい姿をしている。



 オレはそう力説した。

 オレの力説とはウラハラにロクサーナはしらけた顔をしていた。



「いるんだよ。そうやって試合に負けたことを言い訳するヤツがさ」



「オレはべつに言い訳しているつもりでは……」



「大人しく故郷に帰ることだな。あの試合を飛びきれないようなドラゴンじゃ、うちには要らないよ」



「そう――ですか」



 クロがホントウは立派なドラゴンだってことを、ロクサーナはまるで信じていないようだった。



 悔しさがこみ上げてきた。



 このあたりの運び屋の仕事を一任しているのかなんだか知らないが、クロの本性を見抜けないようでは、どうせたいした組合じゃないに違いない。



 雇ってもらえなかった負け惜しみのような理屈に過ぎなかったけれど、そう思わなければ冷静でいられそうになかった。



「さっさと故郷に帰ることだね」

 と、ロクサーナはそう言うと、クロのことを見てもう一度鼻で笑ったのだった。



 あきらかにクロへの侮蔑だった。



 クロはオレより我慢強いのか、それともロクサーナの言葉なんて歯牙にもかけていないのか、平然としていた。



 ロクサーナはドラゴンを1匹引き連れて都市のなかへと入って行った。ロクサーナのドラゴンだろうか? それとも組合の運び屋だろうか? どちらにせよ、万全の状態のクロに比べれば、たいしたドラゴンではない。



「悪かったな。オレのせいでクロの悪口を言われちまった。頭を下げる相手を間違えたよ」



「ぐるる」

 と、クロはオレの胸元を、頭で小突いてきた。



 なんだか逆に励まされているみたいだ。



「オレたちも都市ブレイブンに入ろうぜ。とにかく今日は一泊してカラダを休めよう。クロも疲れただろ。そうだ。お前の好きなミノタウロスの肉が、きっと都市のなかなら売ってるから買ってやるよ」



「ぐるる?」



「心配するなって。まだ帰りの旅費は残してあるんだから。チョットぐらい贅沢しても支障はないよ」



 まだ身の振り方を決めたわけではない。

 どこかで働くにしても、このまま故郷に帰るにしても、とにかく今日1日はクロのことを休める必要があるだろうと判断した。



 クロはオレの頬を舌でナめてきた。熱い舌をしている。クロにナめられたことで、はじめて気づいた。オレは涙を流していたらしかった。悔しいことが多すぎて、いったい何に涙しているのか自分でもわからなかった。



 都市に入った。



 城門棟をくぐるさいに、すこし手間取った。身元を証明できる龍騎手のバッジを持っていなかったためだ。



 衛兵が試合に出ていたオレのことを覚えてくれていたために、中に入ることが出来た。覚えてくれていたことは嬉しいが、やっぱりオレは墜落した人ということになっていた。



 竜舎のある宿にクロのことを預けた。竜舎はふつうの厩舎とは違う。各々のドラゴン1匹1匹に個室が与えられる。ほかのドラゴンとケンカになることを防いでいるのだ。個室と言っても、石造りの簡素な部屋で、牢獄を思わせられる。



 クロのことを竜舎に入れて、ハミや面繁や手綱といった装備を外してやった。



「あとでミノタウロスの肉を買ってくるからな。ふたりで食べようぜ」

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