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第9話、女神様からの『お願い』♡

 ──気がつけば、すべてが白一色に塗りつぶされた、異様なる空間にいた。




「……ここは、一体」


 あまりの有り様に、思わず俺の唇から、誰に問うわけでも無い疑問の言葉が、こぼれ落ちた、その刹那。




「──わたくしがお招きしました、勇気ある若者よ」




 突然、この場に響き渡る、涼やかなる声音。


 それとともに、唐突に姿を現す、一人の女性。


 純白のワンピースドレスに包み込まれた、二十歳はたち絡みの均整の取れた白磁の肢体に、緩やかなウエーブを描きながら足元まで流れ落ちている、黄金きん色の髪の毛に縁取られた、彫りの深く端整なる小顔。




 ──そして、あたかもサファイヤそのままに煌めいている、神秘的な青の瞳。




「……女神、様?」


 いかにもごく自然に、口をついて出る、つぶやき声。


 何とそれは、『大正解』であった。


「ええ、お察しの通り、わたくしはとある世界を統べております、女神にてございます。──汝、()()()()よ、自分とはまったく関わりの無い、幼い少女を救うために、身を挺してトラックの暴走から庇って、己自身がまさに今し方、某総合病院の集中治療室にて、身罷ってしまった、『自己犠牲精神』に満ちあふれた者よ、どうか、わたくしの願いをお聞き届けください!」


「……女神様の、願い、ですか?」




「あなたはこれからすぐ、わたくしの世界において、新しい命と肉体とを得て、生まれ変わることになっているのですが、その世界には強大かつ邪悪なるドラゴンがいて、人々の暮らしを脅かし続けているのです。──是非ともあなたには、この天災級の暴虐をほしいままにする怪物から、人々を守っていただきたいのです!」




「ま、まさか、俺にドラゴンを退治しろと、おっしゃるのですか⁉」


「そんな、御都合主義の三流Web小説でもあるまいし。いくら少々現代日本人の記憶や知識があろうと、一介の人間ごときが、転生してすぐに、ドラゴンを退治したりできるものですか」


「それでは、俺は何をすれば、よろしいので?」


「退治するには及びませんが、一時的な足止めだけをしてくだされば、結構なのです。──しかもこれは、あなた様で無いと不可能なのです!」


「強大かつ邪悪なるドラゴンの、足止めって、一体どうやって?」


「それは、現地にて実際に転生すれば、自ずと理解できるようになっております。──なぜなら、すべては、最初から定められた、『運命』によるものなのですから」




 ──運命、とな?


 やったぜ! ktkr!


 いやいやいや、これってまさに、俺が長年憧れていた、『なろう系』的展開、そのものじゃん!




 神に与えられた『ドラゴンスレイヤー』の宿命のもとに生まれた主人公が、『世界の敵』である邪龍を退治して、真の英雄として祭り上げられるという、まさしく中二病的妄想爆発のパターンですな!


 良かった、本当は相手が美少女だったから、大ピンチのところを助けてやれば、『命の恩人』としてお付き合いしていただけると思って、柄にもなく人助けをしようとしたら、ついうっかり自分のほうが命を落としてしまって、「ヤバいじゃん、これどうする?」と後悔していたところ、何と俗に言う『トラック転生』を果たすことになるなんて、これぞまさしく『棚ぼた』じゃん!


「──やります! やらせてください! ドラゴン退治だろうが、何だろうが! 絶対に、あなたの世界の皆様の、お役に立ってみせますぜ!」


「きっと、そうおっしゃってくださると、思っておりましたわ。──では早速、転生していただきましょう」


 そのように満面の笑みをたたえながら、女神様が言った、その瞬間。




 ──俺の目の前に、巨大な顎門を開けた、ドラゴンが現れた。




「……あ、え?」


 何が何だか、わけがわからず、意味のなさない、うめき声が漏れた。


 ……な、何だ、これって?


 幻覚か、何かか?


 ──いや、それにしては、目の前の口腔の奥ほどに垣間見える、炎のブレスの熱気が、実際にチリチリと感じられるし、俺自身もちゃんと肉体を持ち見覚えのない異国風の衣服を着ているし、何よりも何も無かったはずの周囲の有り様が、ゴツゴツとした岩場へと変わってしまっていた。


 ……こ、これは、ヤバいのでは?




 現下の状況について何一つわからないなりに、危機感だけを募らせていれば、先ほど聞いたばかりの、若い女の声が、頭の中で鳴り響き始めた。




「うふっ、うふふふふっ、あはっ、あはははははははははっ! ほんと、あなたたち『なろう族』って、救いがたきお馬鹿さんばかりですね。ちょっとわたくしたち『異世界の女神様』にお願いされただけで、何の疑いも持たずに、ホイホイ言うことを聞いて。実はうちの世界のドラゴンさんは、確かに強大かつ邪悪ではあるものの、年に一度人間を一匹だけ食べさせてあげれば、次の年に新たなる『生け贄』を捧げるまでは、大人しくしてくれるのですよ? 良かったですね、あなたの尊い『自己犠牲精神』のお陰で、たった一年だけとはいえ、世界の平和が保たれるのですよ。ほら、わたくしは別に嘘なんか、ついていなかったでしょう? 何せ、あなたご自身が、そのような『運命のもと』に生まれているのですもの。──そう、あなたはこれからもずっと、何度生まれ変わろうとも、自分以外の者を守るために我が身を犠牲にしていく、人生を歩み続けることになっているのです。どのような異世界に転生しようが、どのようなシチュエーションであろうが、あなたはただ、『自己犠牲』を繰り返すだけなのです。これってまさに、あなたたち『なろう族』の大好きな、『死に戻り』そのものとは思われませんか? どうです、念願の『なろう系』のWeb小説の主人公になれた、ご感想は♡」

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