タイムスリップ人間
毎朝大学までバスで通う僕は今日も並んでいた。照りつく日差しが容赦なく降り注ぐ。
「賢木くん。おはよう」
「おはよう時島くん」
一週間前に病院へ向かおうとバス停で待っていると財布を落としたことに気づき、その時拾ってくれたのが時島だった。
後から同じ大学に通っていると知り、朝会った時はこうして少し話した。
「昨日の地震凄かったね」
「地震?」
「昨日の九時に揺れたよ」
昨日は疲れて早くに就寝し気付かなかった。ニュースでそんな情報は放送されていないと思うが見落としただけだろうと話を合わせることにした。
翌日、再び時島と会った。
「昨日の話だけど」
「昨日?」
「地震の話」
僕は時島の言葉を待つ。
「地震は一昨日じゃなかった」
「えっ」
「今日だよ」
僕は耳を疑った。今日と言われても今は七時だ。九時が朝であろうと未来の話。寝ぼけているのかなんて聞けず、適当に相槌しておいた。
サークルの先輩・高嶺に今朝のことを話すとすぐ時島の名前を出した。
「彼、不思議なところあるわよね。噂で聞いただけなんだけど、未来に起こる事故を予言したとか、明治時代に死んだ人と会ったとか」
「何ですかそれ」
「彼はいつも本気で言うの。気味悪がって近づかない子もいたけど、いつも言ってたわけじゃないし普通の子よ」
「そうなんですか」
「いつ地震があるって言ってたの?」
「聞き忘れました」
次に会った時聞こうと思っていた僕だったが、意外にもその時は早くやってきた。
「賢木くん」
大学の食堂から出たら時島くんに会った。
「あ、聞きたいことがあって」
「来るよ」
「え?」
急な発言に背筋が伸びる。彼のまっすぐな瞳が嘘をついていないと感じさせた。
「あの時計の針が真上を指したら」
時島の後ろの窓から見える時計台はあと一回長針が動けば真上に到達する。
「地震が?」
「違うよ」
そう言った瞬間、僕より少し右へボールが飛んできた。背中がじわりと汗をかいた。
「ビックリした」
「じゃあ僕は行くよ」
謝る野球部員と周りの学生の声で、呼び止める声が届かず結局闇の中だ。
そして、時島の予言通り長針が真上にきていた。
今夜九時に時島の予言通り地震が起きた。
彼は過去も未来も見てきたのかもしれないと奇妙なことを考えてしまう。
「本当かもしれない」
高嶺が時島に妙な渾名を付けていたが、今なら納得できる。タイム・スリップ人間だと。