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強化日本異世界戦記  作者: 関東連邦
第5章 世界大戦
95/105

第89話 選ばれし兵士達

1ヶ月も投稿が空いてしまい大変申し訳ありません!

第89話 選ばれし兵士達


      ノル・チェジニ軍港



第1戦闘団と他の戦闘団が本部とする軍港のとある区域に、鬼導院中将と師団本部の幕僚達が待機していた。


彼等は日本本土から派遣されてくる部隊の到着を待っていた。


やがて水平線の先から数機のCH-47 チヌークが見えてきた。


数機のチヌークは2つのメインローターから放たれる風圧で鬼導院中将達の服を大きく揺らしながらゆっくりと地面に着陸する。


徐々にメインローターの回転速度は落ちていくが、それを待たずにチヌークの後部ハッチが開かれ、そこから荷物を持った男達が次々と降りてきた。


その男達の姿を師団本部の幕僚達、そして周囲を警備していた隊員達はその男達を目で追いかけていた。


彼等の全員が陸上自衛隊の頃から変わらぬ緑色の戦闘服を身につけ、その顔は黒の目出し帽で素顔は全くの不明であった。


やがて男達は鬼導院中将の前まで歩き、一斉に敬礼をした。


数十人の隊員達による敬礼はその全員が一糸乱れぬ完璧なタイミングであり、それを見た要員達は思わず感嘆の声を漏らした。


鬼導院中将はそんな彼等には気にも留めずに目の前に立つ男達に返礼をする。


互いに敬礼を終えると、男達の代表で唯一、その素顔を露にしている人物が鬼導院中将に口を開いた。


「特殊作戦群 第2中隊本部から岩田国防相より任を受けて参りました。」


「日本国国防陸軍 第14師団 師団長 鬼導院だ。 諸君等の到着を心より歓迎する。」


挨拶を終えた両者を、鬼導院中将の側に控えていた幕僚の1人が小さく呟いた。


「あれが特戦群か…………」


特殊作戦群。日本国防陸軍の切り札であり、全ての陸軍隊員達がその部隊に入る事を夢見み、最大限の敬意を表する最高位の部隊である。


所属する隊員は、近接戦闘術を筆頭にした戦闘に関する技能は当然ながら、語学力、救護技術や高度な外科医術すらをも習得しており、戦闘員・非戦闘員に関係なくその全員が空挺落下技能を習得している。


このように要求される技能水準が非常に高過ぎる点から、各陸軍部隊が自信を持って推薦した隊員達が悉く選抜課程で落とされていくことに不満を持った部隊長等の抗議が殺到する事態になることが恒例になっている噂が常に出周ってている。


