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第7話 俺の役目だから ハース。

「兄さん、ローラさんも休憩しませんか?」


「そうだな」


「ありがとう」


冷たいお茶を手にしたハンナ。

猛烈な熱さが籠る鍛冶場に冷たい飲み物は本当に助かる。


「ふー生き返るな」


「全くだ」


作業の手を休めて氷が浮かんだコップのお茶を飲み干す。

笑顔の俺達を嬉しそうにハンナは見ていた。


「どうしたんだハンナ?」


「ローラさんが来てくれて良かったって」


「私が?」


「確かにな」


よく分からないといった顔だが俺達にとってローラの存在は本当に助かっていた。


思い返してみればハンナが俺の元にやって来たのは1年前、突然現れたハンナに驚いたがクリスとマリアの心遣いに感謝と心苦しさを感じた。


ハンナに鎚を教える事で念願の鍛冶屋をやれると思ったのだが大きな問題があった。

それはハンナの体力だった。

華奢なハンナは重い鎚を振れなかった。

魔法で体力を強化すればハンナも鎚は握れる。


しかし微妙な力加減が出来なかった。

魔力を強めて鎚を振れば鉄の棒は一発で鉄板になり、弱くすれば鉄は全く延びない。

これには参った。

途方に暮れる俺達の前にローラが現れたのは今から半年前。


結婚式を挙げる為実家に向かったローラを待っていたのは婚約者の失踪。

相手には将来を誓った恋人が居たのだ。


ローラが爵位を賜り、遠戚として白羽の矢がたったのが婚約者の男。

1度も会ったことの無いローラとの結婚には抵抗があったのは分かるがタイミングがあるだろ?

ウェディングドレスを着て覚悟を決めたローラ、そこに相手が失踪、式場は大騒ぎだったそうだ。


『もう結婚式はこりごりだ』


次の縁談を持ち込まれ辟易したローラは俺を頼りここに来た。


『生娘の出戻りだが宜しく頼む』


そう言って頭を下げたローラに俺とハンナは絶句した。


「どうしたの兄さん?」


「ローラが来た時の事を思い出していたんだ」


「止めろ!」


真っ赤な顔で手を振るローラ、恥ずかしい思い出なんだろう。


「助かったのは間違い無いよ、さすがは討伐隊副隊長だ」


「元だ、体力には自信があったからな、それにハースの教え方が良かったんだよ」


ローラは謙遜するが体力だけで鍛冶場の鎚は務まらない、打つ場所や、力加減、俺の指示を的確に理解し最近では任せる所も増えていた。

練習に打った刀剣も素晴らしい出来だ。


「私が不甲斐ないから...」


ハンナは残念そうに下を向いた。


「そんな事は無いと思うが」


「全くだ、ハンナも凄く役に立ってるよ」


ハンナは店に立ち客の注文を的確に聞き取る。

さすがは大神官として働いていただけの事はある。

それにハンナが魔力で点す炉はいつまでも冷めない。

完璧な温度を維持するので炉の管理は必要無いのだ。


「ありがとう」


俺達の笑顔にハンナはようやく笑った。

こんな俺はまだハンナと結ばれていない。


事情があってクリスとマリアの結婚はまだ先になりそうで俺は先に結婚する気にならなかった。

それはハンナも同じ考えだ。


「ハース鍛冶屋はここでいいか?」


店の入口で声がした。


「はーい」


ハンナが立ち上がり作業場を出ていく。

お客が来たみたいだ。


「ハース居るか?」


しばらくするとハンナが数人の男女を連れ、作業場にやって来た。

その顔に俺とローラは言葉を失う。


「みんな...」


「お前達...」


それは魔王討伐隊として5年間苦楽を共にした仲間達だった。


「これは副隊長まで、一体どうした事ですか?」


「それはこっちのセリフだ、お前達は王宮騎士団だろ?

こんな僻地に何の用だ?」


「騎士団なら辞めました」


「辞めた?」


「はい、クリス様とマリア様を追放した帝国に愛想が尽きたのです」


「追放?クリス様とマリア様が?

説明しろ!」


意外な言葉にローラは怒鳴った。


「畏まりました、クリス様は王国との婚約を一方的に破棄されまして...」


「そうだ。許せんな」


クリスは王国の王太子と1年前に婚約をした。

しかし勇者のクリスが王国に嫁ぐ事で帝国と王国の結び着きが強くなり脅威が増すとして他の近隣諸国から横槍が入り婚約は白紙となった。


何の脅威が増すんだ?

帝国は世界に侵略の意図を持っていない。

魔王討伐に多大な戦費を使いそんな余力ある筈が無い。


「邪魔になったのか」


吐き捨てる様にローラが呟く。


魔王を倒した勇者、その実力と名声を恐れた近隣諸国が帝国からクリスを切り離した。

帝国や王国は近隣諸国を恐れ、屈したんだ。


「ではどうしてマリア様まで?」


ハンナが尋ねた。


「マリア様はクリス様の追放処分の取り消しを聖教会から発表されようとしましたが...」


「枢機卿が反対した」


「はい」


「どうして?枢機卿の孫とマリア様は婚約をしていただろ?」


思わず俺も口を挟む。


「聖教会の実権を握りたい枢機卿がマリア様を追放したのです。

マリア様は聖女の力も取り上げられてしまいました。

教皇様が健在でしたなら...」


悔しそうに隊員達は項垂れた。


マリアの祖父である教皇様は半年前に亡くなられ。それが原因でマリアの結婚は延期になっていた。


聖女の力を取り上げたのか。

神託ではなく教会で聖女を選んでおいて、過酷な魔王討伐の旅に参加させ終われば用済み。

身勝手な教会の考えに反吐が出る。


「それでクリス様とマリア様は今何処に?」


「数人の近習を連れ帝国を離れました。

受け入れてくれる国を探しておられますがしかし...」


「見つからないか。奴ら世界中に圧力をかけやがったな」


亡命先も見つからず彷徨うクリスとマリア達、余りな状態に言葉が出ない。

世界を救った2人にこんな仕打ちをするとは!


「それだけではありません」


「まだあるのか?」


「はい、クリス様とマリア様を殺さんとする軍勢が結成されその数は1000に上ると。

それで私達は帝国を離れクリス様とマリア様のお力にならんと仲間を募って今日ここに」


俺みたいな障害の残る人間の手も借りたいのか。


「覇権を握る妄想に取り憑かれた馬鹿共が。こちらは今何人集まった?」


「現在100名程です」


10分の1か、相手の実力は分からないが絶対不利は間違い無い。


「クリス様の居場所は?」


「ここより馬で10日程の大森林。

仲間が先に合流しております。

早くせねばなりません、敵本隊がクリス様に近づきつつあると報告もありました」


「交戦間近か、一刻の猶予も無いな」


ローラの呟きに怒りと決意が固まる。


「ハース行くか」


「もちろんだ」


「私も行きます、恩を返さずどうして生きていけましょうか」


俺達は静かに立ち上がった。


待ってろクリス、マリア。

護るのが俺の役目だ。


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