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強化日本異世界戦記  作者: 関東連邦
第5章 世界大戦
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第81話 祝杯

第81話 祝杯



     日本国 東京 迎賓館



「・・・さて、話は以上でよろしいかな?」


目の前にいる2人の男性の見下したような表情でそう言い放つ姿に大野外相は、毅然とした面を維持して正面の連合軍大使に応える。


「えぇ、今時間を持って貴国方の宣戦布告を受けましょう。」


腕時計に視線を下ろして、そう応える大野外相に机の上に広げていた書類を纏め始める連合軍大使の1人が溜め息と共に口を開いた。


「やれやれ・・・貴国の頭の堅さには呆れますよ。」


「どう言われようとも、このような内容の要求を受け入れる事は到底出来ません・・・ヴァーモン大使。」


「そうですか、では今後の外交交渉は先の会談の通りに『バフマン』でお願いしますよ。」


ヴァーモン大使と呼ばれた男 ガーハンス鬼神国の駐日大使は、その言葉を聞いて嘲笑の笑みを浮かべた後、隣のジュニバール帝王国の駐日大使と共に迎賓館から出た。


迎賓館から出た彼等はその後、他の外交職員等と共にこの日本から出ていく。


これから来るであろうと予期している日本の本土戦争から一時的に逃れる為に・・・


今後、彼等との交渉は非交戦地帯と認められたバフマン王国のソウバリンでのみで受付られる。


彼等が出ていくのを見届けた大野外相は懐から携帯を取り出して野村総理に連絡した。


「総理、今しがた会談が終わりました・・・はい。 奴等の要求はデヴェート宣言内容と何ら変わりありません。」


野村総理から鋭く尖った声が大野外相の耳に突き刺さる。


『・・・先のバリアン大陸の民間人虐殺の件について彼等は何か言及したか?』


それに大野外相は少し思案してから応えた。


「いいえ、何も言っておりませんでした。」


そこで通話は切れた。







  バリアン大陸 中部 センゲル平野


このバリアン大陸の中心部にある広大な平野のある丘の上で、鬼導院中将が率いる国防軍と魔法文明国の連合軍の使者が互いに向き合っていた。


「ジュニバール帝王国 前線司令官であるジルヒリン議員閣下より交渉権を拝謁したチャガイ・レイ・バイート少将である。」


軍人とは到底思えない程に、彼の着る軍服は綺羅びらかな装飾品を飾り付けた肥満の男性を正面に捉えた日本側の軍人が名乗る。


「日本国防軍 陸軍の貴戸風柳大佐です。」


第3戦闘団の団長を勤める貴戸に対して、目の前の肥えた男 バイート少将は彼の役職に不満げに顔を歪ませて溜め息を吐いた。


「ふん・・・たかだか大佐程度で、この私が相手をする羽目になるとは・・・嘆かわしい。」


見下すバイート少将の言葉に貴戸は全く表情を変えずに、彼は独り言を心の中で呟く。


(・・・速く終わらせたいものだ。)


事の発端は先のジュニバール帝王国の航空隊による日本国防隊員と民間人への虐殺事件がきっかけだ。


既に日本本土では、正式に宣戦布告が連合軍側より受け取っており、その報せは鬼導院中将にもすぐに伝わっていた。


この世界での国際法では、すでに両勢力は交戦状態にあるが、こうして向き合ってるのは連合軍側からの要望だ。


一体どんな目的かは分からないが、センゲル平野の指定された場所で、交渉の場を設けたいと都市国家経由で伝わったのだ。


こちら側への返答も聞かずに既に連合軍側の使者が準備をしているらしいので否応なしに、最も付近にいた貴戸が向かったのだ。(無論、安全を何重にも確認してある。)


そんな事情で両者はこうして向き合っての交渉をしている。


そう貴戸が事の経緯を思い返している間にもバイート少将はベラベラと言いたい放題であった。


「本来ならば大佐ふぜいの貴官がこうして私と対等の場にいることが、一体どれだけの幸運に恵まれたかを理解して、この交渉に・・・」


延々と続きそうな無意味な話を貴戸は打ち切る為に、口を開いた。


「それで? 我々とは一体どういった内容での交渉を行うのですか? 我が国の隊員と民間人を虐殺した行為について、謝罪をしてくれるのですか?」


話を邪魔されるように口を開いた貴戸に対してバイート少将は気分を害したが、その彼が言った内容にキョトンとしたあと、こう反応した。


「はぁ? 謝罪だと?」


そう呆れとも、怒りをも感じ取れるような声で聞き返した。


「違うのですか? そちらは宣戦布告も無しに我が国へ攻撃を行い、あまつさえ無抵抗な民間人を虐殺した。 その謝罪があっても良いのでは?」


貴戸の言葉にバイート少将は拍子抜けしたような表情をしたのも束の間、すぐにフッと貴戸を心底、侮辱するように言った。


「は、はははっ! 君はこうも間抜けだとはな。 虐殺など人聞きの悪い・・・あの行為は儀式なものではないか。」


バイート少将の言葉に貴戸は僅かに眉を潜めた。


「儀式ですと?」


「そうだ。なにぶん列強同士との戦争など今まで無かったものでな・・・あぁ! 失礼したな。貴国はオーマバス神聖教皇国と交戦していたのだったな・・・くくくっ あんな下位列強程度とな。」