そんな彼等が現在、自分達の前にその姿を見せてくれている。国防を担う者達ならば興奮しても無理はない。


現に幕僚も一般隊員達も関係なく彼等の挙動を見逃すこと無く注視しているのだから。


しかし鬼導院中将のみは全く平常心を崩すこと無く彼等、特殊作戦群をノル・チェジニ軍港に案内する。


「ここでは君達を何と呼ぶべきか?」


鬼導員中将の質問に代表各の男は歯をむき出すように口角を上げて答えた。


「数字でも何でもお好きなように。どの道、すぐに我々はここから去りますから。」


男の言葉に鬼導員中将は同意した。彼等、特戦群はこの大陸戦争において非常に重要な役割を担うことになる。


当然ながら後方であるここでずっと待機する事はなく、到着したその日に作戦は開始されているのだ。


恐らくはこの男を含めた幾人の戦闘員は最前線まで休憩無しで移動だろう。


「ですがその前に、あれらの置場所だけ聞いても?」


男はそう言うと、現在もチヌークから運ばれてくる荷物の山を指差して言った。これを見た鬼導員中将は今も見とれていた警護隊員の方へ振り返った。


「何をボサッとしている? 案内しろ。」




鬼導員中将からの指示で施設科の尽力によって立派な軍事基地となっている軍港の区域を、隊員は緊張をしながらも案内していく。


一行はやがて目的である建物の前まで到着する。


「こちらです。」

「ありがとうございます。」


先ほどまで鬼導員中将と会話していた男は、敬語で丁寧に答えてくれた。


隊員が案内した建物は居住と倉庫を兼ね備えた3階立ての建造物で、出入口には普通の扉と戦車が数両ならば同時に出入可能なほど大きなシャッターの2つがあった。


その内のシャッターを隊員は壁に取り付けられた開閉ボタンを使って開ける。


数桁の暗証番号を打ち終えるとシャッターは音をたてながらゆっくりと彼等を通すように開かれていく。


それを見て特戦群の隊員達は各々の荷物を片手に次々と入っていく。その様子を案内していた隊員はつい目で追いかけてしまう。


特戦群である彼等はいとも容易く片腕で持ち運んでいるが、時折に背中から聞こえてくる鈍重な物音から判断して、かなりの重量物なのは容易に想像出来る。


少なくとも今、隊員の隣に立つこの男が持っている一際大きな荷物袋は常人ならば絶対に両腕でないと持ち運びできないだろう。


隊員がそう思うのも、つい数分前の出来事があったからだ。


鬼導員中将からの指示に慌てて案内をするが、目の前の男の重そうな荷物を見て、変わりに持つと隊員は言ったのだ。


すると男は苦笑いをしながら持っていた荷物を隊員に渡してくれたのだが。


男の手が離れた瞬間、隊員はその荷物を思いっ切り地面に落としてしまう。


「っ!? し、失礼しました!」


慌てて落としてしまった荷物を持ち上げようとするが、男が片腕で軽そうに持っていた荷物は微塵も上に上がらなかったのだ。


「やはり私が持ちますよ。」


それを見た男は苦笑いの表情のまま、再び片腕で軽々と持ち上げたのだ。


隊員とそれを見た同僚や幕僚達はみんなが信じられないといった表情で男を見たのを隊員は忘れなかった。


別にこの隊員の力が無かったのでは無い。純粋に目の前の男の身体能力が一般隊員のそれとは隔絶した領域にいるのだ。


その男は荷物を持って歩こうが全く体幹を崩す様子を見せずに、ここまで着いてきたのだ。それも表情は軽やかなままでだ。


いや、この男以外の特戦群の隊員の全員がそんな光景を見せてくれる。


ドスンッ!そんな重い音を出しなら特戦群達は倉庫となる大きな空間の真ん中に荷物を置いた。


荷物を置いたあとの彼等の行動は様々だ。倉庫内を見渡す特戦群、腕を回してストレッチをする特戦群、置いた荷物からタブレットを取り出して画面を操作しだす特戦群に、銃器を取り出して点検をする特戦群など実に様々だ。


だが隊員の視線は銃器の点検をする特戦群に目がいった。


(あれは64式?…………未だにあんな旧式のを使ってるのか?)


かつて主力装備の地位に君臨するもその整備性が悪いことが有名となっている64式自動小銃は、もはや国防陸軍内では配備されている部隊の方が希少と呼べるであろう。そんな物を見て隊員は首を傾げた。


しかしただの64式では無いことを隊員はすぐに気付いた。


隊員が目にしている64式はここから見えるだけでも相当な改造を施されているのが分かった。


照準器は勿論のこと、持ち手であるグリップは革製の物で、銃床部分は軽量化のためか所々に穴開けが施されており、肩当て部分も伸縮可能な作りになっていた。


これが特戦群、ひいては特殊部隊に与えられた特権であろう。


基本的に一般兵が装備する武器の改造は認められていない。無論、任務の遂行上のためならばある程度は認められているものの、それでも制限された上での改造のみだ。


しかし今、隊員が目にしてる特戦群は各々の手による改造が全面的に認められる数少ない例外であろう。


改造だけではない。官給品以外の武装をすることも上層部から認められているのだ。


現に特戦群の荷物袋から次々と多くの小銃が姿を現していく。


(あれはM4カービンか! それにグレネードランチャー付き!)


アメリカの傑作銃と名高き、アサルトライフルを目にし、隊員は心の中で興奮する。


更にはドイツ製のH&K HK416や同社MP5にM95バレット…………それ以外にも欧米諸国で多くの国々が採用されている傑作銃ばかりが勢揃いしていた。


そしてその銃のいずれもが独自の改造がされており、統一性はなくまるで傭兵のような装備だ。


武器だけではない。荷物袋から次々と出されていくのは4眼型暗視装置や光学迷彩服に防弾プレート等、装備面においても一般隊員の物とは大きな違いが見えた。


「中の案内をお願いしても?」


倉庫の特戦群に見とれていた隊員のもとへ代表の男が声をかけてきた。慌ててその方向へ振り返れば男は倉庫から隣の居住エリアに繋がる扉の方を指差していた。


「し、失礼しました。こちらへどうぞ!」


見過ぎていたと隊員は自身を戒め、隣の部屋の案内をする。最後に何気なく後ろを振り返った隊員が見たのは彼等は黙々と作業を続けている姿だった。








        都市リバーテ


「日本軍の残党がヴィラン連隊の方角へ逃げたのだと! それは確かか!」


ガーハンス鬼神国側の最高司令官ボーン中将は側近からもたらされた報告に立ち上がった。


「その様です。 既にジュニバール帝王国は逃げた日本軍の追撃のために動いていると報告が!」


ボーン中将はすぐに近くに広げられた地図のもとまで行き、付近に展開された自国の部隊を確認した。


「……大陸北部にいる師団を回せば間に合うか?」


本来ならば大陸北部の沿岸都市を経由して日本軍の後方に出る予定であったが、それを使うべきか迷う。


「北部には2個師団がいますが、全ての師団を回すのですか? 残党とは言っても少数です。幾つかの部隊で充分かと。」


ガーハンス鬼神国側の軍団参謀長がボーン中将に進言する。


「……前線にいた第32師団の連絡はまだとれんのか?」


「連絡が来たという報告は来ておりません。送り出した増援部隊からも無いとなると、やはり日本軍からの攻撃で…………」


その言葉にボーン中将は決断した。


「ならば答えは1つだ! いま逃げ回っている日本軍は第32師団の敵である! ジュニバールなんぞにそれを奪われては鬼神国の兵にあらず! 直ちに北部に回している2個師団を転回させて残党を殲滅させよ!」


ボーン中将はそう意気揚々と言うと、高級将校達は一斉に動いた。


次々と前線に向かう各部隊への命令を魔信へ伝達していく部下を背景にボーン中将は部屋をあとにした。


ジュニバール帝王国軍のジルヒリン議員が司令部にしている屋敷とは別の建物を拠点にしていたボーン中将はその建物の中庭へと向かった。


手入れのされた芝生を踏みしめ、そこから見渡せる景色を見渡すボーン中将はとある方向を見て顔をしかめた。


丘の上に建てられた中庭のそこから見た方向には、都市近郊で展開されたジュニバール帝王国の軍隊がいた。


現在の規模で言えばジュニバール帝王国側の方が多くの兵力を派遣しており、その差はボーン中将にとっては大きく出ていた。


「本国の阿保共め! こうなる事が分かっておれば、上層部を説得できたというのに……!」


ガーハンス鬼神国の上層部に対して怒りが沸き起こるが、それ以上に憎々しい相手をすぐに思いだし、老将は拳に力をこめる。


「待っておれよ日本人よ! 我の兵士を地に葬った代償は必ず払わてみせよう。」


ボーン中将は遥か先にいる日本軍に対してそう吐き捨てて、再び建物へと入った。






    

