第2話 私が背中を任せた人。 クリス・ニュート
「マリア行くよ」
「ええ、来たれ光の精霊よ」
朝早く魔王城に侵入していた隊員達が扉を中から開く。
マリアが光の精霊呼び出すと漆黒の暗闇に包まれていた城内が日差しに照らされたテラスの様に明るくなった。
明るく照らすだけなら他にも魔法がある。
聖女しか呼び出せない精霊を使うとは、それだけ今日に掛ける気持ちが強いのだろう。
(ハースが尊敬の眼差しを向けているのもきっとある)
朝方のトラブルがあったがマリアは切り換えが早い。
根に持たないのが彼女の良いところだ。
でも魔王を倒したら最初にハースに話す権利を取られてしまった。
「クリス様?」
討伐隊メンバーに心配されてしまった。
何をしている、しっかりしろ私。
「みんな良い?」
「「「「おう!!」」」」
心強い返事の中にハースの姿を探す。
『あ、いた...』
思わず顔が綻びそうになるのを我慢して魔王がいる王の間に向けて突き進む。
『ハース後ろをお願いね』
後ろに感じるハースの視線に心で呼び掛ける。
彼が居れば私は決して負けない、負ける訳に行かない。
「来たな」
前方から押し寄せるスケルトン、その数は500人程か。
強敵の魔族は既に城外で討ち果たした。
城内は魔王以外脅威となる魔族は残って無い。
「続け!」
陣形を固め聖剣を振り上げる。
気の緩みは大変な惨事に繋がるのを討伐の旅で痛いほど学んだ。
油断は無い。
「後方8時より槍!」
「分かった!」
ハースの声に私の後ろを守るメンバーが矢を放つ。
「ギャ!」
暗闇に小さな悲鳴と槍を落とす乾いた音が響く。
いつもながら見事だ。
気配も無い攻撃をどうやってハースは察知するんだろう。
そう言えば一度ハースに聞いたっけ『何故わかるんだ?』って
『護る事が俺の役目だから』ってハースったらもう!
「クリス?」
「何でもない」
ジト目のマリアに気合いを入れ直す。
さすがに城内のスケルトンは手強い。
最後の壁といった所か、個々の強さというより数の暴力だ。
しかし沸き上がる力とハースが手入れをしてくれた聖剣、その威力は普段の5倍はある。
間断無く押し寄せるスケルトンを次々切り伏せる。
マリアは倒したスケルトンが復活しないように浄化を掛けて行く。
「ここ?」
「間違いないわ」
数時間かけて大きな扉の前に辿り着いた。
マリアが魔力を探知して頷く。
この扉の向こうに魔王が居るんだ。
隊員の数は200人程に減ったが死者は居ない。
魔力を使い果たした者や怪我をした者は全て城外のテントに脱出させたのだ。
「いくわよ」
手を掛けると扉は難なく開いた。
「来たな」
広間に置かれた豪華な椅子に1人の男が座っている。
間違いない、あれが魔王だ。
禍々しいオーラが渦巻き、危険な雰囲気が私の肌をひりつかせる。
「クリス」
「分かってる」
不安そうなマリア、彼女もそのオーラに危険を感じたのだろう。
でも勝てる。
相手は1人、私の魔力と体力はまだ余裕がある。
こいつを倒して私は本当の英雄になるんだ。
そしてハースに告白するの。
『好きです』って。
ハースは私に婚約者が居ると思っているがそんな人は居ない。
勇者の私が政争の具にならない様帝国が流した噂なのだから。
その事は討伐隊の皆は知っている。
ハースだけ知らない、私が皆に口止めをしたから。
「そうかお前の大切な奴はそいつか」
「え?」
魔王がニヤリとハースを見る。
まさかコイツ...
「クリス、魔王は貴女の心を!」
「しまった!」
慌てて心を隠す、一生の不覚!
「ハース逃げて!」
「どうして?」
事態が飲み込めないハース、魔王の攻撃を受けても死にはしないだろうが叫ばずにおれない。
「クリ..スさ..ま」
その時ハースの隣に居た仲間の1人が固まる。
あれは催眠魔法、まさか?
「うわ!」
「ハース!!」
私が見たのは仲間に斬られ崩れ落ちるハースの姿だった。