バイート少将は押し上げてくる笑いを堪えるようにして続けた。


「まぁ、そういった事情もあり兵達も興奮していたのだ。 だがあの一件のお陰で、君達も理解できた筈だ。私の言ってる事が分かるな?」


「さて、私には何の事だか分かりません。」


淡々と述べる貴戸にバイート少将は、コイツは馬鹿なのかと言わんばかりの表情で見つめた。


「・・・なんて事だ。 この期に及んで、まるで危機感を持っていないとはっ!」


顔を片手で覆って、日本の無能さにほとほと呆れる反応をするバイート少将。


やがてそんな臭い演技を終えたバイート少将は目の前の貴戸にこう告げた。


「手短に言おう。さっさと我が軍へ降伏せよ。

 そうすれば君も部下を無駄に失わずに済むのたぞ?」


そう言い終えたバイート少将は貴戸の返答を待った。しかし貴戸は‥


「それは出来ない話ですな。」


貴戸の返答にバイート少将は不快そうに顔を歪ませた。


「正気か? 我々は質も、数も、全てが君達に勝ってるのだぞ。 そうやって馬鹿みたいに強情を張らずに降伏した方が遥かに利口だと分からんのか!」


怒鳴るように宣告するバイート少将なんぞ気にも止めずに、貴戸はこの交渉に意味を成さないと判断して目の前の男に背を向けて後方にいる部下達の方へと立ち去った。


「き、貴様!? なんと礼儀のなっていない奴だ!」


無言で背を向けた貴戸に堪忍袋の緒が切れたバイート少将はその背に一頻り罵詈雑言を浴びせた後に、こう締め括った。


「・・・良いだろう! ならば我等は貴様等を一兵に至る迄、殲滅してやろうぞ! 

 精々我等への慈悲を蹴ったことを後悔するがいい!」


そう言い終えたバイート少将は荒々しく踵を返して、ジルヒリン議員へ事の顛末を報告しようと去った。






「・・・行ったか。」


バイート少将を乗せた護衛の車列が平野の地平線へと消えるのを確認した貴戸は、隣に立つ部下に指示を出した。


「敵が動き出すと、鬼導院中将へ伝えろ。」


「はっ。」


部下はそう言って、近くの通信車両へと乗り込んで本陣のあるチェル・ノジニ軍港へ無線を飛ばした。







 バリアン大陸北東に位置するジュミルノ半島

       都市国家リバーテ



ジュニバール帝王国・ガーハンス鬼神国そして傘下の準列強諸国の軍人達が駐屯する都市リバーテでは、先日までの平穏とした空気から一変、ついに始まる戦闘に活気づいていた。


そんな都市リバーテの中心部にある都市長の邸宅の大広間ではジルヒリン議員が主催するパーティーが行われていた。


ジュニバール本土よりわざわざ輸送船に載せて持ってきたであろう高価な食器類や豪勢な食材をふんだんに使用された大量の料理が、大広間にある長大テーブルの上に溢れんばかりに並べられていた。


次々へとテーブルの上へ置かれる高級料理を参加した各国の指揮官達やジルヒリン議員の小飼の参謀達はおろか、連れてきていた奥方達もこぞってその料理を口へ運んでいく。


そして口にした料理の味を褒め称え、確実な栄光を手にした自分達への耀かしい未来に祝杯を挙げている様を肴に上座へ腰を落とす主催者ジルヒリン議員は持っていた酒杯を喉へ通していた。


ジュニバール帝王国でも格式高い酒造社によって造られたワインを堪能したジルヒリン議員は酒杯から手を離して、今度は目の前に置かれたジューム牛のステーキを金ナイフと金フォークで切り分けて口へと運んだ。