   ハマ山岳 第3戦闘団 戦闘団本部



木々が生い茂る山岳地帯を貴戸大佐は数両の高機動車を連れて移動していた。  


ハマ山岳は既に施設科や普通科達の尽力によって防衛側からは迅速な移動が出来るように道路が整備されていた。


数両の高機動車で移動すること十数分、目的の場所に到着した貴戸大佐は部下と共に降車して歩く。


貴戸大佐が向かうのはこの山岳地帯で数少ない拓けた平地に建てられた大きな建物だ。


数階建の長い建物で、周囲は有刺鉄線と簡易な壁で囲まれていた。


そしてその内側を完全武装の隊員が常に巡回しており、所々には建物と同じ程度の塔から周囲を監視している隊員もいた。


厳重な監視体制が敷かれたこの建物だが、貴戸大佐は巡回する隊員達の敬礼に返礼をしながら内部へと入った。


「放せ! 何度も言っているだろう! はやくあの男と話をさせろ!」


簡易な受付を通り過ぎて、長い通路を歩いていると怒号がどこからともなく貴戸大佐達の耳に聞こえてきた。


「またあの男か…………」


この声を聞いた貴戸大佐はうんざりしたように呟きと溜め息を吐いて、その声の方へ歩いた。


そこには数人の隊員が1人の肥満体型の男性を取り押さえている光景が広がっていた。


その周囲には万が一に備えて刺股とテーザー銃を装備して待機していた隊員が囲んでいた。


その内の1人が貴戸大佐の存在に気付き、口を開いた。


「貴戸大佐!」


1人がそう言うと、他の隊員達も貴戸大佐に気付き取り押さえていた者以外は敬礼をする。


すると取り押さえられていた肥満体型の男性も同じように気付いたようで、怒りで真っ赤にしていた表情から一変、驚いたように目を見開き声をあげた。


「お、お前は!? 一体何度呼んだことか! さっさとコイツ等を下がらせよ! 私はジュニバールの将官であるぞ!? 幾らなんでもこの扱いは不当だ!」


そう肥満体型の男性もといジュニバール帝王国の陸軍少将 チャガイ・レイ・バイートは目の前ですかした表情をする貴戸に訴えた。


そんなバイート少将の言葉を聞いた貴戸大佐は片手を上げた。


その意図を察した隊員達はバイート少将から手を離して拘束を解いた。


拘束を解かれたバイート少将は灰色の服装越しからでも膨れ上がった腹部が強調されるように揺らし、小さく息を吐いた。


「ふん! コイツ等を厳しく罰しろ! この私に対して無礼な言葉遣いをしているばかりか、無理やり、こんな服に着替えさせられたのだぞ!」


バイート少将はそう言うとヨレヨレになった服を指差して睨み付けた。


「何度も部下が言っていると思いますが、貴官は捕虜となっているのです。 それをお忘れなきように……」


「捕虜だと!? ふざけるな! お前達が姑息な手を使っておいて何が捕虜だ! あんなものは無効だ!」


次々とわめきたてるバイート少将に、貴戸大佐は大きく溜め息を出したくなったがグッと堪えた。


前線部隊が壊滅したと判明したバイート少将はセンゲル平野から脱出しようとした時、池田大佐が率いる第2戦闘団に発見され襲撃を受けた。


その襲撃で運良く生き延びたバイート少将は捕虜として日本側に身柄を拘束されていたのだ。


現在、貴戸大佐がいるこの建物は簡易的な捕虜収容所であり、ここ以外には鬼導員中将のいるノル・チェジニ軍港に建設されていた。


本来であればノル・チェジニ軍港から北海道にある大規模な収容所に順次送る予定だが、軍港から捕虜を出すよりも物資を入れる方が優先されるために未だにこの大陸にいる訳だ。


そして貴戸大佐がここに来た理由は、この男が頻繁に騒ぎを起こしている、という報告を何度も受けたので手が空いたこの時間にわざわざ様子を見に来たのであった。


「…………言いたい事は分かりました。ここで話すのはなんですし一旦、部屋にいきませんか?」


止まらない怒号に嫌気が差した貴戸大佐は隣にある部屋を指差して言った。それにバイート少将はまだ不満はありそうだが、それに同意して部屋へと入る。


「お前達は外で待機していろ。 部屋には私と2人だけで構わん。」


貴戸大佐の言葉に、護衛の隊員達は互いに顔を見合わせて貴戸を見たが、意思を変える様子は無いので渋々ながら部屋の前で待機する。


「ふん! ようやく待遇を改善する気になったか。速くあの狭い部屋を変えろ………それと食事もだ。あんな貧相なものを食わせるなど到底信じられんぞ!」


部屋に置かれた椅子にバイート少将は躊躇なく座って開口一言目のその内容に貴戸大佐はこめかみを抑えた。


「…………残念ながら当施設には将校用の部屋はございません。 食事に関しても申し訳ありませんが、担当調理師達が栄養バランスを考慮した結果の食事内容です。 どうか御理解の程をお願いしたく………」  


