私の家族。 大魔術師の娘 ハーミラ2?歳
「ただいま帰りました」
1日の仕事を終え自宅に帰るとお母様と一緒にクリス様とマリア様の三人が楽しげに手紙を読んでいた。
「おかえりハーミラ」
私に気づくとお母様が楽しそうに顔を上げる。
他の二人も嬉しそうだ。
「どうしたの、誰から手紙?」
笑顔から想像するにお父様からだと思うが聞いてみた。
「お父さんからよ」
マリア様は嬉しそうに言った。
お父様は2ヶ月前からハリスの営む鍛冶屋にローラさんと出掛けている。
臨月を迎えたハリスの奥さんの為に。
奥さんの実家は母親が居ないのだ。
「赤ちゃんが無事産まれたんですって」
「そうなの?」
「ええ、男の子、兄さんに似て可愛いでしょうね」
お母様はうっとりした顔で呟く。
しかしお父様を未だ兄さんと呼ぶお母様には飽きれてしまう。
「おじいちゃんでしょ?もう孫まで居るんだから」
「あらそうだった、でも私にはまだ孫がいないし」
「...う」
お母様の一言が私の乙女心を切り裂いた。
「ハンナ駄目よ」
「そうよいくらハーミラだけまだ独身だからって」
クリス様とマリア様の言葉は私の心に塩を擦り付けた。
「相手はいるんです、相手は」
何とか言葉にする。
私にだってちゃんと恋人はいる。
「付き合って5年よね、結婚はまだなの?」
「...ぐ」
「それが相手はまだ煮え切らないのよ、『もう少し待ってくれ』ばっかりで」
お母様、何で家族の秘密をクリス様にばらすの?
「早く子供作っちゃいなさいよ、そうしたら向こうも諦めるから」
「....もう良いです」
「あらごめんなさい」
全く心が入ってないクリス様達に諦め私も中に入る。
拗ねても仕方ない、事実なんだし。
でも『諦める』とは酷いじゃないか。
私と結婚するのは諦めか?
これで私を捨てようものなら...
止めよう、それよりお父様からの手紙だ。
「へえ、ハリスの打った剣が帝国の評価会で金賞か」
手紙にはハリスの作った剣が一等に選ばれた事、帝都にある鍛冶屋は忙しくお父様とローラさんも店を手伝っている事が書かれていた。
「あのハリスがお父さんか」
「本当に、騎士団をあっさり辞めて鍛冶修行するって聞いた時はびっくりしたわ」
「でもローラったら一言『あっそう』って」
「まあ薄々ハリスの気持ちが分かってたんでしょ」
「修行先の娘さんと一緒になるのは予想してなかったみたいだけど」
私も一言挟んでみた。
「「「そうよねえ~」」」
三人がまた私を見る。
いかん、やぶ蛇だった。
「ア、アリスはどうしてるの?」
話題を変えよう、アリスは私と一緒で独身だ。
「あらアリス結婚決まったわよ?」
「げ?」
「知らなかった?」
「...うん」
「おかしいわね?...」
アリスからの手紙に書いてあったのは。
ある国の王子様に見初められ、アリスも王子様が好きになったってあったけど、
でも本当に結婚決めるなんて。
「それで子供が出来たって」
「ぎゃ!」
何で?まだ式の前でしょ!
順番があるでしょ順番が!!
「なんでも国王の母親(皇太后様)がご高齢でね、早く赤ちゃんが見たいとかお願いされてね」
クリス様はあっさり言うが、アリスは現役の勇者よ?
魔王こそ居ないけど厄災の魔獣を倒すのが使命では無いのか?
「クリス様良いのですか?」
「何が?」
「何がってまだ、そのアリスは勇者で...」
「大丈夫よ、私だって元勇者よ、力は衰えて無いから」
「そうよ、聖女の私もいますし」
「ええ、私の魔法もまだまだ使えますわ」
「「「それになにより」」」
「...まさか」
「「「あの人が居ますから」」」
聞いた私が愚かだった、この人達[救国の3大英雄]だもん。
「でも式の前に赤ちゃんって」
「あらハーミラ別に良いわよ、私達みんな式を挙げてないし」
「そうそう」
「愛の前では式なんか不要よ!」
あの、マリア様、貴女は正教会の代表で聖女様ですよね?
『式なんか不要って...』
教会の人が聞いたら大変だよ。
「でも式に参加するけどね」
「「ええ」」
「ついでにマキナの所でも寄りますか、確かお隣の国だったわ」
「「良いわね!」」
何か盛り上がってるけど、確かあの子の居るフレスト王国って転移の魔法は禁止って話だよね(戦争や犯罪に使われるのを防ぐ為)
「マリア様」
「何かしら?」
「まさか転移魔法で?」
「もちろんよ、馬車じゃ2年は掛かるわ、アリスの式に間に合わないわよ」
「....そうですか」
アリスの国は知らないけどフレスト王国は大騒ぎになるだろう。
元勇者に聖女、そして大魔術師。
まあ捕まらないだろうけど。
「マキナったら10年以上も帰って来ないで!」
「まあ定期的に手紙は書いてるし、家事に育児頑張ってますって」
「いーえ、許しません」
マリア様ご立腹だね。
確かに10年以上帰ってないけど、
結婚して母になり冒険者を引退してギルドマスターしながら奥さんしてるって書いてあったし、立派なもんよ。
「この前初めて来たナザリーさんからの手紙よ」
「ナザリーさん?」
「ええマキナのお姑さん」
お姑か、嫁姑問題大変そうだな。
「まさか上手く行ってないとか?」
「それが凄く良い人でね、大切にされてるの」
「それのどこに問題が?」
クリス様が首を傾げる。
私も分からない、どこに問題があるんだろ?
「あの子ったら娘にマリアって付けてたのよ!」
「はらら」
何とまあ、手紙にはメリアと書いてあったが、母親の名前を付けるとは。
「それに『家事や育児は息子と分担して立派な嫁です』って!
マキナの手紙じゃ『全部私がしてます』ってあの子は嘘ばっかり!」
虚偽報告に、娘の名前の誤魔化し。
マリア様を見てマキナの驚愕する顔が目に浮かぶ。
「フフ」
「どうしたのハーミラ?」
「私も行こうかな」
「え?」
「私もマキナに会いたくなったの、妹にね」
そう、おかしな妹に。
込み上げる笑いが止まらないのだった。
ありがとうございました。