列強でも極限られた者でしか口に出来ない高級肉の旨味を噛み締めるジルヒリン議員の元へ、彼の身の回りの世話をする高級士官が耳打ちをした。


その内容に耳を傾けて聞き終えたジルヒリン議員は思わず吹き出してしまった。


「ふっふふふ・・・ふはははっ!」


一頻り笑い終えると、刺したままの肉を優雅に口に入れ、ナプキンで僅かに唇についた肉汁を拭く彼に、下座に座っていた指揮官の1人が声をかけた。


「如何なさいましたかな? ジルヒリン司令官閣下殿。」


その質問を待っていたと言わんばかりにジルヒリン議員は、先ほど聞いた内容を興味津々な彼等に教えた。


「いやなに・・・僅かな手勢しかいない日本軍へ、降伏の話を持ち掛けたのたがね・・・どうやら彼等はそれを蹴ったようだ。」


その内容に彼等は目を見開いた。そして隣の席に座る同僚達と目を合わせて互いに笑いあった。


「はははっ それは愉快ですな! ジルヒリン司令官閣下殿の寛大な慈悲を蹴るとは。」


各国の指揮官とジルヒリン小飼の参謀達はこの大陸にいる日本軍は、どんなに多く見ても精々が2万になるかどうかの数と聞く。


それに対して此方は、直に10万規模となる大軍がこのバリアン大陸へと上陸するのだ。互いの戦力差は圧倒的。


「なんともたったの2万ちょっとの兵で我等と戦うつもりですか、ニホンは。 」


指揮官の1人がそう高らかに言った。そこへ別の国の指揮官が補足する。


「確か・・・ニホン側へ味方する都市国家もいると聞きましたぞ。」


その補足を聞いたジルヒリン小飼の参謀が嘲笑の笑みを浮かべて応えた。


「ふん、都市国家を味方につけて、我等 列強と準列強諸国と戦争するつもりなのかね?日本は。」


その言葉に、静かに笑っていた指揮官等の奥方達も口元を手で隠して上品に笑った。


「あらあら・・・」


「おほほほほ。 なんとも勇ましい人達ですこと・・・」


室内が一気に柔い空気になると、食事を楽しんでいた彼等はこれから勇敢に、たが無惨に散っていく事になるであろう日本に余裕の態度で称えだした。


酒杯を片手に揺らしていたジルヒリン議員はそこで席から立ち上がって、一同の視線を高く掲げた酒杯に集めさせた。


「諸君、勇敢な日本軍へ敬意を表して乾杯しようではないか。」


その言葉に指揮官も参謀も、同席していた奥方達全員が席から立ち上がって持っていた酒杯を掲げた。


「勇敢であって哀れな日本軍へ乾杯!」


ジルヒリン議員の乾杯の音頭に合わせて彼等も応える。


「「哀れな日本軍へ!」」


そうして酒を喉へ通していく一同を見たジルヒリン議員は側にいた側近へ指令を出した。


「前線にいる地上部隊へ攻撃命令を出せ。 せっかくの列強同士の初戦だ。 地上戦力のみで日本軍を圧倒しろ。」


「承知しました。」


ジルヒリン議員の指令に側近は恭しく一礼した。






ドンっ! と強く机を叩いた後、スロイス大佐は指令室にいる参謀達に直訴した。


「納得できません! 地上戦力のみで戦うなど! 航空戦力も全面的に出すべきです!」


生意気にも前線司令官の命令に異議を唱える若き大佐を、パーティーに参加していなかった参謀達の1人が苛立たしげに言った。


「スロイス大佐、これは他でもないジルヒリン議員閣下の直々の命令だぞ。 一介の大佐ごときが反対するなど言語道断だ。」


これに周りの参謀達も同意するように頷くが、スロイス大佐はそれに臆する程、胆の弱い男ではなかった。


「しかし参謀次官殿! 相手は少数とは言えども、列強です! 将兵達への損失を最小限に抑える為に最初は航空戦力による空爆を行うべきです!」


「あぁ・・・確か、君の論文にあった『航空戦力による敵無力の効率化』を言っているのだな?」


スロイス大佐が陸軍大学の在籍中に提出した論文に彼は頷いた。


列強同士の地上部隊による交戦では、甚大な被害が出ることを想定したスロイス大佐はそこで、予め航空戦力による空爆を敵前線に行うことで、敵勢力を弱体化させた後に味方の地上部隊による攻撃で、味方の損失を最小限に、そして短期間でできる内容だ。


これは地球世界においては、戦術の基本中の基本とも言えるものだが、この世界において列強との大規模な戦争が一度もない為に、その戦術はまだ世に出ていなかった。


それを今回の作戦で試験的に試される話だったのが、ジルヒリン議員の一言によってそれは有耶無耶にされて現在に至る。


陸軍大学ではある程度評価された論文であったが、参謀達はこれを嘲笑った。相手が自分達よりも若い将校なのも理由であろう。


「今回は航空機なんぞ出さんでも良い。 第一に・・・これは史上初の上位列強国が同盟を組んでの戦いだぞ?