出来る限り穏便に済ませたい貴戸は物腰の低い姿勢で言うが、バイート少将はそれを気にも留めずに言い返した。


「何と!貴様等はあんなものを日々食しているというのか!?あんな薄い味しかしない貧相な飯さか食えないと!随分と哀れなことだ!」


信じられないと言った表情で言うバイート少将に、貴戸大佐は僅かに気分を害したが、すぐに冷静さを取り戻す。


実のところ、他の捕虜の食事と比べて、バイート少将の食事内容は確かに薄いメニューとなっているのだ。


しかしこれは嫌がらせや虐待といった理由ではなく、正当な理由があってのものだが。


というのも、他の将校達と比べてバイート少将の栄養バランスが極めて偏っていた事が、担当医務官達の検診によって判明したのだ。


単刀直入に言えばバイート少将だけが、血糖値の数値が異常なレベルで高いのだ。よりハッキリ言うならば糖尿病になっている………それもかなり重度の段階まで来ていた。


すぐに担当医務官はバイート少将にその事を告げたのだが、本人は全く理解してくれず、むしろ捕虜虐待等と喚く始末だ。


その後に他の捕虜からの聞き込みで判明した事だが、この世界では糖尿病といった地球先進国での国民病と呼ばれる多くの病はほぼ認知されていない様なのだ。


その要因は多く考えられるが、その1つは高位の治癒魔法であれば大抵の体調不良は即完治してしまうために細かい症状を調べる必要がないという。


そのため、バイート少将に何を言おうが理解してくれずにいたずらに文句や騒ぎを起こされてしまっているのだ。


(だが、それでも基準値の数倍の値は不味いだろう…………)


診断書を見た貴戸大佐も驚いものだ。他の数値を見る限り、よほどの暴飲暴食を長年に渡って繰り返したのだろう。



『…………これは余談ですがね。私が他の大陸で耳にした話によりますと、大抵の病気は高位の治癒魔法である『大疫治癒』というもので完治するみたいなのですが、それでも治らない病気は多数、存在するようです。

 そういった場合は専用の治癒魔法を新たに開発する必要があるみたいです。

 ただそれで治療を受けるのは裕福な金持ちや権力者ばかりで、一般庶民にはその恩恵が受けられず、それが災いして技術や病名が世間に広がらなかったと考えられます。

 なので大陸によっては多種多様な治癒魔法が存在すると…………無論、治癒系のみならず攻撃魔法・防御魔法・建築魔法…………等々といった種類は高位であれば高位であるほど大きく異なるようでして、実に興味深い話ですよ。そうそう!他にも聞いた話では…………』


永々と話を広げてくる担当医務官を相手に聞いた内容を整理した貴戸大佐は再び永々と文句を垂れ流すバイート少将に声をかけた。


「兎に角、部屋については近いうちに別の建物へと移動するので、もう暫く我慢してください。」


面倒なので鬼の師団長の元に送らせてやる。そう貴戸大佐は上官に丸投げすることを決めたが、バイート少将は何を勘違いしたのかニヤリと気持ちの悪い表情をした。


「ほほう。口では冷静を装っているが戦況が悪くなっているおるからこの私を移すのであろう…………うん、図星か?」


何を言っているんだ? この男は……


思わず貴戸大佐が絶句しているのを、考えを見破られたから動揺していると捉えたバイート少将はさらに続ける。


「むふふ…………やはり当たっていたか。卑劣な戦いでしか戦えんお前達の事だ。あっという間に戦況を引っくり返されて焦っているのだな。

全く哀れな連中よ!」


どんどん上機嫌になっていくバイート少将に貴戸大佐は呆気に取られる。しかしこれはチャンスとも取れた。


「…………っ! ゴホンッ!…………話は終わりです。部屋に戻ってください。」


貴戸大佐はわざと話を切り上げると更に深掘りをしたバイート少将は機嫌良く笑い声をあげた。


「ふはははっ! 本当に分かりやすい男よ!

