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第1話 勇者パーティー支援職 ハース。

「明日はいよいよ魔王と決戦になります。

みんな今まで本当にありがとう」


魔王城の城壁前に張られた巨大なテント。

その前に置かれた壇上から1人の女性が1000人を超える討伐隊に頭を下げた。


彼女の名前はクリス、クリス・ニュート20歳。

カンショウ帝国第三王女にして勇者を神託された救国の3大英雄。


艶やかなブロンドの長い髪にしなやかな手足、王族の気品を備えた美貌で世界の男達を釘付けにしてきた。


「クリスいくら魔王軍は壊滅状態と言っても油断はダメよ。...気持ちは分かるけど」


クリスを(たしな)める白い法衣を纏った女性。

クリスより銀色がかったプラチナブロンドの髪は腰まであり、美しい風貌と相まって世界の人々から女神の再来と賞されている。

彼女の名はマリア・ヒュースト、クリスと同じく20歳。

世界の教会を束ねるルーワンド聖教会から選ばれた聖女。

現教皇の孫娘で幼き日より聖魔法を叩き込まれた完全無欠のサラブレッドで彼女も救国の3大英雄だ。


「だってマリアやっとだよ?

やっと気持ちを打ち明けられるんだから」


「まあそれは私もですが...」


はにかむ2人を見守る討伐隊の目が暖かい。

ようやく婚約者に会える2人の幸せが嬉しいんだろう。


クリスは帝国の隣国、フギリン王国の王太子と5歳から婚約を結んでいる。

マリアも祖父の教皇と共に聖教会を支えるランヘボン枢機卿の孫との婚約が待っているって話だ。


討伐隊のみんなも早く故郷に帰りたいだろう。

俺も帰りたい。


俺の名前はハース。

姓は無い、ただのハースだ。

孤児院育ちで天涯孤独の俺だが、5年前に15歳で神託を受けてから1度も故郷に帰ってないんだ。


ハンナ元気にしてるかな?

孤児院で一緒に育ち、2歳上の俺をお兄ちゃんって呼んでくれた可愛い妹(血縁は無いが)。


噂では2年前に[大魔術師]と神託を受け、帝国と周辺諸国の守護結界を張る神官長に抜擢されたらしい。

そんな彼女も救国の3大英雄に数えられている。

もう俺の手の届かない存在になってしまった。


そんな事を考えているとクリスの激が終わっていた。 

討伐隊の仲間達は其々のテントに帰っていく。

明日の攻撃に備えて早く休むのだが俺は自分のテントに戻らず勇者パーティーの本部テントに入り勇者パーティー主要メンバー達の武器や鎧を磨き上げる。


朝まで徹夜しても1000人分は無理だが何とか100人分は出来るだろう。

故郷に居たときは小さい頃から近くの鍛冶屋で修行していた。

神託(ジョブ)で勇者パーティー支援職を授からなかったら自分の鍛冶屋を持つのが夢だった。

剣の研ぎや鎧等の修理には自信がある。


戦闘に俺はあまり役に立たないから、これくらいはしないと気がすまないんだ。


戦闘の際俺は勇者の背中に立ち、飛んでくる矢や魔法をいち早く察知して勇者や守備要員の仲間に伝えるのが仕事。


自分で取り除かないのかって?


残念だが俺の支援スキルにそんな能力は無い。

戦闘力皆無、味方にバフ(支援)や敵にデバフ(能力低下)をする事も出来無い。

ただ知らせる、それだけ。

だが体力には自信があるので勇者の体力が続く限り一緒に戦う事が出来る(俺は戦っていないが)


それでも間に合わない時がある。

そんな時は自分の身体を挺して勇者を守ることになるのだが何故か俺は死なない。


どんな酷い怪我をしても丸焼けになっても不思議な事に死なない。(2、3日行動不能になるが)

ただし魔族限定、普通に人間の剣や魔法には人並みのダメージを受けるので味方の攻撃を避けるのが大変だ。

支援職の人間は勇者が魔王を倒すまで死んではいけないって事なんだろう。


聖女に対しても俺の支援スキルは発動する。

とは言っても攻撃聖魔法や治癒魔法なんか使えない(俺は魔法そのものが使えない)


聖女は全ての呪いや毒を消し去る事が出来る。

しかし乱戦の中戦っていると既に手遅れ状態の味方が出てくる。

そんな時聖女は身代わりになるんだ。


呪いや毒を自らの身体に移し、聖女の治癒体質で打ち消すのだが人を死に到らしめる程の威力、当然聖女の負担は凄まじい。


そんな彼女の為に俺がするのは、介助だ。

食事やトイレ、包帯の交換等、他の神官達が行うと回復までに1週間掛かる聖女。

俺がやると2日もあれば治ってしまう。

これは聖女の回復力支援なんだろうか?


そんな俺の勇者パーティーの支援職だが詳しく知られていない神託らしくて手探りで自分の能力を探し続けて来た。


最初は大変だった。

何をさせても役立たずの支援職、勇者パーティーから白い目で見られたものだ。

5年かけてやっと一定の信頼を得る事が出来た。


「ハースお疲れ」


徹夜でようやく武具の手入れを終えた俺の背中に声が掛かる。


「勇者様...」


そこに居たのは勇者クリス、朝早いのに彼女はもう支度を終えていた。


「クリスって呼びなさい、何回言ったら分かるの?」


「そんな畏れ多い」


イタズラっぽく彼女は笑うが孤児院上がりの平民である俺に王族の勇者に呼び捨てなんか心の中でしか出来無い。


「まあ良いわ、手入れ終わった?」


「はい、どうぞ」


研ぎ終えた勇者の聖剣をクリスに渡した。


「うん良い感じね、これなら魔王なんか真っ二つよ」


研ぎ終えた聖剣を振る勇者クリス、その剣圧の凄さと優雅な構えに目を奪われる。


「どうしたの?」


「美しい」


「あら?」


「す、すみません...」


思わず出た本音に顔が赤くなる。

なんて不逞な事を俺は、


「...良いのよ、ありがとう」


クリスも赤い顔で微笑む。

その顔は勇者の凛々しさでは無く、可愛い女の子を感じさせた。


「ハースは終わったらどうするの?」


「どうするとは?」


「魔王討伐が終わったらよ、帝国騎士団に入るの?」


その事か、魔王討伐が終われば討伐隊は解散だ。

討伐隊の隊員達は元々帝国の騎士団で結成されている。

たが俺は神託で選ばれた平民、そんな資格は無い。

僅かばかりの褒賞金を貰ったらお役御免だろう。


「そうですね、故郷で1人鍛冶屋でも開こうかな」


「そう...」


俺の言葉にクリスは寂しそうに目を伏せた。

夢が無かったかな?

でもハンナは大魔術師にして神官長だ、俺と鍛冶屋は出来ないだろう。

きっと貴族として迎えられるのは明白だ。



「あ、あのハース良かったらなんだけど、」


「ちょっとクリス抜け駆けはダメって約束でしょ!」


「マリア?」


「...マリア様」


テントの仕切り幕が開き中に入ってきたのは聖女マリア、顔には汗を一杯掻き息が上がってる。

それより驚いたのは


「...マリア貴女その格好」


「え?」


マリアは寝間着のままだった。

それは可愛いピンクのネグリジェ、身体のラインがまるわかりでセクシーで...


「キャー!!」


朝方のテントに聖女の叫び声が響き渡るのだった。


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