それで最初の戦闘で空軍に手柄を譲ってどうするか!」


「その通り。 只でさえ開戦の一番乗りを連中に取られたと言うのに・・・貴官は陸軍将校として何とも思わんのか!?」


スロイスはそこで参謀達の考えを理解した。要はこれ以上の軍功を空軍に取られたくないのだ。しかも、列強同士との大規模な地上戦は世界初なのだ。


その先鋒を空軍に取られるのは面白くないと考えであろう。


「それに議員閣下の命令は既に前線に伝わってる頃だ。 貴官に出きることなど無い。直に届く戦勝報告をのんびり待っていろ。」


話は終わりだと言わんばかりに、作戦室を追い出すように部屋から出されたスロイスは、通路にあった木箱に怒りをぶつけるように勢い良く蹴った。


「くそっ!」


バラバラに壊れた木箱の前に立ち尽くしていると、その寂しげな背中から親友であるデリックの声が聞こえた。


「珍しく荒れてるな。 らしく無いぞ?」


スロイスが振り返れば、軍帽を脇に挟んで心配そうに自分を見つめるデリックが見えた。


「デリック・・・すまない。少し気が立っていた。」


「だろうな。今度は何があった?」


親友の気遣う視線にようやく落ち着きを取り戻したスロイスは先の参謀達との会話を話した。


事の詳細を把握したデリックは脇に挟んであった軍帽を人差し指にかけてそれをクルクルと周りながら苦笑いして口を開いた。


「・・・成る程。 確かにあの坊っちゃん司令官様には呆れるわな。 それに媚びる参謀連中共にも。 成功すれば自分達の名は世界に轟くって知ってるから余計に口出しされたくないんだろうよ。」


「今や我々側の司令部要員はどいつもこいつも目先の手柄しか頭に入ってない。 現場で命を懸けて戦う兵達の負担なんて蚊帳の外だ。」


「まぁ、落ち着けよ。 幸いにも今回の敵は大した事じゃない。 日本の本土上陸作戦前までにあの議員を説得すれば良いじゃないか。」

 

デリックはそう言って再び気を荒げそうになるスロイスを宥めた。


そうしてスロイスは気分転換も兼ねて別の話題をデリックに振った。


「・・・そう言えば、勝手に日本に最初の攻撃を与えたあの航空隊はどうなったんだ?」


その話題にデリックは顎に手をかけて、思い出すような仕草で口を開いた。


「あぁ、アイツ等だな? 確か、第91飛行大隊って言ってたな・・・一応は軍規違反だってことで謹慎処分を受けてる最中なんだがな、隣の空軍基地では、アイツ等は英雄扱いだぜ。」


デリックの言葉にスロイスは複雑な心境で反応した。


「やはりか・・・」


「あぁ、何せ最初の一番槍だからな。 基地では連日 ソイツ等を囲ってのお祭り騒ぎだ。 謹慎処分なんて言ってるが殆ど無視されてるぜ。 空軍のお偉方は勲章の準備をしてる有り様だ。

 今だってきっと街中の飯屋に行けば空軍の連中が昼間っから飲んでるのが見えるぞ。」


デリックはこの数日間街中でよく目にする、従軍治癒魔術師の女達を誘ってはどんちゃん騒ぎをする空軍のパイロット達の姿を思い返した。


そう言いうとデリックは、面白くないといった表情をする。普通なら調子に乗ってる空軍に嫌気がさしたと思うが、スロイスは知っている、隣のデリックの表情の意味を…


コイツは単純に女達と楽しそうに飯を食べてる空軍達が羨ましいからその表情をしているのだと。


「羨ましいなら、混ぜて貰ったらどうだ?」


「けっ嫌なこった。 アイツ等、自分達は技術職だからって陸軍の俺等を見下して・・・」


そこで窓から外を見ていたデリックの言葉は途切れた。外にいた士官達が忙しなく辺りを動き回っていたからだ。


その様子を見た2人は、恐らくは日本軍との交戦がもうすぐ始まるのだと察した。彼等は司令部に勤務する者達で、これから前線へひっきりなしに来る報告や補給等の手配をする為にああやって動き回ってるのだろう。