よしよし、良いだろう…………この生活もあと少しで終わるのだから大人しく待ってやる。」


狙い通りにいった貴戸大佐は心の中でガッツポーズを取った。それを勘づかれないよう丁寧にバイート少将を部屋の外に出して隊員達に引き渡した。


「それでは私は帰ります。 数日のうちに移送のために別の者が来ますから、それまでは静かにお願い致します。」


「構わん構わん! これもあと少しの辛抱だと思えば軽いものよ! それよりもお前達が実に哀れだ! お前達の無事でも祈ってやる!」


「ありがとうございます。それでは。」


先ほどとは別人のような様子のバイート少将に隊員達は瞠目したが、それとは裏腹に貴戸大佐は踵を返して早足でその場から去った。


建物から出た貴戸大佐は建物の方を振り返り、後ろに続いていた部下に指示した。


「大人しいうちに鬼導院師団長の元にあの男を移送しろ……問題児と伝えるのを忘れるな。」 


「了解。」


貴戸大佐はあの男が鬼導院中将を前にして同じような態度をとった際の様子を想像して身震いした。


「本部に戻ったら防衛線の再確認だ。 部隊にはいつでも出動できるように準備を怠るな。」


部下にそう指示すると停車させた高機動車に乗り込んだ。






数日後…………


     第2戦闘団 臨時駐屯都市


バリアン大陸西部に位置する都市国家郡の1つ。ここは都市としては中規模程度の交易都市であり、この1ヶ月の間に支配者が何度も変わっていた。


大陸中央部に広がる、この大陸基準では大規模都市を大街道で繋がったこの都市の確保は今後の戦略上においては重要な基地となるであろう。


この都市近辺には肥沃な土地が点在しており、それを利用した農地から得られる穀物を集積しており交易都市だけではなく、大陸西部の食料庫の役割も担っていた。


そんな都市も現在では池田大佐が率いる第2戦闘団の主力部隊の駐屯地として利用されていた。


数日前までは戦時の影響でこの都市を利用する商人達の姿は鳴りを潜めていたが、池田大佐の計らいにより、久方振りに都市の主要な通り全てを人々で埋め尽くしていた。


それらの通りの中でも最も大きく、都市の中央を区切るように造られた中央通りに関してはこの数年の間でも特に1番の賑わいを人々に見せていた。


都市にいたガーハンス鬼神国軍基地への攻撃で当該された建物も幾らか見えるが、それでも住民や商人達は気にせずに中央通りを歩いていく。


馬車や商品を乗せた荷車が走る車道は絶えることなく走り回り、その両脇にある歩道には人々が反対側から歩く別の歩行者とぶつからないように気を付けながら通りにある店や時折姿を見る日本国防軍の隊員達を物珍しそうな目で見ながら歩いていた。


そんな中央通りの車道を数両の装甲車が速度を抑えつつも目的の建物を目指していた。


歩道を歩く者達はそのエンジン音で後ろを振り向き、その場で立ち尽くしながらジッと新たな支配者である日本軍の車列を見つめる。


その彼等の視線にはガーハンス鬼神国やジュニバール帝王国に対して向けていた恐怖心や敵対心等は含まれておらず、見馴れない自動車に対する純粋な驚きや興味を示す、やや好意的なものであった。


池田大佐を筆頭とした第2戦闘団が入都してから11日が経過していた。その間の彼等は上記の2ヶ国のように住民等に対して略奪や暴力行為を行っておらず、むしろ緩和的な対応を目の当たりにした結果、この都市に住む彼等は日本軍を歓迎していた。


そんな彼等の視線をくぐり抜けながら戦闘車を含んだ車列は、とある大きな建物の敷地内へと向かう。


目的の建物は高い煉瓦の壁で周囲を覆い、唯一の出入口である鉄格子製の門には数名の警備兵が警戒をしめいた。


建物の主が雇ったと思われる剣を腰に下げた警備兵は車列を確認すると、すぐに門を開けて車列を敷地内へと誘導する。


本来は馬車を停める為であろう場所にそれぞれの車が停車し、そこから1人の男が降車した。


その男のもとへ、警備兵からの伝言で来たであろう建物の使用人が駆け足で寄り口を開いた。


「ようこそおいでくださいました、イケダ将軍様。皆様は既に中でお待ちしております。」


そう言われた男もとい池田大佐は横柄な態度で返した。


「おう、さっさと案内しろ。」


使用人は池田大佐の機嫌を損なわせないように細心の気を遣いながら先導していく。


周囲には池田大佐の護衛として数人の完全武装した隊員が険しい視線を向けながら追従した。


やがて建物の大きな玄関へと入った池田大佐はやや不機嫌気味であって表情から一転、目の前に広がる光景を見て表情を崩した。


「ほほう。綺麗どころを集めたもんだな。」


建物に入った池田大佐等を最初に出迎えたのは見栄麗しい若き女性達が満面の笑みを浮かべて列を成していたのだ。


しかも都市内でよく見かけるような素朴な女性達ではなく、化粧を施し、女性らしさを主張するような着飾った衣装を身に纏っていた。


恐らくは都市でも有名な高級娼館から手配したのであろう。目に見える範囲でもかなりの人数がいる事から、これに懸かった費用だけでも相当な金額になるのは間違いない。


そんな彼女等は妖艶に笑い彼等を誘惑するような艶かしい動きで彼等を歓迎した。


一般人ならばこれだけでも興奮で息を荒くし、心中で下世話な妄想を走らせていたであろう。


本土なら様々な事情で出来ない光景が目の前に広がる事に池田大佐は上機嫌に口笛を吹いた。反対にすぐ真後ろに立つ坂部は不機嫌そうに目をヒクヒクと痙攣をさせていたが池田大佐はあえて無視をする。


