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第5話 絶望のハース。

「幸せになってくれ」


帝国の療養所を出て振り返り呟く。


魔王討伐から半年が過ぎた。

催眠魔法で操られた仲間から不意の一撃をくらい瀕死の重傷を負った俺は2ヶ月の間生死を彷徨った。


マリアの治癒魔法で何とか命を救われたが魔法封じ結界の中で行った為か回復が遅れた。

帝国に戻ってからもマリアは毎日魔力が尽きるまで治癒魔法をしてくれたが後遺症が残ってしまった。


クリスは俺を帝国の騎士団に入れようと、マリアは聖教会の職員に、ハンナは帝国の神官見習いにと皆奔走してくれだが全て断った。


右手に麻痺が残り満足に剣が振れないので騎士は勤まらない。

魔力が全く無いので聖教会や神官も勤まらない。

(魔力を持たない人が勤める仕事では無い)


勇者クリスは魔王を倒した英雄として。

聖女マリアは討伐隊だけでなく行く先々で人々を癒した女神として。

そしてハンナは帝国と周辺諸国に押し寄せる魔族を全て跳ね返した強力な守護結界を行った世界の守護者として結婚の申し込みが殺到していた。


3人は毎日の様に俺を見舞いに来てくれた。

話によれば全ての申し込みを断っているそうだ。


鈍感な俺もさすがに彼女達の好意に気づいた。

しかし孤児で平民の俺。

なんの能力も無いどころか傷すら癒えないのでこの先足手まといにしかならない。


救国の3大英雄の結婚を阻む者として帝国の風当たりも強くなってきた。

もちろん帝国も俺を見捨てる事はしない。

少額では無い、寧ろ使い道に困る程の報償金と見舞金を貰ったのだ。

厄介払いも兼ねてだろう。


僅かばかりの金だけ受取り、残りを全て育った孤児院に匿名で寄付をした。

これで子供達が暫く飢える事も無いだろう。


「院長様喜んでくれたかな?」


優しかった院長の顔が浮かんだ。


「ハース」


「待たせたなローラ」


1台の馬車に足を止める。

そこで待ち合わせをしていた人と会う。

彼女は元討伐隊、俺を斬ってしまった人。



気にするなと言ったが半年間俺の世話を全てしてくれた。

『こうでもしないと死にたくなる』

そう言われては断れないだろ?


「良いのか黙って出ていって?」


王宮を離れ小さくなる城門を見ながら彼女は言った。


「良いんだ、どう考えたって身分差は越えられない」


「そうだな...」


ローラは寂しそうに呟いた。

彼女も魔王討伐の褒美に爵位を授かり、結婚を決めた。


『心に決めた人がいる』


そう言ったが実家からの圧力に屈したそうだ。

『貴族なんかそういうものだ』

寂しそうに涙を流す姿に言葉を失った。


彼女の知り合いが治める辺境の地に着いたのは王宮を離れ1週間が過ぎた頃だった。

彼女とここでお別れ、帰りに実家で結婚式を挙げる予定になっている。


「ありがとう幸せにな」


最後に手を差し出す。

麻痺の残る右手ではなく左手なのが申し訳無い。


「最後にいいか?」


差し出した左手を見ながら彼女が呟く。


「よく分からないが良いぞ」


「ハース!!」


ローラが俺に抱き付く。

彼女の身体が小刻みに震えている。

泣いているのか?


「ローラ...」


「ありがとう」


そう言って彼女は足早に馬車に戻って行った。


「さて」


1人になった俺は町外れにある1軒の空き家に辿り着いた。

ローラが斡旋してくれた物、ここで新たな生活が始まる。


鍵は開いており中に入る。

以前鍛冶屋を営んでいたが主人が高齢で廃業した物件と聞いていた。


「覚えていたんだ」


勇者パーティーで武具の手入れをしながら交わした雑談、

『鍛冶屋をしたい』

些細な会話を覚えてくれていた事が無性に嬉しかった。


店内を抜け奥の作業場に行くと焼き入れの炉や鎚が目に入る。

どうやら全ての道具が揃っているらしい。


「やってみるか」


置かれたままの椅子に座る。

作業台に持参したなまくら刀を置き、震える右手で鎚を握った。


「それ!」


振り下ろした鎚が剣を叩く。

感覚が鈍い、力も弱く鎚が弾き返された。


「あっ!」


もう一度と鎚を振り上げると手から鎚が飛び出す。

握力が無いからだ。


「やっぱり無理か」


これじゃ鍛冶屋はつとまらない。

研ぎ専門でやるか?

欠けた刃入れくらいなら出来るかもしれない。


「ハンナ...クリス...マリア」


寂しさと悲しさが未練となって3人の名前が口から出る。

覚悟をしてただろ、何を女々しい!


「...畜生、神は俺をこんな目に...」


魔力を持たないだけで親に捨てられ、

生きていく為に必死で頑張った鍛冶修行、

勇者パーティー支援と言う神託、

戦え無くても必死だった。


仲間も出来た、信頼も勝ち得たのに。


(怪我、愛する人達との身分差...絶望)


涙が溢れるのを止められない俺だった。



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