「・・・始まるか。」


スロイスの呟きに、軍帽を回していたデリックはそれを被って、彼に告げた。


「んじゃ、俺は少将から呼ばれてるんだわ。」


「ん?なんだ。 始末書でも提出するのか?」


落ち着きを取り戻したスロイスの軽口に、デリックは面倒臭そうに言った。


「違う違う・・・親父くらいに歳の離れたオッサン共との会食だよ。 多分だけど、本土へ帰還した時の戦勝パレードの打ち合わせだろうよ。」


スロイスはそれに眉を潜めた。そしてデリックに哀れみの視線を向ける。


「何処も既に勝ったつもりか・・・」


「そういうこった。 じゃあ、あばよ。」


恐らくは会食後はすぐに来るであろう戦勝報告後の戦勝パーティーもあるだろうから、今日は眠れないな、とデリックは言い残してその場から去った。


誰も居なくなった通路を見渡してスロイスは外の景色を窓から見つめた。その先は日本軍がいる西の方角であった。


スロイスは圧倒的な戦力差であるのにも、降伏せずに武器を握る日本人へ、少しばかりの同情と尊敬を含んだ視線を西部へ向けた。





    同都市 大通り近くの飲食店


スロイス達のいた都市長邸から離れた区画の大通りに面した人気のある飲食店の店内に1人の金髪の若き女性がいた。


大きなガラスをふんだんに使用された解放感のある店内の片隅で紅茶を静かに飲んでいた彼女に別の女性が仲良さげに声をかけた。


「ねぇねぇレーナ! レーナもあっちで一緒に食べようよ! 空軍の人達も一緒の席で話したいって誘ってるよ!」


「マナ・・・私は大丈夫よ。」


それにレーナと呼ばれた成人を迎えたばかりのジュニバール帝王国 従軍治癒魔術師のミシェル・レーナは同じ治癒魔術師で同郷のハリアナ・マナからの誘いをやんわりと断った。


しかしマナは唇を尖らせながらも、そんなレーナの腕を掴んで向こうの席へと連れて行こうとする。


「えぇ~、行こうよ! 皆も一緒に話したがってるよ。 ねぇ~良いでしょ!」


そう食い下がらない友達からの誘いにレーナはチラリと向こうの席を見た。


その方向には、大勢の人達が大きなテーブルを囲んで座っており、その内の何人かがレーナとマナの2人を見て手を振っていた。


恐らくは空軍のパイロット達であろう。そんな彼等の隣には他の治癒魔術師の女性陣が混ざって座っていたのが見えた。


「レーナちゃんだって? 君も一緒に飲もうや! 今ならレッゾが奢ってくれるぜ!」


「おいっ! 勝手に決めんなよ!」


そう言って盛り上がる彼等を横目に、レーナはマナに押し負ける形で席に混ざった。


「レーナはこっちこっち!」


マナはそうレーナを長身で顔の整ったパイロット2人の空いてる間に滑り込ませるように座らせた。


それにレーナは慣れない様子で座って両隣のパイロットに頭を下げた。


「し、失礼します・・・」


ようやく自分達の隣にも女の子、しかも他の治癒魔術師の女の子と比べても、特段と顔の整ったレーナに2人は嬉しそうに話し掛けた。


「あぁ、よろしくな! えっと・・・レーナちゃんだったっけ? いやぁ君みたいに可愛い子が隣に来てくれて嬉しいよ! あ、俺はジャックっていうんだ。よろしく!」


レーナの右隣に座るジャックはそう言って、彼女の肩に腕を回して自分の方へと彼女を寄せた。レーナが嫌悪感を感じるよりも前にそれを見た反対側の男が言う。


「おい、抜け駆けすんなよ! レーナちゃん、コイツは女ったらしだから気を付けなよ?」


「おいおい、お前だってそうだろ?」


2人はそう言い合って笑い声を上げた。それにレーナは愛想笑いをするが、心の中で溜め息を吐いた。


正直に言ってレーナはこういった場が苦手な子なのである。出来る事ならば先のように1人で静かな時間を過ごしたいタイプなのだ。


しかし彼女の親友であるマナはそんなレーナとは反対にとても活発な性格であり、それ故に彼女を頻繁にこういった席に案内することがあった。


更にレーナは他の女性達と比べても整った顔立ちをしており、それが災いして彼女に対して声をかける男性は後が絶たなかった。


現に今もこうしてレーナを巡っての軽い奪い合いが起こり、彼女はそれに嫌気がさす。


周りを見れば、先ほど自分を誘ったマナは少し離れた席に座り、隣の爽やかな軍人と楽しそうにお喋りをしていた。


他の顔見知りの治癒魔術師の女の子達も隣の軍人達と楽しく会話や酒の入ったジョッキを片手に食事を堪能していた。


昼間だというのに堂々と酒を飲んでいる事に、大丈夫なのかと少し疑問を抱いたレーナだが、そのタイミングでこのグループのリーダ格の男性が立ち上がった。


「さぁ諸君、注目!」


そのリーダ格の声に一同は視線を彼に向けた。

視線が集まった事を確認した彼は、咳払いをしてから口をひらいた。


「今日はめでたい日になるであろう! 何故ならば今日は遂に我が国の陸軍が大陸の端に縮こまっている日本軍に攻撃をする日なのだからな!」


その言葉に、男達は威勢のいい声をあげて、女性達は歓声ともいえる甲高い声を出した。


それにリーダ格の男は満足そうに頷いて、この店内にいた別のグループがたむろする一角へと視線を向けた。そこはここと同じように軍服を着た男達と治癒魔術師の女の子達が座っていた。


