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第22話、202×年、GINZA〜『令和事変』その12

「……ごんわら君」


「うん、何です?」


「君の言っていることって、完全に矛盾しているんじゃないのかね?」


「ほう、どこがです?」




「君は、我々があくまでも現実の存在であることを主張しながらも、その一方で、現在我々が置かれている状況の一部始終を描いた、881374なる人物が作成したWeb小説、『本当は怖い異世界転生⁉【病院編】』の存在をほのめかすといった、完全に『メタそのまま』なことを言っているではないか? これではとてもこの世界の現実性を、無条件で受け容れることなんてできはしないよ!」




「──いえいえ、話はむしろ、逆なのです。すなわち、自分の存在する世界の『虚構メタフィクションの可能性』を自覚しているからこそ、現実性を確定することができるのですよ」




「「「………………………………は?」」」




「世界の虚構性を自覚しているからこそ、現実性を確定できるだと?」


「だから、君のそいういったところこそが、『矛盾』していると言っているんだよ⁉」


「そもそも小説の登場人物が、自らの虚構性を自覚したりすれば、むしろその世界の現実性が崩壊してしまうではないか⁉」


 いきなり開陳された『トンデモ理論』に、当然のごとく非難囂々の、我が国の首脳陣。


 しかしそれに対して、当の提唱者である白衣のマッドサイエンティスト然とした男は、更なる問題発言をぶち上げた。




「そんなことはありませんよ? 『過去へのタイムトラベル』はもちろん、Web小説の代表的イベントである『異世界転生』においては、作者自身に『メタ的視点』があってこそ初めて、真に現実的な作品を作成することができるのですから」




「「「──っ」」」




 完全に言葉に詰まる、お偉方。


 ただし別に、司会兼解説役の白衣男の言葉に、感銘を受けたわけではない。


 むしろ、「……こいつ、またヤベえことを、言うつもりだな⁉」と、確信しただけであった。




「Web作家に限らず、小説家というものは、どうしても『主人公原理主義』に陥りやすく、主人公がタイムトラベルや異世界転生といった非現実的なイベントを行い、過去の世界や異世界こそをメインの活躍の場にすることになったとしても、現実の世界なのはあくまでも、もはや作中にほとんど登場することの無い、元々主人公がいた『現代日本』だけであり、過去の世界はすでに確定された歴史書上の記述のようなものに過ぎず、異世界は中世ヨーロッパレベルのいかにも書き割り的世界でしかないのであって、あくまでも『虚構の存在』としか捉えられず、作品そのものも、戦国シュミレーションゲームや剣と魔法のファンタジーRPG等の、いわゆる『ゲーム転生』を行ったかのように、『つくりもの世界』としか描写されないですが、これは()()()()()()()なのです!」




「「「──いやあああああああああああああああああっ!!!」」」




 今や阿鼻叫喚の地獄絵図となる、厚生労働省の大会議室。


「お、大きな大間違い、だと⁉」


「これまでの時間SFや、異世界系Web小説を、全否定するつもりか⁉」


「それこそ、この世界を題材に小説を創っている、881374とやらの作家生命を、絶ちきってしまいかねないだろうが⁉」


「何この、作者自身が『恐怖』を感じるという、斬新なホラー小説は?」


「……確かに、これ以上危険極まりないホラー小説なぞ、ネット中探しても、他には無いだろうがな」


「こんなのを題材に小説化して、一体誰が得するというのかね⁉」


 ……まさしく、おっしゃる通りであった。


 だが、たとえ誰に理解されなくても、たとえ独りよがりの誹りを受けようとも、己が信じる『真理』を追求することこそが、マッドサイエンティストがマッドサイエンティであるがゆえの、孤高なる生き様であったのだ。




「だって、その者にとっての現実世界とは、あくまでもその者が現に存在している世界のみですので、過去の世界や異世界の人々だけでは無く、主人公自身にとっても、過去の世界や異世界こそが、『現在における唯一の現実世界』なのであって、過去にタイムトラベルしたとか異世界に転生したとか言うのは、今となっては主人公の()()()()()()()のですよ」




「「「なっ⁉」」」




「……おや、皆さん、どうしたのですか? 私は極当たり前のことを申しただけですよ、別に驚くことでも無いでしょう?」


「──驚くよ!」


「どこが、当たり前だよ⁉」


「君は、これまでのすべての時間SF小説や異世界系Web作品を、単なる妄想のようなものでしか無いと、決めつけたようなものなんだぞ!」


「これで、881374とやらも、完全に終わりだな!」




「でも、過去へのタイムトラベルや異世界転生が実際に行われることよりも、主人公が単なる妄想癖であることのほうが、絶対に『現実的』ではありませんか?」




「「「──‼」」」




「結局、話は単純なのですよ、すべてはさっきも申しましたように、『その者にとっての現実世界とは、あくまでもその者が現に存在している世界のみである』に尽きるのであり、それはたとえ『主人公』であろうと、例外ではありません。だって、どんなに彼が『俺は異世界転生したからこそ、この剣と魔法のファンタジーワールドなんかにいるんだ!』とか主張したところで、()()()()()()()のだから、言い張れば言い張るほど、『妄想癖』のレッテルを貼られるだけのことなのですよ」

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