「いかがですか、お気に召されましたか?」


表情を崩して口笛を吹く池田大佐を見て使用人は恐る恐る聞いた。


「まぁな。最初にしては合格じゃねぇか。がははは!」


池田大佐はそう笑うと、気に入った娼婦2人を選ぶと片方は肩に手を回して、もう片方には尻に手を回した……


「んっんん!」


坂部が咳払いをして池田大佐を睨むが、本人は気にも止めずにそのまま奥へと向かった。


最初の関門を突破した事に安堵した使用人は気の弛みもあってか、不用意にも心を沸騰させていた坂部に声をかけてしまう。


「さぁ、皆様も気に入った娘達がいるのならばどうぞご遠慮なく………ふぐ!?」


調子にのって下衆な笑みを溢す使用人の顔を見て坂部は我慢の限界といった様子で顔を強く掴んで一言放った。


「いらん世話だ。さっさと歩け。」


「はひぃ!すみませんでした!」


坂部の殺気の籠った視線と声に使用人は大慌てで奥へと案内を続けた。


残った娼婦達も坂部の異様な雰囲気に圧されて後退った。


「いくぞ。」


そんな彼女達を無視して、坂部は数人の隊員達を率いて池田大佐の後を追った。






壁に豪華な調度品が下品にならない程度に飾られ、十数人が一度に入れる程度の部屋で、この都市の主な権力者や資産家達がイケダ将軍の到着を待っていた。


全員が僅かに緊張した様子を見せており、願わくばこのまま時が止まって欲しいと密かに神に祈ってる者すらいた。


「我々は無事で済むのだろうか?」


思わず口からこぼれ出た呟き。発したのはこの都市を拠点とする商会の主であった。これに別の男が応えた。


「都市長の話が事実ならば、少しでも弱味を見せれば瞬く間に奪われるという話だ。 だが使えないと判断されれば即座に捕らわれるであろう…………副都市長達と共にな。」


その言葉に最初に切り出した商会の主は顔を手で覆った。どっちにしても何かを差し出さねば破滅を意味すると察して。


ここにいる彼等の全員が共通していること、それは列強国同士の開戦前に都市にいた日本人に対して不当な理由で危害を加えた者達だったのだ。


そんな彼等は新たにやってきた日本軍から突如としてこの建物に集められたのだ。


十中八九、先に連行された副都市長等からの証言で自分達の行いが気付かれたのだろう。


彼等もまさかガーハンス鬼神国等を撃破してこの都市に入られるとは想像の範囲外であった故にこの都市にいた日本人への扱いはとても人の扱いとは言えない程に酷かった。


下手をすればこの場で殺される。その事実に全員は戦々恐々としていた。


その時、扉から突如としてノックが聞こえた。どうやら噂のイケダ将軍が到着したのだろう。


各々は慌てて服装を整えて始める。些細な不備でも相手に見つかれば一生後悔する羽目になるのだ。 


扉が開かれるとこの建物の使用人の顔が見えた。


「旦那様、イケダ将軍様がお見えになられました。」


使用人から放たれた言葉に一同はこの建物の主へと視線を向けた。


この都市の商業組合の組合長を勤める壮年の男はその表情に汗を流しながら彼等からの視線を受けて頷く。


「通してくれ。」


その言葉と共に彼等は立ち上がって噂の男の登場を固唾を飲んで待機した。


使用人が扉から姿を消すとすぐに件のイケダ将軍が背後に部下を連れて、更に手配していた娼婦を両脇に抱えて入室すると獰猛な笑みを浮かべて口を開く。


「おう、全員揃ってんな?」


イケダ将軍の表情を見た彼等は一先ず上機嫌であることに安堵の息を漏らすが、それは表面に見せずに商業組合長が反応した。


「精強な軍隊を率いられる将軍閣下には本日もご機嫌麗しく……」


挨拶を述べる商業組合長にイケダ将軍は鬱陶しそうに手を振った。


「止め止め。 そんな面倒な挨拶は飛ばせ。俺も暇じゃないんだよ。」


イケダ将軍はそう言うと娼婦を脇に抱えたまま空いていたソファの上座にドガリと座る。


「これは失礼しました……して、この者達はお気に召しましたか?」


自身達も座ったあとに、恐る恐るといった様子で商業組合長は目の前の日本人に聞く。


「ん? あぁ、コイツらか? 確かに面は悪くねぇな。 身体付きも悪くないが……ちと香水が強すぎるな。」


この言葉に室内の空気が一瞬にして硬直した。特に目の前で対面する組合長は顔面を蒼白させて小さく震えていた。


そんな彼等の反応を面白そうに観察したイケダ将軍は再び上機嫌に笑い声を上げると懐から小瓶を取り出して両脇にいる娼婦達に手渡した。


「だははははっ! だからお前等にはこれをやるよ。」


「これは何ですの?」


不思議そうに娼婦の1人が渡された小瓶を見つめながら聞いた。組合長等もその小瓶に視線を向ける。


そして彼等はその小瓶が非常に細かな装飾が施された香水の類だと察し、実際にイケダ将軍の答えによってそれは間違いないと分かった。


「俺の国で使ってる香水だ。 まぁ正確に言えばフランス産なんだがな。」


イケダ将軍はそう言うと香水を彼女等に吹き掛け、その香りを室内に漂わせた。


娼婦達は彼女達の人生の中でも嗅いだことのない見事な香水の香りに驚き、目を丸くした。そしそれは組合長達も同様だった。


いや、商いを生業とする彼等故にその香水の凄まじさは娼婦である彼女達よりも、より深く理解したであろう。


容器を見ても全く淀みが見えない程精巧に作られたガラス細工、どんな染色なのか不明な程に滑らかな装飾に塗られた紫の塗料、この容器単体だけでも相当な値が付く筈だ。


大陸中に流通しているどの高級香水よりも洗練された、そして全くと言って良いほどに余計な香りを感じさせずスッキリと、しかしいつまでも記憶に残る見事な香り。


それだけでも世の権力者達の女達であれば大金をはたいてでても欲するであろう一品。


もし仮にこの香水が市場に出回れば自分達の商会にある香水等は淘汰されるのは明白。


「まぁ!本当ですの!こんな凄い物を頂いてもよろしくて!」


現にイケダ将軍から貰った香水を大事そうに受け取った彼女達はその表情を歓喜の色を見せた。


まさか香水単体でここまでの差を付けられるとは予想外であった。


「な、何とも素晴らしい物をお持ちのようで。」