「これも全てはあそこにいる勇敢な第91航空大隊の彼等が、ジュニバール帝王国を代表して日本に鉄槌を下したからである! さぁ、彼等に盛大な拍手を!」


その瞬間、レーナのいるグループだけでなく、店内にいた多くのグループが一斉に、その彼等に対して拍手を贈った。


レーナの隣に座るジャック達も同様で、それに彼女も遠慮がちではあるが拍手をした。


そうすると店内からあふれでる拍手をその身体に受けたグループの男達の代表格の男性がゆっくりと立ち上がって大きく一礼した。


「ご紹介にお預かりました、第91飛行大隊を代表して、このアズラ・ベボ少尉が皆さんに感謝の言葉を贈らせて頂きたい。」


それに店内は先ほどよりも大きな拍手と歓声が空間を支配した。


一頻りの反応を受けたベボはそこで、隣に座っていた、恐らくはあのグループ内はおろか、この店内の男達でも最も若いであろう青年の肩を叩いて、彼に視線を集めさせる。


「そして・・・この若きパイロットは、なんと日本軍の車両を撃破した名パイロットなのです! この未来のエースにも拍手を!」


ほら、お前も立てキアル!っとベボ少尉はレーナと同じ年頃であろう青年を立たせた。


キアルと呼ばれた青年は、気恥ずかしそうに頭を下げて立ち上がり、名を名乗った。


「え、えっと・・・はじめまして、キアルと言います。 ど、どうぞよろしく・・・」


そう年相応に初々しい姿をみせるキアルに、レーナの近くにいた女性陣が話し合った。 


「あの子もパイロットなの? 私達と同じくらいじゃない! 凄いわね・・・」


「あんなに可愛いのに、敵をやっつけちゃうなて信じられないわ。」


きゃっきゃっと話す彼女達を聞いた近くの軍人がその会話に混ざった。レーナはそれに聞き耳をたてる。


「はっはっは! なぁに日本軍の連中は対して強くないからな。 戦いが始まればキアルみたいに戦功をあげる奴はどんどん出てくるぜ。」


「そうなんですか?」


興味津々に聞いてくる女性陣の1人に、今度は別の軍人がジョッキを傾けながら言った。


「あぁ・・・なんでも話しによると、日本は兵力も少ないし、連中の使う兵器はどれもポンコツ揃いなんだ。 この戦いだって1週間も経てば終わるだろうな。」


「その時には日本軍の捕虜共はこの大通りを歩いてるだろうよ! 君達には来て貰って申し訳ないが、仕事はあまり無いぜ?」


「えぇ~せっかく来たのにぃ。」


「がはははっ! まぁ俺達にとっては有難い話なんたけどな。」


「君達の本番はこれからずっと先の日本の本土上陸戦まではお預けさ。」


「もっとも、日本が降伏しなければの話だけどな。」 


最後の軍人の言葉に、それを聞いた周りの男女はドッと大きな笑いに包まれた。


そんな状況をレーナは水の入ったコップを両手で持って口に持っていきながら、チラリとマナの方向を見た。


マナも他の人達と同様に隣の男達と肩を叩きあいながら大きく笑っていた。


レーナの隣に座るジャックという男も、いまだに腕を自分の肩に固定しながら笑っていた。


この楽しそうな雰囲気の中、レーナだけはとても笑えるような心境では無かった。


彼女の性格上、こういった血生臭い話題は好きではないし、何も知らない日本という国に、敵対心もなかった。


レーナは治癒魔術師としての才能を、怪我で苦しむ人達の為に奮おうと、この軍の募集に応じたのであって着たのたが、今はそれを僅かに後悔していた。


(私・・・ここに来るべきでは無かったのかしら?)


