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光景


 Hiroshi Yoshimura (吉村弘) - Soft Wave For Automatic Music Box


 を 聴きながら


 ””


 ふわあ、と、なんとも……弁舌出来ぬほど……の奇妙な雰囲気を……感じましてね……なんとも……妙な、感じ……と、申しますか……表現するなら、何とも奇妙な……そう、空間が……歪んでいる……とも申しましょうか……。ひどく、奇妙な感覚がしたので御座います。そこには、なんとも……妙な……今、思い返しても奇妙で御座いますが、白っぽい靄のようなものも、煙草の煙のようなふわあ、としたものがね、筋のように横に漂ってましてね……今でも少し、思い出すと奇妙な感じになりますわ……


 私は、そこで、きゃっきゃっ、遊ぶ、子供の声を聞きましてね……。そこでは……何とも奇妙なことに、私の忘れられない子供の頃の初恋の少女が、私の父親の8ミリ映写機を弄って、何か写真を映写しているので御座います。そして、そこには、その少女と、当時の私が楽しそうにきゃっきゃ 映写機から映し出された写真を見つめて、筋のように横に入った光と靄の中で、遊んでいるので御座いますよ。


 映し出された映像……子供の頃の私と彼女の映像を映しながら戯れる様子が、何とも温かく感じましてね……、最初感じていた奇妙な感覚はどこへやら、私は、身体を全く動かすことも出来やしません。少しでも物音を立てようものなら目の前の幸せな光景は掻き消えてしまうと……思えてならなかったので御座います。私は、必死に咳払いも身体を動かすこともせず、耐えました。


 あまりにも、じっとその温かな光景を穴のあくほど見つめていた……から、で御座いますか……私は、気づけば、その幻影の一面から生まれる二面を見つめ始めていた……ので、御座います……。

 

 ……すなわち、その映し出される映像の情景……で、御座います。


 ……そこには、……私が、目を背けたい罪が繰り返し繰り返し、映し出されていた……ので、御座いますよ。


 ……私は、脂汗が止まりません。苦痛の情景からどうにか逃れたいと、あれほど我慢していた声を上げようとしたので御座います。……そこで、口を開こうとして、……ぱっと、私の方を、嘗ての子供時代の私と、初恋の少女が、もの言いたげな眼でじっと見つめたので御座います。


 ……それは、一分程で御座いましたでしょうか……。


 ……私は、冷や汗が止まらず……。全ての幻影が掻き消えた時、へなへなと、そのまま床に座り込み、そのまま涙を止めることが出来ずに、泣き崩れた……ので、御座います。



 ……その映像に映し出されていたのは、戦後、私に必死に尽くした私の母親の布団に伏せた、姿であったので……御座います。……当時の部屋は、何もなくてねえ、陰気くさく、せんべい布団に母親を寝かせたまま、私はよく、母が必死に貯めたお金を元手に、キャバレー通いにはまり、そこで知り合った女と毎晩遊び歩いていたので御座います。

 

 ……母は、その日、その冷たいせんべい布団の上で……私が帰った朝方には……既に冷たくなって……おりました。

 

 ……母の遺骨はそのまま、骨壺に入ったまま。忙しさを言い訳にして私は葬式もあげておらず、母の墓も建てることをせず、……文字通り、放っておいた……ので、御座います。


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