なんとか口から絞るようにして出した褒め言葉を受けてイケダ将軍は上機嫌に応えた。


「いやなに。この程度なら国にいる女共に腐る程プレゼントしてるからな。 そんな事よりもお前達も何で呼ばれたか気が気じゃねぇだろ?」


この言葉に組合長達の心臓が鷲掴みされたような寒気を感じ取った。まるで自分達を探るような言葉、それはイケダ将軍の顔を見て疑いは確信に変わった。


先ほどまで娼婦達に向けていた笑顔は完全に消え失せており、獲物を食い殺すような、剣のように鋭い視線を向けていた。


これに思わず笑みを浮かべていた娼婦達も急な空気の変化を感じ取り、その笑顔に陰りを見せた。


「図星だな? 知っての通りにお前達には既に民間人への暴行罪、監禁罪、強姦罪、強姦致死罪といった嫌疑がかけられている。俺の言いたい事が分かるな?」


そう言い終えるとイケダ将軍の背後にいた部下達が武器らしきものに手をかけた。恐らくは列強国が扱う銃というものだろう。


「な、何の事か我らにはさ、さっぱり……」


商会長の1人が絞り出すように口を開くが、彼等の鋭い視線は変わることは無かった。しかしそんな彼等を制するようにイケダ将軍が応える。


「まぁお前達がそうシラを切るなら良い。証拠なんて探せば幾らでも出てくるだろうしな。

だが、お前等に機会をくれてやってもいい。」


この言葉に思わず商会長の1人が勢い良く顔を上げた。これにしまったと表情を強張らせ、他の者達がその男を咎めるような視線を向けるがもう後の祭りだ。


「ふん。やはり裏があるじゃないか? 最後の言葉に期待してたろ?」


「い、いいえ違います! ご、誤解ですイケダ将軍閣下!わ、私達は本当に何も関わってないのです!」


どうにか誤魔化そうするが、すればする程逆効果だというのは自分達でも理解はしていた。しかしそれに縋るしかもう後がない。


そんな彼等を前にイケダ将軍は再び口を開く。


「さっきも言ったろ? そんなお前達に機会をくれてやってもいい……てよ。 これを受けるかどうかはお前達次第だ。」


イケダ将軍はそう言うと獰猛な笑みを彼等の前に見せた。彼等はこの男が放つ笑みに呑み込まれていくのを肌で感じた。







部下を連れて再び噂の鉄の乗り物に乗り込んで建物を後にする池田大佐の後ろ姿を、部屋の窓から見届けた商会長の1人は背後を振り返った。


「組合長殿、あのニホン人の話どうするべきか?」


神妙な表情のまま腕を組んで考えていた組合長はその言葉を聞いて淡々と答えた。


「どうするも何も、受けるしか道がない。あの様子ではとっくに証拠はすべて握られてるのは間違いなかろう。それに話事態は悪くないものだ。」


「悪くないですって? どう考えてもガーハンス鬼神国等を敵に回す内容ですぞ! もし、奴等が再びこの街に戻ってくれば我等はおしまいだ!」


頭を抱えていた別の男が嘆くように言った。彼は池田大佐の話に否定的な様子だ。


「第一にあの男を信用なんて出来ん! 貴方達も見たであろう! 我等が狼狽える様を面白おかしく見ていたあの野蛮人を!」  


激しく反対する男の言葉に全員が沈黙する最中、組合長が重々しく口を開いた。


「分かっている。だからこそあの男の元に女達を送ったのだ。 君達もあの様子を見たであろう?」  


「色仕掛けですか? 確かに効果はありそうでしが……」


鉄の乗り物に女達を乗せて出ていく光景を思い出した商会長は頷いた。


「それにあのイケダの背後にいた部下もだ。 何度か不満そうにイケダを睨んでいたぞ。あんな性格だ、きっと配下の者達も不満を抱いているに違いない。 その者達から情報を仕入れば良いのだ。」


「それは些か危険では? 幾ら人望が無いとしても我々に協力してくれるのかも不明だというのに。」


「そんな事は分かっておる。 娼婦共以外にもイケダの元に身の周りの世話役として女達を送り込むのだ。 あの男の事だ、必ずや鼻を伸ばして受け入れるに違いない。」  


「その女達に探らせる訳と?」


男の言葉に組合長はニヤリと頷いた。


「そうだ! イケダの元に集まるニホン軍の動向と弱味を握らせるのだ! そうすれば仮にガーハンス等が戻ったとしてもその情報を手土産にすれば安泰だ!」


組合長の力強い言葉に聞いていた彼等は感心したように安堵の息を漏らした。








池田大佐が気に入った娼婦2人を乗せた車の後方を走行していた軽装甲車の助手席に座っていた坂部はイヤホンから聞こえてくる会話に耳を傾けていた。


『実に妙案ですな!それならばどっちに転んでも我等に損はない! 上手く行けば奴等に一志報いることも……』


坂部はそこまで聞くと装着していたイヤホンを外して不機嫌さを隠さずに溜め息を漏らす。そこへ運転席に座る部下が話しかけてきた。


「案の定ですね。」


「あぁ全くだ。盗聴されてるとは夢にも思ってない様だな。虫酸が走る内容だ。」


あの時、池田大佐の背後に控えていた坂部は小型の盗聴機を室内に仕込んでおり、その後の彼等の会話は全て筒抜けであったのだ。


「坂部大尉、あの女達はどうします?」 


隊員は前方の車で池田大佐と楽しそうに会話をする娼婦達について聞いた。


「あの女共は池田大佐がキッチリ相手する。我々はその後からくる間者共を監視すれば良い。それが鬼導院師団長のご指示だ。」


その通りに動くだけだ。そう坂部は呟くと、座席に背中を預けて瞳を閉じた。


「では我々はあの指示通りに動けと?」


隊員は不満そうに反応した。池田大佐と鬼導院師団長の両方から与えられていた任務について触れていると察した坂部は同意するように応える。


「気持ちは分かる。俺達までもがあの糞ッタレ大佐野郎と同類の事をやるのは気が引ける。それが当たり前だ……だが命令だ。その時が来たらしっかりやれ。」


「やれやれ、国民の盾であるべき自衛隊が悪徳お代官様の二番煎じをやるとは……」


世も末ですね。そう隊員は小さく呟くと坂部は何も言わなかったが心の中で同意した。






       都市リバーテ


この都市に詰めていた連合軍の大部隊の多くが大陸西部に向けて動き出していく最中、ジュニバール帝王国陸軍情報部のウェイド・バルソンスール情報大尉は外套を身に纏い、街中に数多くある裏路地を歩いていた。


