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俺の家族 剣士の息子ハリス15歳。

「それまで!」


「まだまだ!」


母さん(ローラ)の静止を受けて俺はマキナから離れる。

しかしマキナは諦めない、凄い形相で俺を睨み付ける。


「マキナ、あんたの負けだよ」


「まだよ、まだ私は参ったをしてない!」


口ではそう叫ぶが剣は折れ曲がり、腕は変な方向を向いている。

恐らく折れたんだろう。


「マキナ、あんた死にたいのかい?」


「.....」


「相手がハリスだからここで止めたんだよ?

もし相手がならず者だったら?

魔獣だったらとっくに死んでるよ」


母さんの言葉にマキナは震えながら体を起こす。

涙を目に溜めているがコイツは絶対に泣かない、その精神力は凄い。

久し振りにマキナと勝負したが実力は確実に上がっていた。


「ハーミラ治癒魔法を」


「はい」


俺達の模擬戦を見ていたハーミラを母さん(ローラ)が呼ぶ。

大魔術を使えるハーミラは殆んどの魔法を操れる。

治癒魔法もマリア様仕込みで、その辺の神官より上手い。


「待て」


「お父様?」


マキナに近づくハーミラをお父さんが止めた。


「マキナ、自分で治すんだ」


「貴方...」


「マキナ、冒険者はいつも誰かが居てくれるとは限らない。

酷い怪我をしていても自分で治せないと...死ぬぞ」


お父さんの言葉に辺りが静まり返った。

...聞いた事がある。


お父さんが魔王討伐に参加して間もない頃、当時全く役に立たなかったお父さんは魔族の襲撃から仲間を庇い酷い怪我をして倒れたんだ。


『あいつは死なねえから放っとけばいいだろ?』


誰かの言葉にお父さんは戦場に放置された。

確かに魔族からの攻撃には死なないお父さんだが、直ぐに怪我が治る訳じゃない。

適切な治療を受けなければ回復は遅れる。


だが動けないお父さんに魔獣や猛獣が襲えば?

間違いなく死んでいただろう。

お父さんは携帯していた薬で必死に自分の怪我を治療し、仲間の居るキャンプまで1人戻ったそうだ。

(放置しろと言った奴の名前はお父さんは決して今も言わない)


「早くしろマキナ」


「は、はい」


お父さんの言葉にマキナは必死で自分に治癒魔法を掛ける。

その様子をマリア様は黙って見ていた。

自分にも経験があるのだろう。


「どうしたの?」


「...治りません」


マリア様の言葉にマキナは項垂れる。

簡単な治癒魔法すら掛けられない。

魔力切れだ。


「自分の魔力の残量は常に把握しなさい、いつも言ってるでしょ?」


マリア様はマキナに近づく事なく手を向ける。

瞬く間にマキナの体が元に戻った。


「今日はここまで、マキナいいな」


「はい」


さすがのマキナだがお父さんの言葉には逆らえない。

状況判断能力に於いてお父さん程優れた人を俺は知らない。

俺が通う帝国騎士団の養成学園の教師達でもだ。


「強くなったな」


「嫌味?」


クリス様の自宅で夕飯を食べながら言うと、マキナが睨み付けて来る。

そんなつもりは無いんだが。


「マキナ、相手が悪いんだ。

ハリスはお前の攻撃方法を熟知している、初見なら簡単には負けないぞ」


「本当に?」


「ああ、そうだなハリス?」


「あ、ああ、かもな」


父さん俺に振るなよ、確かにマキナの戦い方を知ってるから勝てるけど妹に負けるのは兄の沽券に関わるだろ?


「じゃ私もう冒険者になっていい?」


「こらマキナ、貴女は直ぐ調子に乗る!」


「だって...」


マリア様に叱られマキナは肩をすくませる。

反省しない奴だ。


「もう少しだな、せめてアリスに勝てないまでも良い勝負が出来ないと」


「わ、私?」


突然振られたアリスが目を見開く。


「それは無理よ、だってアリスは...」


クリス様が父さんに口を挟む。

俺も正直そう思う。

...アリスは恐らく次期勇者だ。

正式な神託はまだだが間違い無いだろう。


「マキナ、諦めるか?」


「...嫌」


「なら決まりだ、ハリスが学園に戻る前日に頼むぞアリス」


「あ、そんな...私」


いきなりの話にアリスは狼狽える。

分かるよ、アリスは優しいからな、しかもマキナが大好きなんだ。


結局俺の夏休みはマキナとの稽古に消えると覚悟する。


「なら私はマキナに料理と洗濯を教えなくっちゃ」


「えー!」


「素敵な人が居たら胃袋を掴むの、後汚い格好じゃ女が台無しよ」


「そんな人居ないもん」


「こらマキナ!」


「お母さんごめんなさい!」


ハーミラの言葉にマキナは顔を(しか)めマリア様に叱られている。

相変わらず家事が苦手みたいだ。

化粧も全くしないし、綺麗な顔をしているのに勿体ない(妹だが)


