第6話、正しい(転生)オークの使い(潰し)方。
【内務省警視庁衛生部直轄、『転生病監察医務院』、症例レポート第216号】
・疾病名、転生病『オークタイプ』。
・『発症者』は、四十代男性で、実社会での就労経験は無く、専門学校卒業後数十年にわたって、自宅にひきこもっていた模様。
・父親は、十年前に死亡。
・その後は、実母との二人暮らし。
・生活費はすべて、母親の年金頼み。
・非合法創作サイトで、異世界転生系の小説の投稿歴有り。
・いわゆる、典型的な『なろう族』。
・今回、『発症者』の発見に至ったのは、近所の住民による、「昼夜を問わず、悲鳴や奇声や怒号が聞こえてくる」、「耐えきれないのほど腐臭がする」等の、通報による。
※なお、『オークタイプの発症例』ではよくあることだが、同時に発見された母親の死体には、大型の動物に噛みちぎられたかのような、欠損部分が多々見受けられた。
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「……貴様、聖レーン転生教団の渉外司教、とか言ったか?」
「ええ、我が教団上層部と、あなた様のようなお役人様との、交渉役を担っております」
「ふざけるな! この資料をどこで手に入れた⁉ 我が転生病監察医務院の囚人──もとい、患者の病歴データは、国家機密並みの極秘データなんだぞ⁉」
「……まあまあ、そのようにいきり立たずに。そこら辺に関しては、『蛇の道は蛇』ってところですよ。何せ、聖レーン『転生』教団と、名乗っているくらいですからね」
「何が、転生教団だ? そんな胡散臭い新興宗教団体のくせに、よくもぬけぬけと、この内務省警視庁衛生部直轄の、転生病監察医務院に顔を出せたな? むしろおまらこそが、忌まわしき『異世界転生崇拝思想』を、巷に蔓延させているんじゃないだろうな?」
「……ったく。あのねえ、たわ言は、そのくらいにしたほうが、よろしいですよ、小役人さん?」
「なっ⁉」
「私が今ここにこうしているのは、国防大臣閣下の直々のご推薦によって、内務省警視庁衛生部長殿の許可をいただいているゆえであることを、どうぞお忘れなく」
「──うぐっ」
「あなたはただ、こちらから聞かれたことに、素直にお答えくださればいいのですよ」
「な、何で、こんな銀髪に碧眼という、完全に『敵性民族』の輩に、国防省が肩入れをしているんだ⁉」
「おやおや、これは時代錯誤な思考をなされていることで。あなた方『大日本第三帝国』の現在における仮想敵国は、大昔の『鬼畜英米』では無く、東アジア大陸の、自称『異世界帝国軍』でしょう? ──実は、私がこのたびこちらにお伺いしたのも、それに関連してのことなんですよ」
「……何だと?」
「本題に入りましょう、私がお聞きしたいのは、一つだけです。貴院においては今回の『発症者』を、いかがなされるおつもりなのですか?」
「何だ、そんなことか、どうせ貴様ら教団も、先刻ご承知なんだろう? 一応『再教育』できるかどうか試してみるが、同じ転生病でも、『勇者タイプ』や『魔王タイプ』のように、知性や理性が残っているやつならともかく、『オークタイプ』や『ゴブリンタイプ』のように、完全に知性や理性が吹っ飛んでしまっているやつには、どんな『洗脳』テクニックも用をなさず、結局は『処分』することになるのが、お定まりってところだよ」
「……もったいない」
「へ? な、何だよ、もったいないって?」
「確かに単に『なろう族』というだけでも、社会のお荷物であり、その上『オークタイプ』の転生病を発症してしまったんじゃ、もはや救いようはありませんが、ここはやはり『地球環境保護精神』に則って、ゴミはゴミなりに、有効に再利用すべきなのでは?」
「社会の癌の『なろう族』の、再利用だと? ──いやいや、何度も言うように、『勇者タイプ』とかならともかく、『オークタイプ』なんて、どう考えても利用のしようが無いだろうが⁉ オークといえば言うまでもないく、いわゆる『なろう系小説』においては、人間と見れば殺し、その死骸を喰らい、女と見れば種族にかかわらず犯すという、何よりも暴力と略奪を好む、純粋なる『戦闘種族』と決まっているくらいだしな」
「むしろそのように、『戦闘種族』であるからこそ、戦争やテロ行為に打ってつけとは思いませんか?」
「──っ」
「例えば、東アジア大陸のどこかの街角の雑踏のど真ん中で、数十名もの人間がいきなり、知性を失い凶暴化して、周囲の人々に無差別に襲いかかり、男を殺し女を犯し始めたら、どうなると思います?」
「そ、そりゃあ当然、大騒動になって…………いや、ちょっと待て! 『いきなり』というのは、何だ? つまりそれまで何の異常も無かった人間が、その場で突然、『オーク化』等の、『転生病』を発症するってことなのか⁉」
「ええ、かつての『令和事変』の際と、同様にね」
「──‼」
「そうなのです、ついに我々教団は、手に入れたのですよ。あの時『異世界帝国』側が使った、『逆転生の秘術』をね。──とはいえ、残念なことにも、成功例はいまだごく少数に過ぎません。そこで貴院には、収容中の転生病発症者を『検体』として、提供していただきたいのですよ。何せ『異世界転生という概念』を他の誰よりも熟知し、自分自身も異世界転生の実現を熱望している、転生病患者ほど、『逆転生の秘術』を実現するためにうってつけの、『実験動物』は存在しませんからね」