常に建物の影によって日光が遮られた影響か、昼間だというのに視界が悪く、時期もあってか肌寒い。


そんな常人であれば通らない裏路地を何度か曲がり角を曲がったルソンスール大尉は目的地である小さな一軒家の前まで到着してその場で足を止めた。


周囲を油断無く見渡して追手が居ないことを確認すると一軒家の窓際の近くに寄りかかって口を開いた。


「影の道に先はない。」


そう言うと一軒家の窓から人影が表れてバルソンスール大尉の姿を確認して口を開いた。


「だが何処にも道を作れる。」


そんなやり取りを終えると相手はバルソンスール大尉に向かって話し掛けた。


「お久し振りですね旦那。今回は預けてた物を受け取りに?」


「いいや、それはまだ持っていてくれ。今回は別件で依頼をしにきた。」


バルソンスール大尉はそう言うと懐から紙を取り出して僅かに開かれた窓へと投げた。


「そこに書かれてある都市の情報を集めて欲しい。」


するとカサカサと紙を広げるような音が聞こえ、再び声がする。


「ここは確か……あのニホン軍が占領したという都市では?」


その言葉にバルソンスール大尉は驚ろいた。


「耳が早いな。こっちは末端兵士等はおろか、一部指揮官でもまだ知らされてない内容だぞ?」


「ふふふ、我々、盗賊組合の情報力はこの大陸のどの組織よりも優れております。」


この返答にバルソンスール大尉は列強国たる自分達よりも辺境の大陸に過ぎない一組織が優れていることに失望の念を感じずにいられなかったが、すぐに気を取り直す。


「なら話は早い。そこの日本軍についての情報を出来る限り集めてくれ。報酬は充分に支払う。」


「承知しました。近日中にはお気に召す情報を揃えてみせましょうぞ。」


相手はそう言い終えると僅かに開かれた窓が閉じられ、一軒家から感じてきた人の気配も同時に消え去った。


「行ったか……」


バルソンスール大尉はそう呟くと、懐から煙草を取り出してその場で一服するがある出来事を思い出して怒りを露にした。


「あの糞参謀共め! せっかくのガーハンスとの連携を不意にしやがって!」


バルソンスール大尉はガーハンス鬼神国の部隊がジルヒリン議員を筆頭にした参謀達の策略によって誰もいない地域に進軍した事を独自の情報網で知ったのだ。


すぐに前線にいるスロイス大佐達に知らせるとやはり彼等も同様に怒りを露にした。


だが今更、気付いたところで出来る事はない。ならば自分は少しでも日本軍に関する情報を集めて前線にいるスロイス大佐達と共有しようと動いていたのだ。


そこでバルソンスール大尉はスロイス大佐とのやり取りで得た情報の1つを思い出した。彼が新たな部下として引き抜いた第29師団のカーミル中佐からもたらされたものだ。


『小型飛行機の群れだと!? それは間違いないのか!』


軍が管理している魔信機の1つを拝借して会話をしていたバルソンスール大尉はスロイス大佐の言葉に驚愕した。


『あぁ、カーミル中佐本人は見ていないようだが、羽音を出す小型飛行機が様々な方向から飛んできて爆弾を投下してきたようなんだ。

これは貴官が見せてくれた、らじこん、という日本の玩具と類似してると思うのだが……』


バルソンスール大尉は顔中を冷や汗がダラダラと流した。


『それが本当ならその可能性は大いにある。』


『やはりか……っ! すまない。部下から呼ばれた。恐らくは出撃するだろう。話はまた後日しよう。』


『わ、わかった! 無事に生き延びてくれよ!アンタ等は大切な理解者なのだから!』


『無論だ。』


そこまで思い出したバルソンスール大尉は吸い終えた煙草を捨てて、その場から離れた。


(やはり奴等は既に人を搭載せずに操作できる兵器を確立させていた!)


この事実は極めて由々しきものだ。何せ相手は人的損失を気にすること無く攻撃をすることができるのだ。


そして相手は恐らくそれを大量運用するだけの数を揃えてるだろう。


戦争の在り方が変わる、バルソンスール大尉はそう呟くと急ぎ足で諜報部へと戻る。



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― 新着の感想 ―
医学知識と魔法知識のハイヴリットでさらに名声をつかむ魔法医はいそうですね。
やはりバイート少将は生き残って捕虜になってましたか、しかしながら大敗したのに日本の国力をまともに見ようともせず喚き散らすとは…、敗戦後にどんなリアクションをするのかますます楽しみです。 しかも、政治側…
ガーハンス鬼神国はまるで、腐敗した大企業ですね。 上官を恐れて、大敗北という事実を報告できない部下。その誤った報告を信じて、正しい判断が出来ない上官。 加えて、自分は特別な人間だと信じて疑わない、傲…
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