こんなことならジュニバール本土にいる弟達の世話をしていた方が良かったと考えていると、店の外が騒がしくなった事に気付いた。


その異変に、レーナ以外の女性達も気付いたようで、不思議そうに首を傾げた。


「何の騒ぎかしら?」


それに隣の軍人達は外の騒ぎに察したようで同僚達と顔を見合わせてニヤリと笑った。


「あれはきっと、陸軍の連中だな。」


「?・・・どういう事です?」


「始まったんだよ。戦争が。あれは物資を前線に送るための輸送部隊の車の音さ。」


男はそう言うと、外の大通りが見える大きなガラスの方へと視線を移動した。それに連れられて彼女達も外に視線を移す。レーナも例外なくそうした。


大通りを軍用トラックが列をなして走行する姿を見たレーナは、姿の見えない前線にいる兵士達の為に祈った。


(どうか少しでも多くの人達が無事に祖国へ帰れますように。 ジュニバール人も・・・日本人も。)


彼女は敵味方関係無く、無事を心の底から祈った。





   バリアン大陸 ノル・チェジニ軍港 

        師団本部


連合軍に動きあり。遥か上空の偵察衛星からもたらされたその報告が鬼導院筆頭の第1戦闘団司令部要員達の耳に入るのにはたいして時間は要らなかった。


本土にいる岩田国防相との定時報告を終えた禿頭の鬼導院中将は、司令部要員がつめる指揮天幕に入ると、部下達が一斉に立ち上がって敬礼をした。


それに鬼導院は気にも留めずにテーブルを囲んで地図を眺めていた部下に報告を求めた。


「状況報告。」


「はっ!」


すくさま部下がバリアン大陸の中心部となるセンゲル平野に指をさした。


「連合軍…主にジュニバール帝王国軍の地上部隊が第3戦闘団のいるハマ山岳から距離120の場所に進軍を確認しました。」


部下はこの本陣から真東へ30kmの位置にあるハマ山岳で待機している第3戦闘団とセンゲル平野にいる敵の前線部隊の駒を地図上に置いた。


互いの前線部隊は距離にして100km程の距離にいる。この世界の常識ならばそれなりに離れている距離だが、地球の常識にすれば、これは既に至近距離とも言える距離だ。


「敵の魔信を傍受した結果、センゲル平野を進軍する軍の規模は約8000…主に2個歩兵旅団と1個機甲大隊に、3個砲兵中隊だと判明しました。」


余談だが、日本は既に魔信の傍受に成功していた。魔信は魔力を飛ばして相手に伝えるのたが、その際に微弱の電気を流すことが判明した。


より遠くの存在と連絡すればより大きな電気、つまり電波を発する訳で、日本がその仕組みを理解して魔信を傍受するのは難しい事ではなかった。


話を戻すが、センゲル平野を進軍する敵の兵力は約8000だということ。これは貴戸団長が指揮する第3戦闘団の倍以上の戦力だ。


単純な話では、日本側の圧倒的不利。しかし鬼導院達に不安の色は全くない。


「また、更にその後方にはガーハンス鬼神国の部隊も同様に進軍しています。

 その数は約14000程、これも歩兵主体でありますが、その場所は・・・」


部下は今度はガーハンス鬼神国の駒を置くが、その場所は先のジュニバールの駒よりもずっと後方に置かれた。


広大なセンゲル平野から完全に外れた位置に置かれた駒を鬼導院は睨む。


「・・・ガーハンス鬼神国の部隊は、ジュニバール帝王国軍の後方200km離れた都市国家にいます。」


両軍合わせれば22000という、これだけで日本側の戦力を超えた大軍だが、その過半数を占めるガーハンス鬼神国は遥か後方にいる。


「ジュニバールは先を急ぎ過ぎて孤立しております。」


一部の部隊が先を急ぎ過ぎるあまり孤立するのは地球の歴史上でもよくあった出来事だ。そしてそういった部隊の末路は基本的に決まっているということも。 


「奴等の兵站状態は?」


部下はそこで地図上にジュニバール帝王国軍の補給ルートを赤ペンでなぞった。


「ジュニバールは行軍を急ぐあまりに物資の補給が既に滞っているようです。 傍受内容では現段階ではそこまで問題になってはいませんが、戦闘時には混乱する部隊も現れるでしょう。」


部下の説明に聞き耳をたてながら鬼導院は地図上に赤ペンで描かれたジュニバール帝王国の補給ルートを見る。


彼等が本拠地とする都市国家リバーテを原点に各都市を経由してセンゲル平野に置かれた駒にまで到達する長い赤線を見たあと、今度はガーハンス鬼神国の補給ルートを聞いた。


部下は指示通りにガーハンスの補給ルートを次は青ペンで書いて鬼導院に見せ、それを彼は軽く頷いた。


「・・・うむ。」


鬼導院が見たガーハンスの補給ルートは、原点こそはジュニバールと同じ都市国家リバーテから始まってるが、経由地となっている都市はジュニバールとは全く違う場所を経由していた。


ガーハンスの前線部隊の位置が違うのもあるが、それでも普通ならば途中までは補給ルートが重なっても不思議ではないのに、両国の地図に書かれたルートはスタート地点のリバーテからいきなり別のルートを使用していたのだ。


まるで意図的に同じ道を使わないようにしているような感覚。


常識的に考えれば補給を迅速に行う為に各々の補給ルートを確保していると考えれるが、彼等が利用しているルートは各々の部隊からは遠回り、となっていたのだ。


お互いに最適なルートは使わずに、そして両者の補給ルートは互いに遠ざかるようにして線が構成されていた。


部下もそれに気付いており、それについて触れた。


「ジュニバール帝王国もガーハンス鬼神国もわざわざ遠回りをしていますね・・・わざと互いの補給ルートが遠ざかるようにしている? 

