第9話 エピローグ ハースはみんなを支援する。
昼下がりのハース鍛冶店、1人の女性が扉を開けた。
「草刈り鎌出来てる?」
「はいニーナさん出来てますよ」
ハンナは注文の鎌を棚から取り出し客に手渡した。
「ありがとね、ここの使っちゃうと他所の鍛冶屋で買ったのが使えなくってさ」
人の良さそうな笑顔でニーナはハンナから丁寧に梱包された鎌を受けとった。
彼女の家はパースの町で宿屋を営んでいる。
店では包丁からペティナイフまで全てハース鍛冶店の道具を愛用していた。
「ありがとうございます、今後もご贔屓に」
「もちろんさ」
楽しそうに話す2人、ハンナの背中で赤ちゃんが気持ち良さそうな寝息を立てている。
「可愛いわね、今何ヵ月だっけ?」
「5ヶ月です、夜泣きが凄くって」
「癇の虫かい?大変だね」
「ええ、お父さん似かしら?」
少し寝不足の目蓋を擦るハンナ。
その顔には幸せが滲んでいた。
「ニーナさんいらっしゃい」
店先で談笑しているとローラが店奥から顔を出す。
彼女は胸をはだけ赤ん坊に母乳を与えていた。
「ち、ちょっとローラさん胸!」
「仕方無いでしょ、だってこの子よく飲むんだもん。お父さん似ね」
気にする事なくローラは快活に笑う。
「お母さん似でしょ?さすがは剣士の息子ね」
ニーナはいつもの光景を楽しみながら笑った。
「もう剣士は引退よ。
今は鍛冶屋の女将さんだからね」
「あら私も鍛冶屋の女将さんですよ」
仲良く笑う2人、ローラの子供も5ヶ月を迎えていた。
「ハースさんはいつ帰るの?そろそろよね」
「今日の夕方です」
「確か3ヶ月振りよね?2人共寂しく無かった?」
「大丈夫だったよ。ね、ハンナ?」
「ええローラさん」
「さすがお母さんは余裕だね、そろそろ帰るわ。ありがとう」
ニーナは鎌を手に笑顔で帰って行った。
「...余裕か」
「余裕ですか、そんなのありませんよね」
閉まった扉を見つめながら2人は呟く。
実際に3ヶ月会わなかったらこんなに余裕の態度は取れなかっただろう。
「ハースの迎えは...」
「マリア様が行ってるわ。
クリス様残念そうだった『妊婦じゃなかったら私が行ったのに』って」
クリスの様子を思い出しハンナが笑う。
妊婦であるクリスは転移魔法のリスクを考えて今回は断念したのだ。
「私達は行ったもんね」
「ええ」
ハンナとローラは子供を連れてハースの所に3回、転移魔法で行っていた。
夜行って、朝に帰る事で町の人達には気付かれていなかった。
「こんな幸せな日々は想像出来なかった」
「そうですねローラさん」
しみじみと話す2人。
クリスとマリアを救出して2年が過ぎていた。
クリス達はパースの町に定住を決め、帝国と交渉しクリスはパースの町長となった。
そして世界から狙われない為にハンナは強力な守護結界をパースの町に施し、
マリアはルーワンド聖教会を離れ、新たに正教会を立ち上げた。
ルーワンド聖教会はマリアの作った正教会とクリスを邪教の徒として攻撃したが神に選ばれた聖女マリアとクリスの力は当然本物。
2年前にクリス達を殺そうとした世界中の刺客達の中には貴族達が多数参加しており、怪我を治す事を依頼された聖教会だったが結局誰1人治す事は出来なかった。
国々は恥を忍んでクリス達に莫大な謝罪金を支払いマリアに治癒魔法を依頼した。
当然難色を示したクリス達に各国は今後一切クリス達に手を出さない、自国に正教会の設置と庇護を約束しますと誓約を交わし治療を了承した。
マリアは一部の人を除き完全な治癒魔法を施し、約束は果たされ聖教会の権威は完全に失墜した。
「しかしマリア様は凄いな」
「ええ、子持ちの聖女なんて聞いた事ありません」
「全くだ、ハースとの愛の力だって言ってたわ」
「兄さんの支援職って、そんな事出来るのかしら?」
「考えるだけ無駄よ、マリア様の力は計り知れないから」
「本当」
マリアは更に仲間の修道士を集め聖女の加護を施し各地の教会に配属した。
その力は聖教会の加護と比べ物にならない程強力で世界中で信徒の数を増やしていたのだった。
「これも愛の力ですか」
「それで全て済ます所がマリア様らしいな」
2人は着替えて子供達を抱っこすると転移魔法陣が設置されているクリスの屋敷に向かう。
もちろんハースを迎える為。
「クリス様いらっしゃいますか?」
「ハンナ、ローラ待ってたわよ」
元王族のクリスが住む屋敷は少し大きいが普通の民家、それは彼女の希望だった。
家には数人の使用人がいるが妊婦のクリスを心配したハンナ達が手配した町の家政婦達。
「大きくなりましたね」
ハンナがクリスのお腹を見つめる。
「ええ、もういつ産まれても不思議じゃないって産婆様が」
愛おしくお腹を撫でるクリス、既に母親の顔になっている。
「暫くはハースもお父さん業に専念だな」
ローラは椅子に座ると授乳を始めた。
「そうね、ハースの自由時間は終わりかな」
笑顔で話していると部屋の魔法陣が光った。
「来ましたね」
光が収まるとハースとマリア、そしてマリアの4ヶ月になる娘が姿を現した。
「ただいま」
「皆さんお待ちどうさまです」
「お帰りなさい兄さん、マリア様」
「マリア様おかえりなさい。ハースも」
笑顔で迎えるハンナとローラ。
ハースは笑顔でクリスの元に歩く。
「ただいま帰りましたクリス様」
「クリスって言いなさい、私は貴方の妻ですよ」
「かしこま...分かった、クリスただいま」
「おかえりハース!!」
マリアとハンナ、そしてローラは赤ちゃんを抱きしめながら抱き合う2人を見つめるのだった。
ありがとうございました。