そしてマキナとアリスが戦う日が来た。


「あのやっぱり戦わなきゃ駄目ですか?」


アリスはまだ躊躇っている。


「遠慮しないで真剣勝負よ」


対してマキナは闘志全開だ。


「始め!」


アリスの言葉を無視し、お父さんが開始を告げた。


「それ!」


マキナの剣がアリスを襲う。


「キャ!」


速い太刀捌きにアリスが下がる、確かに良い一撃だが...


「はら掛かって来なさい!」


「は、はい」


マキナの挑発にもアリスは本気になれない様だ。

これでは真剣勝負に程遠い。


「アリス、マキナと会えなくなるぞ!」


「え?」


「は?」


お父さんの言葉にアリスとマキナが止まる。


「マキナが冒険者になればもう会えなくなるかも知れない、アリスが勝ったらマキナはずっとお前の傍に居るぞ!」


「...父さん」


真剣な父さんの言葉にマキナも呆然と固まっている。


「...行きます」


アリスの目が光る、全身から凄まじい程の覇気。

これはヤバい、アリスは本気だ。


「え?」


一瞬消えたアリス、見失ったマキナの後ろに。


「遅い」


「ぐわ!」


アリスの剣がマキナの脇腹を襲う、刃の入って無い模造剣だか衝撃は凄い。

マキナは遥か後方に吹き飛ばされた。


「終わり?」


「まだよ!」


アリスの言葉にマキナは立ち上がった。

脇に手をやっている。

肋骨が折れて治癒魔法をしているのだろう。


「分かった」


またアリスが消えた。

目に魔力を込めるとかろうじてアリスの姿が見えた。

だが見えただけだ、反応は出来ないだろう。

マキナも恐らく...


「終わりね」


アリスがマキナの前に立つ。

既にマキナの剣は折れ曲がり足元に落ちている。

完全にアリスの勝ちだ。

マキナとの実力差は明らか。


「これが勇者の力か...」


マキナは強い、俺と互角、いや治癒魔法で体を治しながら挑まれたら危ういかも。

そんなマキナを完封するとは...


「姉さん」


「何?」


「姉さんならどうだ、アリスと勝負したら」


2人の戦いを眉一つ動かず見詰めているハーミラに聞いた。


「まだ勝てる」


「そうなのか?」


「今のアリスならね、あの子は優しいから。

私なら最大魔法でアリスのやる気を削ぐ、後は結界を張って中から攻撃魔法ね」


「そうか」


具体的な戦法を語るハーミラ。

嘘や負け惜しみを言わない姉だ、実際そうなんだろう。


「でもアリスが勇者に覚醒したら勝てない」


「まさか?」


「本当よ、私なんか瞬殺されちゃうわ」


ハーミラはあっさり言うが...

改めて勇者の凄さを思い知る。


「まだよ!」


マキナの叫び声に戦いが終わって無い事を思い出す。


「諦めて...」


マキナの蹴りを受けるアリス、その衝撃に砂埃が舞った。


「わ!」


アリスはマキナの足を掴み軽く投げ捨てた。

ぼろ切れの様なマキナが俺達の前に飛んで来る。


「マキナ」


「.......」


ハーミラは動かないマキナに呟く。


「魔力を腕に巻き付けるのよ、治癒魔法の応用ね。

拳に全て込めるの、まだ一回くらいは残ってるでしょ?」


「....姉さん」


「アリスは攻撃に移る前、一瞬脇が上がる、一瞬だけどね」


「...った」


マキナは立ち上がった。

全身傷だらけ、顔も腫れ上がり目も殆んど塞がっている。


「次決まるな」


「え?」


お父さんの小さな声、まさか?


「ハァァァ!!」


マキナの叫び声。

普通の攻撃だ、ハーミラのアドバイスが聞こえなかったのか?


「キャ!!」


次の瞬間聞こえたのはアリスの声。


「何が?」


2人を見る。


「マキナ...」


マキナの拳がアリスの脇を捉えていた。

俺が見たのはマキナのフェイントか、俺には防げない攻撃だったろうが何故アリスは?


「...参りました」


アリスが脇を押さえマキナから離れる。


「それまで!」


お父さんの言葉にマキナは崩れ落ちた。

気を失ったのだろう。

その顔は満足そうだった。


こうしてマキナは冒険者になる事を許された。


(俺もいつか自由に生きよう)


そう思った。




次終わります。

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