いったい何故?」


部下は不思議そうに呟くが、鬼導院はその理由を理解した。


両国があいて自分達の補給ルートを遠ざけている理由、それは・・・


「互いに信用してねぇって訳だろうよ。」  


指揮天幕の入口の幕を荒々しく腕で払い避けるように入った1人の白髪の男がそう言った。それに部下は一瞬だが嫌悪感を顔に出したがすぐにそれを消した。


しかし一方の鬼導院は全く表情を変えること無く新たに入った男に声をかける。


「遅かったな? 池田。」


池田と呼ばれた第3戦闘団の団長は肩を少しあげておちゃらけた。


「どうせすぐに戻らなければならんのでしょう?」


「当然だ。」 


その言葉に池田団長は頭を乱雑に掻いて地図の前にまで歩いその地図を見た。 


「池田団長、信用していないとは?」


入ってすぐに池田の言った言葉について部下が聞いた。それに池田は淡々と答える。


「そのまんまだよ。 コイツ等は連合こそ名乗ってるはいるが、結局は少しでも手柄を自分達のもんにする為に、足の引っ張り合いをしてんだよ。 この補給ルートだって相手に少しでも自分の情報を見せねぇようにしてるんだよ。」 


池田の言葉に部下は納得する。確かに彼等は初動から足並みを揃えていない事からも充分に有り得る。


そんな彼を横目に、池田は鬼導院の横に立って会話をした。


「んで、どう動きますかいな?」


鬼導院は地図上に置かれたセンゲル平野のジュニバール帝王国の駒を指で軽く叩いた。


「ジュニバールを叩く。」


「どう叩きます?」


「青井の第4戦闘団で周りを潰した後に、第3戦闘団に軽くぶつけさせて、ハマ山岳に入った瞬間、お前が包囲しろ。 数日内にここの敵は殲滅する。」


鬼導院が言った最後の言葉に池田は口元を笑みで崩した。


「攻撃のタイミングは俺の判断でしても?」


池田の確認に、鬼導院は好きにしろ、とだけ言って地図に視線を下ろした。それを聞いた池田は楽しそうに指揮天幕から出た。

 

「ふんふーん。」


とても最年長とは思えない軽やかな口笛を吹いていると、池田の上空を複数の航空機が轟音を響かせて飛行していた。


「お、F-15Jじゃねぇか!」


計6機のF-15J編隊が東側に向けて飛行する後ろ姿を池田は見送った。恐らくは先の会話であった突出するジュニバール軍を叩くためであろう。


池田はそこで近くに広く造られた航空基地があるのを見つける。


そこには重装を施したAH-64DやAH-1Sといった各々アパッチ・コブラといった愛称を持つ戦闘ヘリがズラリと整列して待機していた。


「こいっつは面白れぇ事になるぜ。」


かつて第7師団の副師団長を勤めていた頃とは考えられない程に興奮している自分に心底、楽しそうに呟いた。


「こうしちゃいけね! 俺も準備しねぇとな。」


池田はそう言うと踵を返して、自分の指揮する第2戦闘団陣地に向かった。


後日談となるが、ハマ山岳とセンゲル平野の境界線に位置する地域は、後に池田の名をとった地名がこの大陸にねずく事になる。


それを知らず知らず、池田は軽やかな足取りで本陣を歩く。


今度こそは次回で一気に戦闘回へ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連合軍側の慢心がうまく描かれていて良かったです。 [気になる点] 鬼神国と帝王国の駐日大使は日本を見下して余裕たっぷりですが、大使館を設置していろいろ情報収集しているはずなのに、日本の国力…
[良い点] ジュニバール帝王国もガーハンス鬼神国も上から下まで既に戦勝気分、負けた後のリアクションがより楽しみになります。 [気になる点] 仮にも前線にご夫人同伴? 上層部も第91航空大隊の連中も”運…
[一言] 「驕れる者は久しからず」という言葉は、ジュニバール側には無いのでしょうか? まったく、知らないということは恐ろしい。
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