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ぶかつどうでかいたおはなし

00111

作者: 雫石

 テレビとソファとゲーム機が置かれていた。

 ここは家? いいえ、駅前。

 もちろん、周りには通行人たちが行きかっている。

 けれど、通りかかる誰もが、その異様な光景に気を留める様子もなく、自然にその空間を避けて行く。

 むしろ、たぶんぎょっとした顔をして立ちすくんでいる私の方が、彼らの視線を集めているのだ。

 言ってやりたい、おい、そこをよく見ろ、と。

 

 

 思わず、キョロキョロと周りを見回してしまう。

 何処かにカメラが仕掛けられているかもしれない。 最近はそういう悪趣味なイタズラが多いと、どこかで聞いた。

 変に得意になって恥をかくのは御免だ。 まったく。

 もう一度その空間を見る。

 やはり、目の錯覚などではなく、テレビ、ソファ、それとゲーム機らしき何かは、そこにしっかりと存在していた。

 明らかに、現実的に、おかしな光景。 

 普通なら手を出さずにスルーするべきなのだろうけど、どうしてか気になってしまう。 とても。



 しかして、しばらく頭の中で様々な考察を重ねた結果、とにかくその異質な空間に入ってみることにした。

 駅から何処かへと向かう通行人たちに逆らい、十数歩。

 敷かれた青いカーペット。

 某有名企業のテレビに鼠色のソファ、プレーステー〇ョン4みたいなゲーム機。

 やっぱりある。

 もう一度、周りを見回す。

 よし、大丈夫。

 イタズラにしか思えないけど、それらしい仕掛けも見た感じ無いようだし、何よりこれだけの数の通行人の視線一つ向かないっていうのは、どうしてもおかしい。

 というか、ドッキリでもいいから、この事象の謎を解明したくて仕方がない。

 ふうっと、息を吐いて、心を落ち着かせ、プールに潜るときの様に、一息に青いカーペットに足を踏み入れた。

 瞬間に、”外”の世界が止まる。

 厳密には、通行人たちが一斉に固まり、周囲から一切の音が聞こえなくなったのだ。

 たまげた。 それはもうしっかりと。 もしこれが、悪趣味なドッキリか何かの類であったのなら、私は花丸満点のリアクションを取って、見ている人たちの心を満たしたのだろう。

 しかし、悲しいかな、「ドッキリ大成功」とゴシック体ででかでかと書かれたプラカードを持ってくる人は、しばらく待ってみても一向に出てくる気配を見せなかった。

 やはり、ゲームを起動しろと言う事なのだろうか……。

 無言で、ソファに腰掛ける。

 ソファと薄型テレビの間、ちょうど真ん中にどっからどう見てもプレ〇テ4のデザインをしたゲーム機が、ちょこんと置いてある。なかなかにシュールだ。

 嗚呼、プ〇ステ4かぁ……なつい——と、ちょっとした思い出と言うか、感慨みたいな感情に浸りながら、丸い起動ボタンをカチッと親指で押す。

 よくあるあのオーソドックスな形のコントローラーを握りしめ、中学生の様にソファに座ってしばらく待機。

 ちょっとそわそわしてしまう。 この少しばかりの待機の時間は、何歳になっても変わらずに緊張するものなのだ。

 そして、しばらくの漆黒の後に、テレビの液晶に現れた画面は、青を基調とした見慣れたホーム画面ではなく、白を基調とした、全く聞いたことも見たこともないようなゲームのホーム画面だったのだ。 正直、こっちの方が、さっきの周囲が固まった現象よりも驚いてしまった気がする。 情けない。

 と、言っても、私は別に、特別このゲーム機に対して思い入れがある訳でも、子供時代にゲームをやりこんでいたことも、現在進行形のゲーム廃人という訳でもなく、ただ単に、大学時代の知り合いが、このゲーム機で遊んでいるのに混ぜてもらったという思いでしかないのだ。

 そのゲーム目当てで、毎週のようにその友人宅に通うという小学生染みたことをしたわけではないのだ。 わけではないのだ。

 大事なことは二回言わなければならないのは、世の理と言うものだろう。



 閑話休題。



 さて、液晶に表示された白い画面には、あろうことかタイトルが書かれておらず、たった二つの言葉が書かれているのみだった。

 『ニューゲーム』か『コンティニュー』か。

 そもそもタイトルが書かれていないのだから、いきなりその二択を迫られても、選択のしようがないではないか。

 そう、声に出して愚痴を言ってみるものの、やはり一人として外の世界で固まっている通行人たちに反応する様子は見られない。

 なんか、不気味だ。

 やっと、嫌な予感を感じて、ちょっとだけ、こんな明らかにおかしい面倒なことに関与しようと決意した数分前の自分を殴ってやりたくなったが、ここまで来てしまっては、後戻りをするのも憚られる。

 ちょっと冷静に考えてみよう。

 『ニューゲーム』——これを選ぶと、通常であれば、新しいセーブデータなりなんなりが作成されて、一からそのゲームを楽しむことが出来る。

 故に、初見である私は、問答無用でこっちの選択肢を選ぶべきなのだ。 

 けれども、ただそれだけでは済まされないよな、変な気配を感じてしまう。

 一方、『コンティニュー』——これは、英語でいえば”continue”、「続ける」と言う意味の単語になる、ゲームではお約束の文言だ。

 すでにそのゲームを途中までプレイしたことのある人間が、再び最初から始めなくても良いように設けられた、いわば運営の救済措置。

 そのため、もちろんこの選択肢は、すでにこのゲームを途中までプレイしたことのある人間が選択するものである。



 と、言う事は、だ。

 このゲームには、必然的にストーリー性または、長時間プレイをせざるを得ないギミックがあるという事になる。

 嫌な予感のする『ニューゲーム』か、それとも、ゲーマーとしてタブーの『コンティニュー』か。

 何年にも感じる熟考の末、私は『コンティニュー』を刺していたカーソルを上にずらし、『ニューゲーム』を押した。



 空が紫色に変色し、物体の一つ一つが、ゲーム機を中心に、青色のタイル状に変化する。

 そして、まるでゲームのバグかの様に、端からだんだんと、タイルが何処かへ落ちていくのが見え、そして、私の座る場所も……。











 いつも通り、会社に出勤途中の朝。

 秋の空気が、ひんやりと頬をなでる。

 まるでゲームのNPCかの様に、同じ動作を連続させる毎日に、今日もまた、飽き飽きしてしまう。

 けれども、その現実は、まるでプログラムで縛られているかのように変わることは無く、時だけが過ぎていく。

 ふと、駅から出たところに、異質な空間があるのが目についた。



 青いカーペットに、薄iテre0あj220{}]fa:]^-200000000101010010101010100101010101001010101010100101010101010101010010101010111100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000



 【END】


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